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支援費制度における利用者本位の受給支援システムの検討 ―アメリカの自己決定/受給者本位モデルを参照して― A Study on the Consumer Centered Planning Support System of the Assistance Benefit Supply System for Person with Disabilities in Particular Reference with the Self-Determination Model with Consumer Budget Control in the United States 岡部 耕典 社会福祉学 45巻1号 (2004.07) (pp.13-21) T はじめに 障害福祉サービスの制度の多くが,措置制度から支援費制度に移行することで,障害福祉サービスに対する公的な役割は,直接的なサービス提供ではなく,その基盤整備とサービス費用の供給を中心とするものとなった.しかし,利用者の主体性の尊重が理念として掲げられ,サービス費用の供給がシステムの主要な役割とされたににも関わらず,実際の支給の安定化をはかるシステムの整備は不充分であり,また,支給決定をめぐる利用者側からの不満も多い. そこで,本論では,まず,支援費制度における給付をめぐる構造と求められるミクロとマクロの財政安定化について論じる.続いて,ミクロの次元での利用者に対する給付が安定化するために必要なメカニズムに焦点をあて,サービス調整過程における要介護認定とケアマネジメントの意味と位置付けについて整理を行う.最後に,アメリカの発達障害者福祉サービスにおける自己決定/受給者本位モデル(the Self-Determination Model with Consumer Budget Control)を参照しながら,支援費制度のサービス調整過程において必要な利用者の受給支援のシステムについて,検討を行う. U 支援費制度におけるマクロとミクロの財政/財源問題 1. 支援費制度における必要と割当の調整 社会福祉基礎構造改革の一貫として,2003年より障害福祉サービスは,原則的に支援費支給制度に移行された.このような措置から利用契約に基づく制度への移行は,措置制度に代表される行政手続モデルから介護保険制度に代表されるサービス利用過程モデルへの移行という社会福祉の政策動向に基づくものである(小林2002). このようなサービス利用過程モデルにおいては,サービスの民間からの提供が原則とされ,そこにおける主たる公共の役割とは,そのための基盤整備と費用供給システムの構築であり,費用提供をうけてのサービスの利用は,利用者の自己決定・自己選択を原則とし契約に基づくものとなる.その結果として,措置によるサービス決定がその費用支出を基本的に担保する行政手続モデルとは異なり,サービス利用過程モデルにおいては,利用者個人がサービス購入に必要とする費用調達の最終責任を負わなければならない. 一方で,その費用調達の原資の中心となる給付の配分は,必ずしも利用者の必要のみによって得られるものではなく,割当(rationing)による制限をうける. 割当とは,「資源が必要量に対して不足しており且つ,価格が配分機能を果たさない状況において用いられる,資源配分の総称」(坂田1991)であり,基本的には予算に規定され,行政から利用者へ向けられて決定される配分であり,利用者の求める必要(need)に基づく分配要求とは,基本的に異なるベクトルをもつ.従って,福祉サービスの分配に対する利用者個人の必要を満たすことと,限られた資源の分配に対する社会的承認との両立は,必要と割当の適切な相互作用を図る調整メカニズムが機能しなければ,もともと困難なものである. 2.マクロのレベルにおける割当と必要の調整メカニズムの問題 しかし,現状の支援費制度は,この割当と必要の調整メカニズムに下記のような3つの問題を抱えている. 一番目は,新しい制度の開始時に必須である必要量の調査と計画化がほとんど行われなかったことである.特に地域サービス等の新しく,またこれから伸ばしてゆく政策意図もあるサービスについては,制度の開始時にニーズ調査が行われ,予測された必要量に対し,予算の裏づけが確保されなくてはならなかった.しかし,支援費制度開始の初年度では,少なくとも公式には,国レベルでのこういった調査は行われず,インクリメンタリズム(incrementalism)による予算額が設定されてしまった. 二番目は,必要なサービス量の変動に対する調整のしくみをもたないことである.必要なサービス量が利用者個人から積み上げられるならば,そこには地域差があり,その総量についても年度ごとに変動するのは当然である.いかに綿密なニーズ調査に基づこうとも,この変動を予算だけで対応するならば,必ず余ることを前提とした多めの予算を組まない限り困難であるので,そこには本来,調整基金のようなシステムが必要であった. 三番目は,地域サービスのための支援費に対する国庫負担の担保が弱いことである.支援費支給制度導入の大きな目的のひとつは,地域サービスの推進であった.それにも関わらず,地域サービスの費用をまかなう居宅生活支援費の財源には,国の負担が制度の上できちんと担保されていない.居宅生活支援費は,予算の区分としては,国庫補助金,すなわち,行政が任意におこなう裁量的経費であり,当初予算を超えるような利用実績に対しては,国庫負担率の縮小もありえる制度設計となっている. これに対して,同じ支援費でも,施設訓練等支援費は,義務的経費,すなわち,支出に責任をもつ経費とされ,当初組んだ予算に関わらず,利用実績に基づく法定の国の費用負担は保障される. このようなマクロのレベルでの支援費制度における割当と必要の調整メカニズムの問題が近年の財政危機で顕在化し,2003年1月に「ヘルパー基準額(上限枠)設定問題」が起こることになる.1) 3.ミクロのレベルにおける受給支援の必要性 このようなマクロの問題と並んで,支援費支給制度においては,ミクロのレベルにおける割当と必要の調整メカニズムにも問題がある. それは,支給決定における行政裁量が強すぎることである.本来は,支援費の支給とは直接的サービス提供に替わる公的責任であるはずだが,現実には,支援費の受給は利用者の要求しうる権利としては、実体的にも手続的にも明確に構築されてはいない. そもそも,サービス提供において民が主体となることとは,公のサービス費用の供給責任までが免じられるわけではない.むしろ,公がサービスの直接提供から撤退し,またその利用を措置による行政裁量からサービス利用者の主体性に基づくものに転換した以上,公の役割は,サービス費用供給を中心とするものとして再構成され,費用供給と基盤整備に絞られた公の義務は,利用者が主体的に求めうる権利として再構築されなければならなかったと考える. しかし,現行制度はそうはならず,「利用者本位」という一種の消費者主権主義(consumerism)を標榜するにも関わらず,受給決定に対する異議申し立ては行政不服審査以外に方策はなく,必要とする受給を支えるアドボカシーのメカニズムに欠けている(岡部2003). このように,支援費支給制度において求められる割当と必要のメカニズムは,支給費用を供給するためのマクロのレベルでの財政安定化制度や施策の実施だけではない.ミクロのレベルの利用過程における割当と必要の調整メカニズムとして,利用者個人の主体性と必要に基づく受給を支える受給支援システムが求められている. V 支援費制度に必要な受給支援システムとケアマネジメント 1.支援費支給制度における現行の支給調整システム 基本的に割当に基づく配分がおこなわれるには,何らかの分配のための基準とその手続が必要であるが,現行の支援費制度においては,それはどのようなものとなっているのだろうか. まず,支援費支給制度における「支給決定の基本的考え方」とは,厚生労働省によれば,以下のようなものである. 「(前略)支援費の支給をうけようとする障害者は,居宅支援又は施設支援の種類ごとに市町村に対して支給申請を行う.この申請が行われたとき,市町村は,申請を行った障害者の障害の種類及び程度,当該障害者の介護を行う者の状況その他の厚生労働省令で定める事項を勘案し、申請されたサービスの目的・機能と照らして支援費の支給の要否を決定し,居宅生活支援費であれば支給量と支給期間を、施設訓練等支援費であれば障害程度区分と支給決定を定めることとしている.(身体障害者福祉法第17条の5及び第17条の11、知的障害者福祉法第15条の6及び第15条の12、児童福祉法21条の11)」2) ここで示されたように,支援費制度の支給決定システムとは,基本的に受給者である利用者が,あらかじめ利用希望サービスを決定したうえで申請し,その支給決定は,支給者である基礎自治体と利用者の間で直接に行なわれ,ここに,介護保険制度のような介護支援専門員や認定審査会のような第三者が,制度的に介在することはない. また,支給決定における判断の目安となる「勘案事項」とは,「障害の種類及びその程度その他の心身の状況」・「介護を行う者の状況(障害児居宅支援にあっては、障害児の保護者の状況)」・「居宅生活支援費の受給の状況」・「施設訓練等支援費の受給の状況」・「居宅支援及び施設支援以外の保健医療サービス又は福祉サービス等の利用の状況」・「利用に関する意向の具体的内容」・「置かれている環境」・「当該申請に係る提供体制の整備の状況」の8つであり,居宅生活支援費と施設訓練等支援費の別に,その簡単な説明及び「日常生活の状況」と「勘案事項整理票」というふたつの記録様式が示されているのみで,介護保険制度のようなコンピュータ処理を前提とした支給量決定のための一次判定のしくみは存在しない. このような支援費支給制度の支給決定システムは,同じ利用過程モデルである介護保険制度に比べて,要介護認定制度のような受給判定基準の客観化の度合が低く,利用者側が発揮する自らの必要に対する表現力・交渉力と,援護の主体となる基礎自治体の行政裁量との相互作用に委ねられる部分が多いという特徴をもつ. これに対して,ケアマネジメントを推進する立場からは,支給決定過程において,制度的には、介護支援専門員や認定審査会のような第三者・専門家が介在しないこと,判定基準が抽象的であることは,自己主張力の強い利用者の主体性の尊重にはつながるが,情報収集力・判断力・コミュニケーション力が弱い利用者にとっては問題ではないかとの見方もされている. しかし,そのために要介護認定のような支給調整システムを障害の分野に適用することは,利用者の自立支援の考えかたに基づく受給支援とはむしろ対立するものでもある.この点を巡って,障害の分野で求められるケアマネジメントと支給調整システムとの関係について,整理を行う必要がある. 2.ケアマネジメントと要介護認定 ケアマネジメントを障害分野において活用することについては,1997年の「今後の障害者保健福祉施策のあり方について(中間報告)」のなかで,高齢者福祉と同様、障害者福祉においても、今後ケアマネジメントシステムを導入するという考え方が示され,続く1998年の「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」においては,「ケアマネジメント手法によるサービス提供手法の確立」という項目が立てられ,さらに2000年の社会福祉法等の改正において,関連する各種相談支援事業が法定化されるという形で進行していった. しかし,2003年から開始された支援費支給制度においては,ケアマネジャーが介護支援専門員として制度化された介護保険制度とは異なり,ケアマネジメントとは,自己決定を行う利用者のセルフマネジメントに対する尊重を前提にしたうえで,基礎自治体のケースワーカーも含めたサービス利用援助に関わるさまざまな立場の者が共通に身に付けるべき「手法」として,位置付けられることになった. このような障害分野におけるケアマネジメントの位置付けを更に確かなものとするために,「措置から契約に移行することからも,介護保険の要介護選定に近い仕組みが障害者にも求められてくる.その際に,高齢者で用いられる要介護認定基準を修正・改変し,障害者の社会参加意欲等を反映した要援護認定基準を作成することが大きなテーマとなってくる」(白澤1998:11)というように,障害分野における要介護認定システム導入を突破口にし,ケアマネジメントの制度化を図りたいとする声が,支援費制度導入前からある. しかし,支援費支給制度の利用者,特に施設に入らずパーソナルアシスタンスを中心としたサポートをうけて地域での自立生活を営む重度障害者にとっては,地域生活支援費に支給量の上限を設定するような要介護認定制度の導入は,自立促進という制度の趣旨にも,利用者における現実の生活の実体に即したサービス受給に沿うものでもない. さらに,地域で暮らす障害者に必要なサポートとは,身体介護や家事援助だけではなく,見守りや社会参加の支援が重要であり,特に知的障害者や精神障害者においては,それらがサポートの中核となると考えられる.しかし,施設環境における,それも身体介護に要する時間がもとになった介護保険制度のような要介護認定システムに対し,障害特有の社会参加や見守りのための多様な必要のアセスメントをパッチワーク的に加えることで,どこまで一貫性・実効性のある必要の把握が行えるのだろうかという疑問が残る. 2.ゲートキーパーとアドボケイト 障害者ケアマネジメントに対して,現在期待される役割とは,このように障害の分野で用いるには様々な問題がある要介護認定ではなく,受給の際に必要となる行政交渉の支援,すなわち受給支援であると考える. 支援費制度や介護保険制度のような利用過程モデルにおける受給調整には,本来,ふたつのメカニズムが存在している.そのひとつは,総支給量抑制のための給付管理,もうひとつは,必要の実現を支える受給支援であり,前者はゲートキーパー(gate keeper),後者は,アドボケイト(advocate)の役割としてとらえることができる. 介護保険制度における要介護認定は,基本的にはゲートキーパーの役割を担うが,介護支援専門員は,利用者のためのサービス調整をおこなう利用者側のアドボケイトでありながら,一方で,保険者が行う要介護認定の代行も行う.このことが,利用者側からみた介護支援専門員の役割と立場性を不明確にしている. 民間医療保険や医療扶助制度のなかでケアマネジメントが医療財源抑制のために活用されるというアメリカにおけるマネジドケア(Managed Care)(白澤b:114他)で知られるとおり,介護保険制度に限らず,ケアマネジメントが給付抑制のシステムと結びついてしまう例もある.しかし,「利用者の社会生活上のニーズを充足させるため、利用者と適切な社会資源を結びつける手続の総体」(白澤2003a:4)というケアマネジメントの定義に従うならば,障害の分野におけるケアマネジメントの活用とは,サービス費用に対する給付管理のために用いられる要介護認定に対してではなく,利用者の受給支援のために用いられることこそふさわしいといえる.国や東京都が示す「技法としてのケアマネジメントの活用」や「ケアマネジメント従事者」という位置付け3)も,そのような観点からのケアマネジメントの活用を念頭においたものと考えると理解しやすい. 利用者の主体性と自己決定を理念とする支援費制度は,同時に,基本的に利用者とは非対称な関係にある自治体行政機関との交渉を経て支給決定がくだされるシステムでもあり,そのため,コミュニケーションや交渉に対して社会的不利のある利用者を中心として,なんらかのアドボケイトの役割を担う受給支援システムが必要であるが,それは制度化されてはいない.その定義からすれば,ケアマネジメントが,受給支援に活用されることを期待されている. しかし,現実に受給支援を担う制度や提供主体のありかたとは,いったいどのようなものとなるのだろうか.残念ながら,受給支援のための具体的な方法論やそのモデルは,知る限り,現在の我が国におけるケアマネジメントのモデルには示されていない.そこで次章では,費用の受給とサービスの購入を支える支援のシステムモデルについて検討するために,90年代から現在に至るアメリカにおいて注目されている自己決定/受給者本位モデル(the Self-Determination Model with Consumer Budget Control)(Nurney2000)を参照しながら,考察を行っていくこととする. W 自己決定/受給者本位モデル 1.自己決定運動 アメリカでは,70年代から発達障害者の大規模入所施設の解体が活発となり,地域移行がすすめられてきた.その過程において,行政から発達障害者の地域サービス費用の支給決定機能を委託された地域センター(Regional Center)が,地域生活のためのサービス資源調整の主役として活躍してきた. しかし,70年代の自立生活運動の影響もあり,80年代後半になって,発達障害者の当事者団体や親の会から,地域センターが,民間に委託された第三者機関であっても,そこで下される支給決定は,必ずしも利用者本位ではないとする不満が全国的に高まっていった. そういった背景のもと,助成財団Robert Wood Johnson Foundationが,National Program Self-Determination for People with Developmental Disabilities という名称の大規模な助成事業を開始し,発達障害当事者の自己決定支援システムの構築をめざす自己決定運動(Self-Determination Movement)が本格的に全米に広がっていく.それは,「サービスのために必要な資源のコントロールを,障害当事者・家族・支援者のもとに戻す.そのことで,サービスの総費用は減少し,利用者ひとりひとりのQOLは高まる.」という仮説を検証するための活動を行うアドボカシー/セルフ・アドボカシー団体および州やその機関の自己決定支援システム構築のためのプロジェクトに対し活発な助成を行うというもので,2003年現在でも,50余の助成が継続実施されているという(Stroman2003). この自己決定運動がサービスシステムに求めることは,「供給者本位モデルから受給者本位モデルへ(from supply side model to demand side model)」(Stroman2003:213)という表現で示されるとおり,社会福祉基礎構造改革で掲げられた「事業者本位から利用者本位へ」という理念と共通点がある.また,さらに以下の3点が,本論でこの自己決定運動に注目する理由としてある. @)問題提起が、行政からではなく利用者側からなされた主体的活動であること. A)受給者主体(demand side control) とは,事業者からのサービス提供過程だけでなく,行政からの サービス決定およびその費用の給付というサービス利用過程を重視するものであること. B)サービス利用過程に対して利用者自身のコントロールを及ぼすことが,具体的な利用者支援シス テムとして開発され実施されていること. 2.自己決定/受給者本位モデルと個別会計 このような運動のなかで,発達障害当事者の地域生活を,公的給付やサービスの利用者個人の会計に焦点をあてて支援するシステムとして,「自己決定/受給者本位モデル(the Self-Determination Model with Consumer Budget Control Model)」Stroman2003:214)が開発され,各地で試行されている.4) 自己決定/受給者本位モデルの要となるのは、「個別会計(Individual Budget)」と呼ばれるその障害当事者が望む地域生活を送るための費用計画である。その個別会計を障害当事者と共に作成するのは、「支援仲介者(Support Broker)」と呼ばれる援助者である.この支援仲介者は,サービスシステムからも自治体からも完全に独立し,利用者と事業者の間のコーディネート,すなわち,障害当事者とその必要とする資源や情報をつなぐためのサービス事業者との契約支援と契約後のサービスのモニタリングを行うと同時に,利用者とサービス費用を給付する自治体との間のコーディネート,すなわち,その利用者の地域生活のための費用計画である個別会計を利用者と共に作成し,そのために必要な給付の調達に対する受給交渉支援というアドボケイトの役割を担う.さらに,支援仲介者と共に,「会計仲介者(Fiscal Intermediary)」と呼ばれる個別財政に対する支援者が組織化され,個別会計の実務、すなわち,ダイレクトペイメントの際の小切手の管理・給付の受け入れと事業者・介助者への支払い代行および税金の支払いや銀行口座管理などの日常的な個別財政の実務支援を担う.このような支援仲介者と会計仲介者は,基本的には利用者側から選ばれ,「マイクロ・ボード(Micro Board)」と呼ばれる5〜9人のグループに組織化されている(Stroman2003:221). その中核となる個別会計とは、たとえば、下記のようなその障害当事者が地域生活を送るための個人予算項目から構成されるという. セクション1 「どこにだれと住むのか」の計画と費用. 住居,同居者,介助者,衣料と美容・理容,食事,トレーニング,移動. セクション2 「コミュニティと人間関係」の計画と費用. 寄付,ギフト,諸会費,移動,宗教,恋愛,文化,余暇活動. セクション3 「仕事・商売・収入を得ること」の計画と費用. 仕事,企業運営. セクション4 その他の年間の費用. 単発の費用,資産管理の費用等. セクション5 個別会計の管理費用. 会計仲介,支援仲介の費用等. (Nurney2001:14) その内容は,地域で自立生活を行っている障害当事者としては当然のこととして,一般の地域住人の家計で立てられる費用項目にほぼ等しい.このような個別会計を利用者が支援仲介者の支援を得て作成することは,「本人主体の計画を作る(Person Centered Planning)」(Stroman2003)とも呼ばれている.そこでは,福祉サービスの必要とその費用は,その障害当事者自身の日常生活の計画とその費用を基にして計算され,自治体との交渉のための資料として使われることになる. X.自己決定/受給者本位モデルと支援費制度に必要な受給支援システム 1.自己決定/受給者本位モデルの受給支援システム 自己決定/供給者本位モデルにおいては,自治体の給付予算に責任をもつ地域センターの生活支援ワーカーに対して,利用者自身と支援仲介者が,作成した個別会計に基づいた受給交渉するプロセスを経て,支給決定が行われる. 支給対象となるサービスと事業の選択は,同じく支援仲介の支援を受けて利用者自身により行われ,支給されるサービス費用は,会計仲介者の支援を得て利用者が直接受領し,利用者の口座から事業者に支払われる.利用する事業所に対してモニタリングを行うのも,利用者本人および支援仲介者である. このように,自己決定/受給者本位モデルは,予算による割当調整に対し,利用者本位の給付とサービス利用を支援するシステムとして,ニューハンプシャー州やカリフォルニア州をはじめとする各地で試行されており5),前述した支援仲介者,会計仲介者,マイクロ・ボード,個別会計と,利用者,自治体,地域センター,事業者との関係は,(図1)のように整理できる. まとめると,自己決定/受給者本位モデルとは,サービスの利用者自身が,それぞれの望む生活を組み立て,そのために必要な支援をその計画の実現のための収支計画である個別会計として組み立て,その計画をもとに給付交渉を行い,消費者(consumer)として福祉サービスやその他の社会資源を使いこなすことを直接的・間接的に支援するシステムである.そこでは,個別会計という手法を用いることで,機能障害の程度を基準としそのためのケアの量とそれにかかる費用を専門家が判定するという要介護認定を用いずに,発達障害者が地域生活を送るためのサービス費用の給付に対する利用者側からの必要の社会的構築(山森1999)を行うシステムとなっている. 2.支援費制度の受給支援システム構築の参考として このような自己決定/受給者本位モデルは,我が国における今後の発達障害者の地域生活支援システムを検討していくための様々な示唆に富むが,その全てを本論において論ずることはできない. そこで,本論の趣旨を踏まえ,今後の支援費制度において求められる必要と割当を利用者本位に調整するための受給支援システムを構想する観点に絞って,そのポイントを以下のようにまとめた. @ アプランのまえに,生活プランをたてること. A 生活プランは,その実現に必要な費用に換算し,個別会計とすること. B 個別会計における必要なサービス費用を,公的な給付として求めること. C 受給支援と一体となった金銭管理支援を行うこと. D サービス利用過程の調整を,専門家とサービス調整会議に委ねるのではなく,利用者自身と 利用者が選んだアドボケイトが,支給交渉の主役となること. Y.まとめ 支援費制度における受給調整システムには,要介護認定のような給付管理システムが存在せず,利用者が直接,その主体性と自己決定に基づき,必要とする給付を獲得するための必要の社会的構築を自治体に対して行うしくみとなっている. そこには,予算執行上の割当調整と利用者個人の必要を積極的に調整するシステムが欠けるため,現在の我が国における厳しい財政状況においては,一方的な行政裁量の行使により受給が必要以上に抑制されてしまう問題が顕在化している.そのため,コミュニケーションや行政交渉に対して社会的不利のある利用者を中心として,受給の調整機能の実現が求められている. その役割が,ケアマネジメントに期待されている.しかし,それが,要介護認定制度のような,決定プロセスを客観化・第三者化し,利用者の直接的な関与をさせないしくみの導入につながるのでは,サービス利用過程における利用者の主体性は損なわれ,また,障害の分野における多様な必要を汲み取ることも困難となる.障害分野におけるケアマネジメントの活用は,給付管理のためのゲートキーパーではなく,受給支援のアドボケイトのシステムを作るために行われるべきである. しかし,現行の我が国のケアマネジメントにおいて,受給支援のための具体的な方法論やモデルは示されていない.そこで,その参照モデルとして,自治体からの受給と日常生活の金銭管理の双方に着目し,生活支援とサービス調整とアドボカシーを一体化した地域生活支援モデルであるアメリカの自己決定/受給者本位モデルの検討を行った. それは,発達障害をもつ利用者が地域生活を送るためのプランを,個別会計という利用者の地域生活を支えるための費用計画として作成し,それを踏まえて金銭管理に着目した生活支援と受給支援を核とするサービス利用支援を行うシステムであった. そこで,我が国の支援費制度において,発達障害者に対する受給支援システムを構想することを念頭におきながら,この自己決定/受給者本位モデルの概念整理を行い,制度化されるときに留意すべきポイントを整理した. 【注】 1)このことについては,岡部(2004)で詳しく論じている. 2)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 支援費制度担当課長会議(14・6.14)資料 P.99(東京都社会福祉協議会複製資料による) 3)平成13年度東京都障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会(2001)「平成13年度東京都障害者ケアマネジメント従事者養成研修テキスト 身体・知的障害者編」平成13年度東京都障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会 など. 4)以降のこの節における自己決定/受給者本位モデル関連の説明で,特記のないものは,Stroman(2003)による. 5)代表例としては,State of California(2002)などを参照してほしい. 【文献】 小林良二(2002)「第一部・第2章 戦後社会福祉の政策展開と展望(二)」三浦文夫・高橋絋士・田端光美・ほか編 『戦後社会福祉の総括と二一世紀への展望V 政策と制度』ドメス出版 Nerney,Thomas(2000)COMMUNICATINGSELF-DETERMINATION:FREEDOM,AUTHORITY,SUPPORT AND RESPONSIBIRITY <http://www.self-determination.com/publications/toolsprint.htm> 2003.8.1 Nerney,Thomas(2001) FILTHY LUCRE ―CREATING BETTER VALUE IN LONG TERM SUPPORT <http://www.self-determination.com/publications/lucre.htm> 2003.8.1 岡部耕典(2003)「支援費制度・コンシューマリズム・アドボカシー ―利用者個人の主体性とその権利を中心としたサービスシステムのために」東京都立大学大学院社会科学研究科修士課程学位論文 岡部耕典(2004)「支援費支給制度における「給付」をめぐる一考察 ―「ヘルパー基準額(上限枠)設定問題」を手がかりに―」『社会政策研究 第4号』東信堂 坂田周一(1991)「第5章 割当」大山博・武川正吾編 『社会政策と社会行政――新たな福祉の理論の展開をめざして』法律文化社 State of California(2002)Carifornia's Self-Detemination Pilot Projects For Individuals with Developmental Disabilities <http://www.dds.cahwnet.gov/sdpp/sd_main.cfm> 2003.8.13 Stroman,Duane,F.(2003)THE DISABILITY RIGHTS MOVEMENT ―From Deinstitutionalization to Self-Detemination University Press of America 白澤政和(1998)『平成10年度厚生科学研究報告書 障害者のケアマネジメントに関する研究』厚生科学研究障害者等保健福祉総合研究事業 白澤政和(2003a)「第1章 ケアマネジメントの概要」白澤政和・蛯江紀雄編『新版・社会福祉学習双書2003《第17巻》ケアマネジメント論』全国社会福祉協議会 白澤政和(2003b)「第3章 対象別ケアマネジメントの実際 第1節 介護保険における介護支援サービス(ケアマネジメント)」白澤政和・蛯江紀雄編『新版・社会福祉学習双書2003《第17巻》ケアマネジメント論』全国社会福祉協議会 山森亮(1999)「アマルティア・セン/規範理論/政治経済学」.京都大学大学院経済学研究科博士課程学位請求論文 |
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