障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

権藤 眞由美 (ごんどう まゆみ) 立命館大学大学院生

■報告題目

障害女性の困難――DP Hanoiの活動と障害女性が望む支援

■報告キーワード

ヴェトナム 障害女性 DP Hanoi 

■報告要旨

 日本における障害女性の「困難」はDPI女性障害者ネットワークメンバーの活動報告書からわかるように、「障害」があり「女性」であることは差別や問題は幾重にも複雑でその解決策も容易ではないことが報告されている。「それぞれの人が、障害の有無や性別、誰とどう暮らすかということにかかわらず、一定の安定を得て、尊厳が保障された状況で社会と関わりながら暮らす生活を展望するには何が必要なのか」(瀬山2010)これは、ヴェトナムにおいても調査先で議論となる点だ。「仕事」だと言う人もいれば、重度であって仕事ができなくても一定の社会保障を得て、「生きる」ということに意義があると話す人もいる。
 そして、私が出会ったヴェトナムの障害女性は、「仕事」を求めている。
 今回の目的は、第一点目に DP Hanoi(HANOI DISABLED PEOPLE ASSOCIATION)(以下、DPハノイ)組織の概要、第二点目に、DP ハノイにおける障害女性への活動内容、第三点目に現在、障害女性が抱えている困難と障害女性が求めている支援について報告する。  研究方法は、2012年7月6日及び2013年3月14日〜3月20日ヴェトナムハノイ市滞在において半構造化インタビュー調査を実施した。
 DP ハノイ は、2006年1月に設立され、職員数9名のうち代表者含む5名が障害者である。現在のDPハノイメンバー登録者数は約6000人ほどである。
 DPハノイ職員へのインタビューの中で「障害者の多くは、@知識が少ない、A専門職のスキルがないB専門職のスキルを持ち仕事ができても採用されない、Cお金がない」と話された。だが、最近は障害者への認識が会社経営者や人事採用担当者の対応をみても以前よりは改善されてきたという。
DPハノイの主な活動は、障害者たちの知識を高めるために権利、義務に関する勉強会、ブロックリーダー向けの研修会などを行なっている。
 DPハノイの中心事項の一つに、「障害女性の生活の向上」が目標とされている。障害女性が困難と感じている点は、@安定した収入を得られる仕事につけないA専門職につくためのスキル習得が難しいB基本的な知識を(法律や政策)得る機会がないC家族・夫婦に関することを聞く「場」がない、などである。そして、最も障害女性が望んでいる支援は、障害を持っていても安定した収入を得ることができる仕事の斡旋だという。
 また、障害女性も障害を持っていない女性たちと同じように、生活の一般的な欲求(恋愛、仕事、結婚、家族)を持っている。しかし、障害女性の結婚は難しいという。例えば、既婚の障害女性の生活がイメージできず、自分にはできないものだという思い込みが根深くあるからだ。「できないもの」だというイメージを持たざる得ない女性への役割負担の多さ、生活環境や家族関係などの要因が重なり、障害女性の欲求を叶わぬものへと遠ざけてしまう。そこで、DPハノイのグループ活動において、既婚者の障害女性が恋愛、結婚、出産や健康の問題などについて自らの経験を語ることで、「困難」をどのように解決し、人生の豊かさを得られたかについて伝えている。また、障害を持っていない女性グループと障害女性のグループと合同で活動を行うこともある。
 いま、DPIに所属する障害女性の活動は障害女性の「困難」脱却に向け少しずつ広がりをみせている。


参考文献:◆南雲君江、DPI女性障害者ネットワーク(2012)『障害のある女性の生活困難−人生の中で出会う複合的な生きにくさとは−複合差別実態調査報告書』、認定特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議.◆瀬山紀子(2010)「障害女性と貧困」『障害学研究6』、障害学会.◆臼井久実子・瀬山紀子(2009)「ジェンダーの視点から見た障害者の貧困」『季刊福祉労働第一二三号』、現代書館.