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重度訪問介護、行動援護、移動支援事業の現状 =発達障害白書2010年度版= 岡部耕典 2009年4月より障害者自立支援法の報酬単価が改定され、重度訪問介護の報酬単価は10%強の大幅なアップとなった。この結果、重度訪問介護の8時間連続の場合の1時間平均単価は、区分4・5で1761円、区分6で1866円となり、ほぼ従前の支援費制度における日常生活支援の単価にまで回復したことになる。一方で、身体介護や家事援助は30分・1時間未満単価のみの引き上げに留まった。また、国庫負担基準の改定においても、他の居宅介護が小幅の引き上げであるのに対して、重度訪問介護の区分6においては月29万円から40万円へと他に比べて大幅なものとなっている。 さらに、報酬単価の改定に先立ち、2008年12月25日の障害福祉関係主幹課長会議において国庫負担基準を超える重度訪問介護の利用があった市町村の100%負担分を補助する「重度訪問介護の利用促進に係る市町村支援事業」の新設が発表され、加えて、2009年3月12日の障害福祉関係主幹課長会議資料には、重度訪問介護の支給決定においては地域で自立した生活ができる適切な支給量を定めること、短時間の細切れ介護は重度訪問介護で決定せず身体介護で決定するようにすることが明記された。 このように、2003年のいわゆるホームヘルプサービス上限問題以来一貫して続けられてきた身体障害者の長時間見守り型介護に対する厳しい抑制方針は少なくともいったんは転換され、従来から厚生労働省が推進している介護保険制度と単価も方式も合せた巡回型訪問介護と実質的な住み分けが図られる方向感が示されつつあるといえよう。 一方で、2009年3月31日に国会へ提出された障害者自立支援法改正案においては、「視覚障害により移動に著しい困難を有する障害者等につき、外出時において、当該障害者等に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護等の便宜を供与する」ガイドヘルプサービスである「同行援護」を自立支援給付として創設し、これまでは地域生活支援事業の中で行われていた重度視覚障害者の移動支援を個別給付として復活することが謳われている。これにより、障害者自立支援法の成立により個別給付から市町村生活支援事業の移動支援へと変更された移動介護(ガイドヘルプサービス)も、重度訪問介護の一部として残ったものも含めれば、少なくとも身体障害者を対象としたものについては個別給付として対応されることになる。 しかし、このような動向に対して知的障害者を対象とする介護はまたしても取り残されている。知的障害者に係わる介護の従事者や自立生活運動/知的障害者当事者運動の側が従来から強く要望していたこととして、@移動介護を個別給付として復活させることA重度訪問介護の対象を知的障害者まで拡大することB介護資格要件の大幅な緩和などがあったが、これらはいずれも実現のめどが立っていない。唯一行われたのは行動援護の漸進的改良であるが、これも従来1日1回5時間までしか認められていなかった請求が8時間まで認められるようになったこと、また、2009年度3月いっぱいとされていた資格要件に対する経過措置(行動援護研修の受講を条件として、サービス提供責任者の実務経験5年以上を3年以上、ヘルパーの実務経験2年以上を1年以上に緩和)が期限を明示せず当面延長となったことなどに留まるものであり、今回の障害者自立支援法の見直しに伴う介護制度の見直しは知的障害者についてはきわめて限定的なものといえる。 そもそも行動援護とは外出を支援する介護である。そのため利用時間は8時間以上の長時間滞在型でも短時間の巡回型でもない「中時間」が想定されている。また、短時間利用では身体介護に近い報酬単価となるが、その担保として厳しい対象者の限定と介護者の資格要件が伴う。つまり、行動援護は自立生活運動が求めてきた長時間見守り型介護でも厚生労働省が推進する巡回型訪問介護でもなく、問題行動を点数化することによる利用のスティグマ性の付与と厳しい介護者の資格要件による構造的供給不足という強力な利用抑制メカニズムをビルドインされた身体介護付き移動介護に他ならない。 それにもかかわらず、重度訪問介護を知的障害者にも拡大しないことの理由として行動援護の存在が挙げられ、また、かつての移動介護とは異なるかのように印象操作するために行動援護との横並びを意識させる同行援護というレトリックが採用される現状がある。このようにして行動援護の存在や名称がその本質とは別のところで必要な「見直し」の不作為に対する「盾」として使われる構造は行動援護の在り方をめぐる本質的議論のはるか手前で悩ましい。 視覚障害者の移動支援を個別給付に戻すというならば、知的障害者の移動介護も復活すべきだし、それに伴い行動援護も元来の身体介護付き移動介護に戻せばよい。また、重度訪問介護の対象を知的障害者へと拡大するだけで、障害者権利条約第19条が要請するパーソナルアシスタントを利用した「自立した生活及び地域社会へのインクルージョン」は欧米だけでなく日本においても知的障害者にも開かれたものとなるだろう。 「見直し」というならば、本来求められるのは法が制定された当時の思惑としがらみを乗り越え得る本質的かつシンプルな構想であり、そのような取り組みが合意され運動される必要がある。 (参考文献) 障害者自立生活・介護制度相談センター編『全国障害者介護制度情報』2009年1月号及び2009年2・3月合併号 |
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