障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

長谷川  貞夫 (はせがわ さだお) ヘレンケラーシステム開発プロジェクト、社会福祉法人 桜雲会

□共同報告者

武藤 繁夫(ヘレンケラーシステム開発プロジェクト)
成松 一郎(ヘレンケラーシステム開発プロジェクト)
新井 隆志(ヘレンケラーシステム開発プロジェクト)
庵 悟(全国盲ろう者協会)
渡井 秀匡(東京盲ろう者友の会)

■報告題目

通常の文字のスマホなどと盲ろう者の点字式スマホを往復に結ぶヘレンケラースマホ

■キーワード

スマート点字(タッチ画面の点字式入力) 体表点字(全身で読める振動式点字出力) UniChatX

■発表要旨

 厚生労働省の統計によると、目も耳もともに不自由な盲ろう者と呼ばれる人が、全国で21,000人いるとされている。日本における統計でさえかなり粗い推定であり、ましてや盲ろう者数についての世界的な統計はまだない。人口比率で考えると、仮に界の人口を約70億人とすると、日本の1億2千万人の約60倍であり、盲ろう者数は、世界でおおよそ126万人と推測される。
 盲ろう者は、障害歴によって、指先で読む通常の点字、指点字、触手話、手書き文字など、多様なコミュニケーション手段を使っていることが知られている。
 しかし、全体からすれば、これらを充分に利用できている人は少なく課題もたくさん残されている。
 まずは、盲ろう者自身がどのようにコミュニケーション手段を身につけるかということ。とくに中途で受障した盲ろう者の場合、点字や盲ろう者の触手話などのコミュニケーション手段を習得すること自体に困難を抱えやすい。
 また、一般に利用が進んできているパソコンあるいは携帯電話やスマートフォンなどを活用しながら、情報を瞬時に得たり、あるいは発信することができず、ICT環境から全く隔離されてしまっている人が圧倒的に多い。

 共同発表者の我々は、これまで情報障害者にとっての有力な出力方法として「体表点字」の開発と研究を継続しており、また、入力方法としての「スマート点字」も開発中である。
 体表点字は、点字の1点をワイシャツのボタンほどの振動体で表現するものであり、これまでの指先で読む点字と違い、全身の体表で読むことができる。したがって、中途障害のため、中・高年齢で指先の感覚が鈍くなった盲ろう者でも、体表点字なら容易に読むことができる。これが、体表点字の大きな特長である。
これまでにおいて、長谷川は、1981年に最初の視覚障害者用ワープロを開発した。これが、現在、視覚障害者の間に最も多く普及しているPC-Talker(高知システム開発)となっている。また、携帯電話においては、携帯電話によるヘレンケラーホンを開発したが、本発表は、現在のスマートフォンなどの時代に合わせた拡張型の開発である。

(参考)
http://www.u-x3.jp/modules/tinyd108/index.php?id=43
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.tmhouse.SmartBraille&hl=ja
 この2つの有力な入出力方法を盲ろう者への情報提供に応用していくことを目指す。


 開発の成果および波及効果の例

 2011年3月11日の東日本大地震は、日本にかり知れない損害をもたらした。そして、今後も同様の災害をもたらすものと予想し、国を挙げて各種の対策がなされつつある。
 災害において、最も被害を防止しなければならないものが人の生命である。そのために、緊急地震速報などによる予想される災害を未然に防ごうとする対策がとられている。
 しかし、視覚および聴覚がともに不自由なヘレンケラー女史のような盲ろう者には何の対策もないと言っても過言ではない。社会として、このような人々にも対策を施す必要がある。
 本研究で開発をめざす「ヘレンケラーすまほ」によって、盲ろう者への緊急地震速報などが当事者に瞬時に届けられ、また安否確認にも活用できることが想定される。
 また、このシステムは、災害時に特化されるだけでなく、日常生活におけるあらゆるコミュニケーションや情報保障に活用されることが期待される。
 点字の6点で構成される64個の符号は世界で共通であり、この符号に世界の言語のそれぞれの文字を当てはめれば、容易にそれぞれの言語のヘレンケラースマホとなる。これは、日本から世界に発信できる福祉技術である。
 我々は、2013年11月6日よりフィリピン・マニラ市で開催される第10回ヘレン・ケラー世界会議に参加する日本代表団の一員として、ヘレンケラーシステムを、日本で開発をはじめた福祉技術として、世界の盲ろう者に紹介することを予定している。
 なお、去る5月29日から31義までの東京ビックサイトにおける「ワイヤレスジャパン2013」において、「日本Androidの会福祉部」のブースにおいて「ヘレンケラースマホ」を出展した。