障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

磯野 博 (いその ひろし) 静岡福祉医療専門学校

■報告題目

無年金障害者問題の経緯と今日的課題〜障害者運動をとおした問題解決へのアプローチから〜

■キーワード

社会福祉・社会保障のすき間問題 障害年金の帽貧機能の低下 雇用の流動化・非正規化

■発表要旨

 本報告は、「無年金障害者の会」が中心になって取り組んできた運動をとおして、無年金障害者問題の経緯と現状を再認識し、今後の問題解決に向けての示唆を得ることを目的にしている。
 予定している報告の主な論旨は、以下の4点である。
 1点目は、無年金障害者と無年金障害者問題の定義である。
 無年金障害者は、単に「障害年金を受給していない」状態にある障害者を意味しない。障害年金の受給要件、とりわけ、「初診日における加入要件」、「保険料の納付要件」、「基準に基づいた障害認定」という制度的な問題により、構造的に生み出された障害者である。また、無年金障害者問題も、単に「無年金障害者が抱える問題」という現象を意味しない。前述の受給要件と関連した同様の構造を内抱する障害者問題を意味する。本報告の前提として、これらの定義をまず明らかにする。
 2点目は、無年金障害者問題の経緯である。
 無年金障害者問題は、障害者団体によって提起され、運動の成果として一定の解決を見てきた問題である。その間には、国民皆年金の制度化、障害基礎年金の制度化といった政策動向と、学生無年金障害者訴訟、在日外国人無年金訴訟、信楽通勤寮障害年金不支給訴訟といった運動の成果が入り組んでいる。本報告では、障害年金の発展過程におけるこれらの運動の成果の意味を整理する。
 3点目は、無年金障害者の実態である。
 実数すら明確でない無年金障害者であるが、その実態は、主に障害者団体の調査から明らかになってきている。また、同様に不安定就労・低所得(低年金)の状態にある障害者の実態も各種調査から明らかになってきている。加えて、「無年金障害者の会」の相談活動などから、労働の流動化・非正規化にともない急増する無年金障害者と無年金障害者予備群の存在も明らかになってきている。本報告では、これらの実態を概観する。
 4点目は、今後の障害年金のあり方である。
 無年金障害者を生み出さない障害年金のあり方に関しては、障害者団体も複数の提案を行っている。一方、現在の障害年金の所得保障としての機能に関しては、昨今、研究がすすんでおり、国際比較、政策検証などの視点から有意義な知見が示されている。また、生活保護と障害年金との関連から、障害者分野でのセーフティネットの危機を提唱する研究も見出すことができる。本報告では、無年金障害者問題の解決の見地から、これらの知見を整理する。