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民主党の障害者政策について 岡部耕典 9月19日の記者会見において長妻昭新厚生労働大臣が「障害者自立支援法を廃止すると明言」というニュースが新聞紙上を賑わしたことはまだ記憶に新しい。ただし、これは選挙前に発表された民主党マニフェストにおいて「障がい者等が当たり前に地域で暮らし、地域の一員としてともに生活できる社会をつくる」ために「『障害者自立支援法』を廃止し、『制度の谷間』がなく、サービスの利用者負担を応能負担とする障がい者総合福祉法(仮称)を制定する」としたことを改めて新政権の担当大臣として確認したということに過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。 「自立支援法の廃止=総合福祉法の制定」とあるマニフェストの後半には、新たな福祉法の制定は「わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、『国連障害者権利条約』の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に『障がい者制度改革推進本部』を設置する」という枠組みで行われることも明記されている。つまり、「自立支援法廃止」というワンフレーズに情緒的反応するだけではなく、この「障がい者制度改革推進本部」という政策推進機構とその根拠法となる「障がい者政策改革推進法(案)」から民主党の障害者政策の今後の進め方を読み解いていく必要がある。 この新たなスキームについて民主党障がい者政策PTが作成した説明図がある。この図によれば現行の障害者施策推進本部が障害者政策に関する官僚主体の省庁縦断的な調整機関であるのに対し、新たに構想されている「障がい者制度改革推進本部」は障害当事者(を過半数とし)学識経験者及び事業者から構成される(20名以内の)「障がい者制度委員会」及び「各課題別専門委員会」による調査審議を踏まえ「障がい者の意見を反映」しつつ政治主体で「現行の障害者施策の基礎となっている法制度そのものを抜本的に改革する」機構であるという。また、その実施に必要な事務は関係各省庁内ではなく「障がい者等で民間の優れた識見を有するものの登用」を前提とし「内閣府において一元的に処理」するともいう。 もちろん詳細についてはこれから詰めていくことになるのだろう。しかし、今回提起されている民主党の政策立案スキームは西欧諸国では広く採用されている政策決定過程への当事者参画及びステークホルダーによる合議調整に基づく政策決定方式を日本でも実現させようというこれまでにない画期的な取り組みであること、これはまず(素直に)認めてもよいのではないか。 二番目に確認すべきは、この「障がい者制度改革推進本部」がたんに障害者自立支援法の改廃を目的とする仕掛けではなく、「『国連障害者権利条約』の批准に必要な国内法の整備を行うために」「障がい者に係る制度の抜本的な改革と基盤整備」に包括的に取り組む機構であるということである。 権利条約の批准を踏まえ日本障害者フォーラム(JDF)が行った各省庁との意見交換会に参加してきたが、権利条約が求める「障害当事者を政策の客体から権利の主体へ」というパラダイムシフトを現在の縦割り官僚機構の枠組みのなかで実現することは極めて困難であると思う。従って、権利条約の批准を障害者自立支援法をはじめとする必要な国内法の総合的・包括的な改正を伴わない形式的なものとさせないためには(実は先の通常国会ではその瀬戸際までいったのだが)所轄省庁の外にこのような機構を設けることが不可欠であろう。もちろんいわゆる「小泉改革」の手法を他山の石とし「政治主導」の独善に陥ることは避けなければならない。が、そのためのセーフガードとして「委員会」及び「事務局」への当事者参画の仕組みや5年の設置期限などが設けられているということでもある。このあたりをどう考えるか。 三番目に押さえるべきは、「本部」を設置するための根拠法として4月14日に参議院に提出され審議未了のままいったん廃案となった「障がい者制度改革推進法(案)」の内容である。同法案は早ければ次の臨時国会にも再提出されるだろうが、その第4条から第18条までに本部が推進すべき「基本方針」としてこれまでの障害者運動のいわば悲願ともいうべき内容が明記され、権利条約批准にあたって必要な改革として約束されていることにも大いに注目すべきである。 具体的には、障害者差別禁止法及び障害者虐待防止法の制定、選挙へのアクセスや司法に係る手続きの確保、インクルーシブ教育への転換、情報バリアフリーの推進、障害者法定雇用率を引き上げ及び対象範囲の拡大、障害年金の支給額の引き上げと支給対象者の拡大、無年金障害者の救済、住宅手当の新設、障害の範囲の拡大、手帳制度及び障害程度区分の廃止とニーズ本位の支給決定方式への変更、応益負担から応能負担への変更等などが挙げられている 。もちろん、これらを実現する道程は必ずしも平坦ではなく、各論の具体策をめぐっては立場によって意見が分かれるところもあるだろう。しかし、それゆえ、それらをきちんと議論し合意形成を行っていく場である「委員会」がきわめて重要な役目を担うということでもある。さらにこのあたりもどう考えるか。 このような目的達成型・熟慮(deliberation)型のスキームを、これまでの政策官僚主導の政策決定方式では在り得なかった「直球」としてきちんと評価/支持し、そのうえで、その確実な実行を担保するためにステイク・ホルダーが誠実かつ粘り強く(しこしこと)コミットメントし続けること、つまりはそのようなことが求められている。 |
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