第3回アドボ会                                     平成13619

武蔵野市障害者総合センター  地下会議室

参加9名   

報告者 武藤 政幸氏

地域生活援助センター「びーと」での相談事業

 

<報告>

 

障害のある人の中には、自分の考えや思いを正確に表現することが苦手な人や困難な人がおり、暴力を振るわれたり財産を取られたりといった権利侵害にあいやすい。また、権利侵害にあっても自ら相談機関に救済を申し出ることが困難なために、侵害がより深刻化してしまう実態も多く見られる。

  地域生活援助センター「びーと」では、電話や来所による窓口相談で、職場や友人との人間関係や、今後の生活についての不安など、あらゆる相談に応えている。しかし、知的な障害がある人の中には、何を悩んでいて何が困難であるのかも自分で判断できない人も多く、窓口相談としてアクセスするところに至らない場合も多い。

「びーと」では、レクリエーション的なプログラムを実施して参加を促す中で、本人のニーズや状況を察知し、問題の把握や確認、整理に役立てている。まずは気軽に話しの出来る関係作りから始まり、電話や来所による窓口相談、レクリエーションプログラムへの関わりが、あらゆる問題解決への第一歩と考えている。

「びーと」は、問題解決のために立ち入り調査をしたり、事情聴取をするなどの権限を有していない。また、生活支援のためのヘルパー等の人材も抱えておらず、一時的にでも対象者を保護することの出来る設備や、施設を持っているわけでもないし、何らかの法的な対応を必要とする場合も、専属の弁護士がいるわけでもない。そのため、地域における関係機関との連携が唯一の拠り所であり、それがネットワーク作りの原動力にもなっている。相談者の思いや意思を尊重しながら、その人が安心した生活を送れるよう応援することができればとの理念を軸に、相談活動を行っている。

 

知的障害者にかかわる相談

知的障害者にかかわる相談の場合、本人からの相談が際立って多い。日常生活の中で自分の思いが遂げられない苛立ちや人間関係でのストレスなど、やり場の無い気持ちをストレートに伝えてくる人や、もやもやした気持ちばかりが先行し、いったい何が原因であるのか、どうすれば解決できるのかが皆目検討がつかないといった人まで様々である。自らの相談内容を明確に出来難い人達へのアプローチは、日頃からその人との関わりがどれだけ深められているかが鍵を握る。その関係の度合いで本人の微妙な感情のニュアンスや、危険信号の察知が可能となるからで、窓口相談だけでないレクリエーション的な関わりが大きな情報源であり、この人達の相談援助には欠かせないものになっている。また具体的な支援の実施に至っては、本人の意思能力の確認が不可欠であり、その意思に基いてサービスを実施している。残念ながら意思確認を判断する科学的なスケールは未だ用意できてないが、私たち援助者にとっては本人の意思が唯一の後ろ盾であり、サービスを実施できる根拠となっている。しかし意思確認が困難な人や、本人と家族、関係者等との意思が異なる人への支援のあり方が、これからの課題である。

 

 

事例 1

知的障害者本人の財産管理と借金返済、将来設計について

 

《事例概要》  知的障害者がサラリーマン金融から借金をしたり、クレジットを利用して不要な買い物をしたという相談が時々入ってくる。借金に対する本人の自覚が希薄で、経済観念や先々の生活についての計画性も乏しく、依存的な面も多く見受けられる。

 

対象者》  軽度知的障害者(男性)、60代前半。

 

相談者》  本人

 

《家族状況》  実父は本人が10歳の時に、母親は42歳の時に既に他界している。 4人兄弟の長男として生まれたが、生存しているのは実弟1人だけである。しかし、実弟とも母親の財産をめぐっての裁判訴訟を契機に関係が途絶えている。本人は子供の頃より児童の生活施設を利用し卒園後に就労するが長続きせず、清掃員や運送業を転々としながら母親の援助を受けていた。母親死亡後、昭和63年に遺産相続として本人名義のマンションを購入、単身生活が始まる。

 

《相談内容》 平成5年あたりから生活保護を受給し始めるが、60歳を迎えるにあたり老齢年金の受給資格があることが判明し、ワーカーの勧めで保護を廃止してしまう。しかし実態は年金から医療費や保険料、税金等を差し引くと保護費よりも生活費が低くなってしまうと言う状況で、厳しい生活状態に変わりはなかった。また単身生活の孤独を紛らす唯一の手段が電話であったが、広告で知ったダイヤルQ2や伝言ダイヤルにはまってしまい、気がついた時には70万円近くの負債となり、怖い男性から返済の催促があって夜も眠れないというのが主訴である。

 

 《対応概要》 来館による窓口相談や電話相談に加え、専門的な見解や事例などについては他の専門機関にも問合せた。

@      NTT、KDDに支払い金額の照会をした。

A      請求書が届いていない業者に明細の入った請求書を要求した。

B      消費者ルームに事例の照会と助言を求めた。

C      市)法律相談で弁護士に法的な対応策について助言を求めた。

D      今後の返済方法についての案をまとめた。

 

          以上の経過をたどりながら次の事柄が明らかになった。

         消費者ルームからは、請求書が届かずその明細が不明確なものの請求については支払う必要が無いと言われた。

         こちらの住所や電話番号などを知らせると、自宅まで取り立てにくることもあるので注意するように促された。

         実際に訪問を受けて被害を被ると言った事実がないと、対応が出来ないと警察から言われた。

         生活費について、生活保護の受給申請をするには、まず年金を担保に生活資金の貸付を利用し、借金返済後に市役所へ来る様、指摘を受けた。

 

 《解  説》  実際に脅されるような電話が数回有り、本人としては沈黙を守れず自分の住まいの所在について通知してしまった。その後事実確認は出来ていないが、夜中にドアをたたく音がしたとか、ドアの鍵をこじ開ける気配があったなどの訴えが有り、警察にも通報している。この状態から抜け出すべく本人は相手先と直接電話で返済についての約束をし、年金の中から返済額や期間までも取り決めてしまった。しかし、食費さえ事欠く状況の中、返済に充てる費用など無く、結局本人との相談の上、国民生活金融公庫から年金を担保にお金を借り、返済に充てることにした。借入金のほとんどが返済金に充てられ、その後の生活費は生活保護を申請し、受給することになった。住まいは老人ホームへの入居を勧め、来訪者からの恐怖を取り除いた。

         今後の生活設計としては、本人の希望により空家となった自宅マンションの売却手続きを弁護士を通して行う予定だが、まとまったお金が入った時の金銭管理についての不安も多く、今後の課題となっている。

 

 

 

事例 2

行政的支援を拒まれた知的障害者の生活支援について

 

《事例概要》  ホームレスや不良少年と呼ばれる人達の中に、知的な障害を有する人がいるケースがある。たまたま生活困窮に陥り、行政サービスを受ける段階になって、初めて知的な障害があることが認められた人の中には、社会的な問題も多く抱えている。

 

対象者》  軽度知的障害者(男性)、20代前半。

 

相談者》  本人

 

《家族状況》  実父は近隣に在住するが実母と離婚後、他の女性と生活をしていることもあり、本人との関わりにはまったく応じない。実母は軽度の知的障害があり、他市の施設で援護を受けている。本人は幼少のころから実父の暴力に合い、その反動を母親への暴力という形で向けてしまうことから、中学入学の頃から家庭を離れ、養護施設で成人まで過ごしていた。その後、アルバイトなどを転々としていたが生活困難となり、保護費を受給するようになった。

 

《相談内容》 大勢の友達をアパートに呼び大騒ぎをしたことから、家主より退去を命じられた。また、オートバイをローンで購入したり、保護費の請求に当たって担当ワーカーを脅すと言った言動も見られたことから、保護の廃止を言い渡され、生活に困窮している。

 

《対応概要》 来館による窓口相談や電話相談に加え、ケースワーカーに事情を確認した。また本人の行動や発言について、知的な障害や家庭環境の影響など考えられる要因を整理し、保護費の再審についての交渉を行った。しかし、臨時的な措置としての緊急援護費を受給するに留まり、この間を利用して就労先及び居住地探しを余儀なくされた。当面はカプセルホテル等を利用していたが所持金も底を尽き、公園での夜明かしが続いた。健康、安全、生命の危険にも及ぶ状態でありながら、行政的な対応が進まぬため、住み込みでの就労に結びつけた。

 

 《解  説》  その後、就労先を飛び出してしまい再びホームレス状態となるが、管轄の行政機関が異なることから生活保護の再申請と、居住地の確保について再度交渉。養護施設の暫定的な利用と、理解のある企業への就労斡旋を勧められ、とりあえずの生活の場を確保することができた。

本人の意思と言うよりも、生きるための策として多少乱暴な支援方法であり、行政機関との関係についても課題を残したケースである。今回の場合に限らず、障害がある人が単身で生活を維持して行くことの難しさを改めて実感する支援であった。

 

 

事例 3

障害基礎年金を申請する際の窓口対応について

 

《事例概要》  企業就労をしていると言ってもその実情はパート就労であったり、準社員といった不安定な雇用契約の場合が多い。従って給料も十分な額ではなく、単身生活やグループホームへの入居すらも困難な状況である。軽度知的障害者の所得保障という点で、障害基礎年金の受給はまさに本人の人生を大きく左右するものである。

 

対象者》  軽度知的障害者(男性)、40代前半。

 

相談者》  本人

 

《家族状況》  実父母と同居中だが両親とも高齢で、本人への援助は望めない。また、両親は行政機関等との関わりに否定意的で、援助者が訪問することもできない。本人は4人兄弟の長男で、他の兄弟は結婚を機に別居している。幼少の頃から兄弟仲は悪く、援助を望める状況にない。 

 

《相談内容》  現在一戸建ての自宅に両親と3人で生活をしているが、高齢の両親の亡き後、自分が今の場所で生活が続けられるかに不安を抱き、自立も含めて将来の生活設計と経済面についての援助を求めている。また、結婚も考えていることから障害基礎年金の申請を希望しており、保険年金課の窓口を訪ねた。しかし、障害の程度が軽度で一般企業に就労している人は年金が出ないと窓口で言われ、申請書すら受け取れなかった。今後の生活について不安がある。

 

《対応概要》 本人と保険年金課に同行し、本人の意思と希望を整理して窓口担当者に伝えた。審査により年金が受給できるかどうかはわからないと念を押されたが、とにかく申請だけでもしたいと伝え、申請書は受け取ることができた。また、申請書は家族が記入するのが原則と言われたが、家族援助が得られる状況にないため、事情を年金課に話して援助者が代筆することで了承を得た。それに主治医の所見を加え、履歴は本人の記憶をたどりながら記載し、申請書が完成した。

受給については周囲も本人も諦めていたが、数ヵ月後、年金受給の決定通知書が届いた。40歳を過ぎるまで受給は困難と窓口や担当ケースワーカーから言われ続け、これまで一人暮らしや結婚生活を諦めていたが、夢ではなくなった。喜びと共にこれまでの空白の時間に憤りを感じずにはいられなかった。

 

 《解  説》  障害の状態だけでなく、過去の経歴や学歴等で職業選択の幅が狭められたり、安定した雇用契約を結べないなどの例は後を絶たない。実際に企業就労していると言っても月額の平均給料は、ほとんどの人が10万円を切る額である。これでは自分の描くような生活など到底出来るわけがない。障害の程度や企業就労しているか否かを問うのでなく、その人が今どのような状況にあり、何を希望しているのかと言う点にもっと着目していただきたい。窓口やケースワーカーの判断でどれだけ多くの人が自分の夢や希望を失い、また人生を狂わせてしまったかは計り知れない。就労にしても年金にしても、結果ではなく、とにかくチャンスさえも得られないのが現況である。

 

 

事例 4

行政機関の職員採用試験におけるハンディキャップについて

 

《事例概要》  知的障害者の中には、はっきりと自分の希望する職種について意思表示する人も少なくない。経済的な裏付けや実際の業務内容に耐えうるかどうかは別として、憧れとしてでも職業を選ぶ権利はある。しかし、多くの知的障害者の場合、希望職種の採用試験にトライすることすら実現できない状況である。他の障害と比べても試験を受ける環境が整っていない。

 

対象者》  軽度知的障害者(女性)、20代後半。

 

相談者》  本人

 

《家族状況》  両親の離婚後、本人は母方に引き取られ二人で暮らしている。妹が一人いるが、すでに結婚をして別居状態。家族関係は良好だが、病弱の母の面倒と、経済的な支援を本人が担っている。

 

《相談内容》 養護学校卒業後、進路担当教員の指導で清掃の仕事に就いた。しかし、本当は銀行員のような制服にあこがれ、制服を着て仕事がしたいと思っていた。また、子供が好きなので保育園での仕事も希望していたが、養護学校卒業と言う履歴と周囲からの反対を受けて、希望は叶わなかった。現在は郵便局の下請け作業をしているが、安定した仕事に転職したいと思い、市役所の採用試験を受ける手続きを踏んだ。しかし、試験問題にふりがなが振っていないと漢字が読めないし、質問の内容が難しい場合に答えようがないと思うと不安でしょうがない。試験会場に付き添いを付けることができないだろうか。

 

《対応概要》 採用試験の担当窓口に直接電話をかけて、率直に尋ねてみた。即答ではなく時間が欲しいとの事で、とりあえず検討はしていただくことになる。しかし、数日後に届いた回答は、「NO」。援助者なしで試験に臨むことになった。結局不採用となり、現在は喫茶店でウエイトレスをして働いている。だが諦めたわけではなく、チャンスがあればまたトライしたいと思っている。

 

 《解  説》 かなり難しい問題も多く含んでいると思われるが、視覚障害者や聴力障害者が受験する際に環境の配慮があるように、知的障害者についても何らかの配慮があっても良いのではないかと思う。本人の自己選択等が叫ばれる中、選べてもアクセスができないのでは絵に描いた餅である。職業という生きることに直結するこの分野においても、自由に自分の意志を表現し、また挑戦できる様な環境整備が望まれるところである。

 

 

 

以 上

 

< 討議 >

 

・地域において知的障害がある人の一人暮しはそれほど多くはない。

・生活支援事業どうしの交流やネットワークはほとんどない。

・知的障害のある人どうしの情報交換の力は結構大きい。

・就労支援と生活支援は、密接に結びついている。

・知的障害のある人が地域で暮らすにはなにが必要なのか?

・知的障害のある人には、職業選択の自由がない。

・就労支援の実際について。

・知的障害のある人の多くは地域で暮らしたがっている。

・自立体験寮について。

・障害のある人の権利を守る「環境」を作る。