障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨
北村 弥生(キタムラ ヤヨイ) 国立障害者リハビリテーションセンター研究所
□共同報告者
河村 宏 (カワムラ ヒロシ) NPO 支援技術開発機構
浅野 浩嗣(アサノ ヒロシ) 浦河町役場
米山 豊 (ヨネヤマ ユタカ) 浦河町東町第五自治会
池松 麻穂 (イケマツ マホ) 浦河べてるの家
防災(ボウサイ)チーム 浦河べてるの家
我澤 賢之 (ガサワ ケンジ) 国立障害者リハビリテーションセンター研究所
小佐々 典靖 (コサザ ノリヤス) 国立障害者リハビリテーションセンター研究所
八巻 知香子 (ヤマキ チカコ) 国立がん研究センター がん対策情報センター
■報告題目
精神障害者による津波避難準備活動と地域との関係
■報告キーワード
地震、避難訓練、不安
■報告要旨
1.はじめに
災害時に適切な状況認知と行動判断をすることは精神障害者や知的障害者には困難であると考えられ、精神障害者施設や知的障害者施設では、利用者でなく職員の避難支援行動の訓練が行われてきた。精神障害者の災害時の困難としては、睡眠導入剤の影響で起きられずに避難できないこと、幻聴に避難を否定されて避難できないこと、平時から「緊急事態でパニックになるのではないかという不安」で生活に支障がでること、避難所で異質な行動をとる心配があることが挙げられている。
北海道の南岸中央部、襟裳岬の南端近くに位置する浦河郡浦河町にある(社福)浦河べてるの家(以下、べてるの家)は、昭和59年に設立された精神障害者の地域活動拠点で、100名以上のメンバーが活動している。べてるの家では、当事者が主体となり、町役場、自治会および国立障害者リハビリテーションセンター研究所(以下、国リハ)の協力を得て、地震による津波対策に重点をおいた避難訓練を企画・運営している点で特異であることが知られている。そこで、本研究では、べてるの家、町役場、町内会のそれぞれの視点から、精神障害者の津波避難と準備状況について明らかにし、災害時避難を契機にした精神障害者の共生のあり方を考える。
2.対象と方法
べてるの家のソーシャルワーカー1名に対して防災活動の経験を、浦河町役場職員及び自治会長に対して防災活動及び「べてるの家」への意識を面接法により調査した。
3.結果
1)災害時に、町役場は災害時要援護者名簿ではなく平時のサービス体系を活用した安否確認と事後の支援を実施した。べてるの家とも防災活動の事前協議により、災害時の連絡系統が確立していた。
2)地域活動に積極的な自治会は、防災活動をべてるの家と共同で行うことで具体的な協力関係が形成されていた。
3)「べてるの家」では、図上訓練を含む年に2回の避難訓練、防災ミーティング、マルチメディアマニュアルの使用により津波に対する避難目標「4分で10m登ること」を達成し、3つの地震で避難を実現した。しかし、「避難所での生活および災害に関わる不安」等の課題が残されていた。
4.考察
10年に亘る防災活動でも残された課題はあったが、当事者組織の防災活動から、町役場と自治会による自然な協力が引き出されていた。残された課題の一つである「避難所での生活および災害に関わる不安」への対策案は立場により異なり、合意形成には、なお、時間を要することが示唆された。
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