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カリフォルニアの障害者事情  知的障害者のサポーテッド・リビング(援助付き自立生活)

         =手をつなぐ 2007年8月号=

                         
      早稲田大学文化構想学部・全日本手をつなぐ育成会政策委員  岡部 耕典


障害をもつ人が、ジョブ・コーチをつけて一般就労する援助付き雇用を「サポーテッド・エンプロイメント」と呼びますが、「サポーテッド・リビング」とは聞きなれないことばかもしれません。

「サポーテッド・リビング」とは、知的(発達)障害者が「パーソナルアシスタント」と呼ばれる支援者を使って、親元でも施設でもグループホームでなく、アパートや自分の家で自立生活をすることをいいます。つまり、身体障害の人たちのように知的障害者も、その人の生活のことはなんでも手伝う「アシスタント(支援者)」という名のヘルパーを使って地域自立生活を実現するのがサポーテッド・リビングです。アメリカでは、重度の身体障害者の人たちを中心とする自立生活運動でおこなわれている「介助者(パーソナルアシスタント)」を使った「自立生活(インディペンデント・リビング)」の知的(発達)障害者版として位置づけられています。

日本では、知的障害者の地域生活支援といえばグループホーム(ケアホーム)であり、知的障害者のヘルパーサービスの代名詞はガイドヘルパーとなります。一方で、アメリカのカリフォルニア州では、このような知的障害者がヘルパーを使って地域自立生活をおこなうことが、サポーテッド・リビング・サービス(以下SLS)という名称で制度化されており、この制度を使って最大24時間を含む長時間のアシスタントをつけて地域自立生活をおこなっている知的障害者が多数存在しています。

(カリフォルニア州発達障害局によれば、人口3700万人のカリフォルニア州において、2005年度の実績ベースで5256人のサービス利用者がSLSを利用しており、2億3000万ドルの公費が使われていますが、そこには、子どもや家族同居の人たちを対象としたレスパイトサービスや移動支援サービスの費用(それぞれ1億9000万ドル前後)は含まれていません。つまり、カリフォルニア州では、自立生活をしている知的障害者のヘルパー代として、なんと一人平均年間500万円以上の支援費が使われていることになるのです。

いうまでもなく、知的障害者が「自分の家で暮らす」ためには、移動の支援以外にも料理や掃除の手伝いなどの家事援助、入浴の補助などの身体介護、お金の管理や支払いの手伝い、さらに、それらを総合してその当事者の生活に寄り添いつつ、安全に気を配り人間関係やその人自身の安心感を支える「見守り」などが必要です。

そのため、SLSは、週末だけの余暇活動支援や介護保険型の短時間の巡回介護ではなく、交代で利用者と生活を共にする長時間介護が基本とされています。そして、そのような役割を総合して果たす「ヘルパー兼同居人兼友人」のような存在があることで、コミュニケーションに障害があったり、他害や自傷等の地域生活を送るうえでの激しい「問題行動」をもった人たちも地域自立生活が可能となることも報告されています。

去る2月2日、このように興味深いサポーテッド・リビングについて、その実際とその最新の動向を聞く「みんなで話そうIPPパート2 カリフォルニアの話を聞こう」というセミナーが開催されました。

主催したのは、以前からカリフォルニアの知的障害当事者運動やその支援システムを紹介してきたコミュニティサポート研究所。そして、講師として招かれたのは、カリフォルニア州発達障害局地域開発課長のジュリア・モランさんと、同じく発達障害局に勤める障害当事者職員のニコール・パターソンさん、さらに地域で実際にサポーテッド・リビングのための事業所のコーディネーターをしているシャーリーン・ジョーンズさんの3人です。

当日は、サポーテッド・リビング・サービスを中心として、行政職員と障害当事者とサービス事業所が一体となって当事者主体のサービスの推進に取り組む姿が紹介され、またこれまでコミュニティサポート研究所のプロジェクトに協力してきた全国の知的障害当事者も参加し、セミナーのあとの懇親会でも日米の交流を深めました。

日本でも、このような長時間の生活全体の支援を前提としたヘルパーの制度として「重度訪問介護」という類型があり、多くの身体障害者の人たちが、この制度を使って長時間のヘルパー派遣をうけながら自立生活を送っています。しかし、残念ながらこの制度は肢体不自由の身体障害者にしか使えません。「三障害統合」といわれたのに、また「見守り」や安心感を与える支援は知的障害者の人たちにこそ必要であるのにも関わらず、これはずいぶんおかしなことのようにも思えます。

一方で、東京では、ピープルファーストと自立生活センターがタッグを組んで、実質的なサポーテッド・リビングを実現しているところもあります。(詳しくは、文末の資料を参考にしてください)
 
 
【参考文献】

カリフォルニア・ピープルファースト編「私たち遅れているの?〔増補改訂版〕」.現代書館

ピープルファースト東久留米「知的障害者が入所施設ではなく地域で暮らすための本 ―当事者と支援者のためのマニュアル」生活書院

岡部耕典「障害者自立支援法とケアの自律 ―パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント」明石書店




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