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発達障害白書2012年版

パーソナルアシスタンスの可能性を探る
―知的障害者も重度訪問介護を使いたい―

 
                                                          岡部耕典



 障害者権利条約第19条において地域自立生活のために不可欠な援助として特記されたことで広く知られるようになった「パーソナルアシスタンス」とは、@利用者の主導(ヘルパーや事業所ではなく利用者がイニシアティブをもつ)、A個別の関係性(事業所が派遣する不特定の者ではなく利用者の信任を得た特定の者が行う)、B包括性と継続性(援助の体系によって分割・断続的に提供されるのではなく利用者の生活と一体となって継続的に提供される)という3つの条件が確保される個別の生活支援である。

 欧米の障害当事者運動においては、公務員のヘルパーやサービス事業所から派遣されるホームヘルパーのオルタナティブとしてこのような支援が求められ、利用者のコントロールを最大限担保するために利用者自身が支援者を雇用し、その費用をダイレクトペイメント(費用の利用者への直接払い)で支給されるのが通例である。

 日本では、1974年に創設された東京都重度脳性麻痺者介護人派遣事業や1975年に開始された生活保護他人介護加算特別基準適用を活用した公的介護保障運動がパーソナルアシスタンスの嚆矢である。その後、自立生活運動の進展のなかで各地に作られた自立生活センターによって、ゴールドプランにより整備されてきた市町村ホームヘルプサービス事業を活用し「当事者主体のサービス提供機構」が介助者を派遣するという日本独自の提供形態が1990年代以降確立されていく。それが2003年開始の支援費制度において「日常生活支援」として全国制度化され、さらに障害者自立支援法における「重度訪問介護」へと継承されていったという歴史がある。利用者への直接払いの制度ではないものの、この重度訪問介護が現在の日本における実質的なパーソナルアシスタンスの国制度である。

 しかし、現行の障害者自立支援法における重度訪問介護の対象者は、「重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者」(第5条2)、具体的には、脳性まひ、頸椎損傷、筋ジストロフィ等による四肢麻痺があり、障害程度区分4以上の障害者に限定されている。欧米でも日本でもパーソナルアシスタンスのしくみを発展させてきたのは、身体(全身性)障害者が中心であった。しかし、スウェーデンのLSS法には自閉症や知的障害者が主たる対象者として明記されているし、英国のダイレクトペイメント/パーソナルアシスタンスは知的障害者や高齢者にも順次拡大とされている。さらに米国では知的障害者が支援を受けつつ親元でもグループホームでもなく「自分の家」で暮らすことが政策的に推奨され、90年代よりサポーテッドリビングサービスという名称で制度化されている。
そもそも障害の社会モデルを前提とする障害者権利条約及び「谷間のない制度」をめざす総合福祉法(仮称)の趣旨を踏まえれば、インペアメントの種別と医学モデルに基づく重度訪問介護の対象者制限は不適切と言わざるを得ない。一方で日本国内においても「施設から地域へ」という政策の推進の過程で、地域移行をグループホームや既存の地域生活支援のみに頼ることに一定の限界があることも見えてきている。@重度自閉/知的障害者等で行動障害が激しいA中軽度知的/発達/精神障害であっても「触法行為」に通じかねない行為やトラブルが絶えない等の理由で、これまで入所施設や病院からの「地域移行」が困難とされてきた知的/発達障害者たちが地域生活を継続するためには、常時の「見守り支援」を地域移行支援のレパートリーに加える必要があることは明らかといえる。

 そのため、重度訪問介護のような「身体介護、家事援助、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援及び外出介護などが、比較的長時間にわたり、総合的かつ断続的に提供されるような支援」(2007年2月厚生労働省事務連絡)を難病/高次脳機能障害/盲ろう者等を含む「日常生活全般に常時の支援を要する」(同)すべての障害者に対して利用可能とすることが2011年1月25日報告の総合福祉部会訪問系作業チームの議論の取りまとめにおいても強く提起されるところとなっている。
さらに支援の包括性と継続性の確保という観点からは、重度訪問介護を含む現行の居宅介護一般に存在する「一日の範囲で用務を終えるもの」「社会通年上適切でない外出等を除く」等といった限定も問題である。訪問系作業チームからは、こうした制限をなくし、通勤・通学・入院時・障害者の自家用車等の運転時・宿泊外出等にも利用できるようにすべきである、という提言もあわせてなされている。
 
 これに対して、重度訪問介護の対象者の拡大やシームレス化の提言に対しては、利用拡大に対する財源確保への懸念及びそのための財源を福祉のみではなく企業や学校にも負担を求めるべきとする厚生労働省事務局からの考え方も示された(2011年2月15日総合福祉部会厚生労働省コメント)。しかし、少なくとも障害者権利条約の要請に応え、障害種別を超えた真にインクルーシブな地域自立生活の実現とそのために必要な支援の制度を構築するためには障害種別を超えたパーソナルアシスタンス制度の拡充という課題は避けては通れない。

 このように考えてみれば、重度訪問介護を知的/発達障害者にも利用可能とし、家事援助や移動支援と金銭管理・健康管理・生活のプラン作り等がアシスタントによって一体となって提供される包括的な支援とすることが必要なことは明らかである。目先の財源問題に振り回されず、10年後・20年後の在るべき知的/発達障害者の地域自立生活支援かたちを見据えた政策の英断が求められているのではないだろうか。

参考・引用文献

総合福祉部会第11回(H.23.1.25)資料7−2訪問系作業チーム報告要約

岡部耕典2007「障害者自立支援法とケアの自律 パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント」明石書店
岡部耕典2010「ポスト障害者自立支援法の福祉政策 生活の自立とケアの自律を求めて」明石書店

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