福祉サービスと契約
弁護士・医師・ニューヨーク州弁護士
児 玉 安 司
1 「契約」とは何か
世界で最もたくさん頒布されている契約書は?
−「ひとり」の契約
−一家に一冊契約書
日本人の契約書、欧米人の契約書
@ 日本人の契約書
−短く抽象的によいことを書く
−契約書に書いていない「信頼関係」の強調(誠実協議条項)
−契約を破ったときの備え、同意を得られないときの備えが薄い
A 欧米人の契約書
−長く具体的によいことも悪いことも書く
−契約書に書いていないことは何もない(perfect agreement条項)
−契約を破ったときの備え、同意を得られないときの備えが厚い
B 文化的背景の違い
−(日)誠意を見せる?察し?思いやり?
−(米)自分の権利は自分で守る?
「牛乗せて小舟渡るや夕時雨」
異文化としての法律、契約、訴訟
2 契約書の検討手順
アウトライン作成
@ 契約の当事者は誰か
A どんなサービスを提供し、いくらの対価をもらうのか
B サービス=対価の細目
C 事情変更によるサービス=対価の変動
法律的検討
@ 権利(義務)の発生、移転、履行、消滅
A 法律(任意規定か強行規定か)
B 裁判例
例 安全配慮義務
C 行政命令、条例、通知通達
例 運営基準
D 条項として書けば法律判例を修正できるか
E 書かないとどうなるか、書くとどうなるか
−契約の合理的意思解釈
−例文解釈(当事者がその条項に拘束される意思がない)
F 全体としてバランスのいい契約になっているか
実務的検討
−片っ端から約束を破ってみよう
@ 債務不履行の要件
−何が契約違反(債務不履行)となるのか
A 債務不履行の要件事実
−債務不履行というために、
どちらが何をどれだけ証明しなければならないか
B 債務不履行の効果
−強制履行?
(−地位保全?)
−損害賠償?
市場でのコスト・ベネフィット
@ 双方にとってのコストと経済的利益
A 市場の需給状態
−現状追認
−消費者を有利にして利用者保護?
−供給者を有利にして市場参入促進?
B ゆがみが出たところのリスク転嫁
−公費?
−保険(業界の負担=リスク経費+保険会社の経費・利潤)?
C 行政のコントロール
−どんな法的手段をもっているか
−法的手段を実現する人的・物的資源の問題
−行政コスト
イメージ作り
−いうべきか、いわざるべきか
−あえて書いてイメージ作り
−あえて書かないで、行政、司法に委ねる
現場へのフィードバックと再検討
−消費者側
−供給者側
契約は守られるか、空洞化するかの予測
−全体としての歩どまり
−個別の悪質事案?
3 措置から契約へ?
消費者保護のふたつのモデル
@ 消費者選択モデル(consumer choice model)
−消費者の合理的な行動??
−perfect information(消費者への完全な情報提供)??
A 消費者福祉モデル(consumer welfare model)
−ガイドライン設定者の合理的な行動??
−perfect information(現場からの完全な情報提供)??
コースの定理とその限界
@ コースの定理(Coarse’s theorum:transaction cost=0ならば、権利義務の存否にかかわらず資源配分はパレート最適となる)
A 飲み会モデル
−十分な酒と食物を用意しても、飲みすぎ・食べ過ぎ、飲み足らない・食べたらない人が出る
−解決策A 鍋奉行、酒奉行をおく?
−解決策B 情報公開 ?
4 まとめ
天秤の支点としての契約条項
−無限の選択肢がある
国家による規制か、市場による自律的秩序か
福祉「サービス産業」の将来展望
−弱者保護と競争社会のせめぎあい
以上