障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

杉野  昭博 (すぎの あきひろ)  首都大学東京

□共同報告者

KG杉野ゼミ3期  関西学院大学人間福祉学部

■報告題目

障害マークを通じたコミュニケーション〜こんなマークご存知ですか?

■報告キーワード

見えない障害、自己開示、配慮

■報告要旨

「障害マーク」について調べてみようと思ったきっかけは、ゼミ学生のAさんが「見えない障害バッジ」に興味をもちゼミで紹介したのが始まりでした。世の中の出来事に疎い私は、大野更紗さんとせちろうさんが運営している「わたしのフクシ。」というサイト(http://watashinofukushi.com/ 2013年6月25日DL)のことなどまるで知りませんでした。

大野さんはこのサイトで、日本の社会保障制度を「ジャングルジムのような、複雑怪奇な使い勝手の悪い、欠陥と矛盾とすき間だらけのもの」と表現し、それは「『わたし』のことを知らない誰かがつくった言葉」によってつくられた「制度」だからだと述べます。そして「わたしのフクシ。」では、誰もが自分の言葉で社会保障制度を語ることを呼びかけているようです。

そんな「わたしのフクシ。」が生まれたきっかけは、大野さんをはじめとして「目に見えない障害」を持ちながら障害者福祉の対象にならないために「困っている人たち」によるツイッターなどでのコミュニケーションだったようです。そうしたコミュニケーションの中から2011年に生まれたのが「見えない障害バッジ」だそうです。周囲からなかなか理解されない事情をもった人たちが、周囲に対して「見えない障害」について知ってもらうために始めたようです。いわば、「自己開示マーク」とでもいうのでしょうか。

ゼミ学生の発表を聞いて、私は「見えない障害バッジ」と似たようなものを見た記憶があることに気づきました。10年くらい前でしょうか、東京の蒲田の駅ビルのエレベーターに乗った時に、5〜6歳に見える女児をバギーに乗せているお母さんと一緒になりました。「なんでこんなに大きな子をバギーに乗せてるんだ?」と怪訝に思ったのですが、よく見るとバギーのハンドルに「障害をもっています」と書いてある黄色のワッペンが貼ってありました。その時私は、「障害児の母親が堂々と子どもの障害を名乗れる時代になったんだ。さすがに東京は進んでるなあ」などと、少しとんちんかんな感想をもちました。そんな話を学生たちにしたところ、それが「愛のワッペン」というもので、NPO法人「自立支援グループマーチ」(http://www.geocities.jp/musicmarch1212/index.html)によって実費配布されていて、自閉症の子供を育てる女性2人によって考案されたものだということを調べてくれました。これも一種の「自己開示マーク」だと思います。

同じ「自己開示マーク」でも、法律で義務づけられたものもあります。道路交通法で条件つきで運転免許が交付された肢体不自由者に義務づけられる「身体障害者標識」と、ろうの運転者に義務づけられる「聴覚障害者標識」です。身体障害者標識は努力義務ですが、聴覚障害者標識は、初心者マークと同様に表示しないと1点減点され反則金もあるそうです。この違いは何に由来するのでしょうか?また、一般ドライバーがこのマークの車に、幅寄せや割り込みをすると減点と罰金なのだそうですが、とくに耳が聞こえないと幅寄せや割り込みをされると困るという事情は何なのでしょうか?

いずれにしろ、自己開示マークにも自発的なものと非自発的なものがあり、また、一般の人に対して、「とりあえずそういう存在を知ってほしい」といった「とりあえず啓発型」から、「このマークを見たら席をゆずってほしい」とか「幅寄せしないでほしい」といった「具体的注文型」まで色々な意図があるようです。

一般の人ではなく、障害のある人にだけわかればよいというマークもありました。「筆談対応できますよ」という意味をもつ「耳マーク」は、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会がつくったもので、このマークがあると難聴者は援助の依頼がしやすくなるそうです。このほか、「補助犬大丈夫ですよ」という「ほじょ犬」マークは、補助犬を連れた人がお店に入りやすくなるためのものでしょう。また、オストメイトマークは、オストメイト用のトイレがあることを示しています。これらのマークは、一般の人に知ってもらうという啓発目的もあるでしょうが、一義的には、健常者でなく特定の障害のある人に見せることを目的にしたマーク、つまり「特別配慮マーク」なのかもしれません。

「障害マーク」は、障害のある人と、ない人と、その中間の人など、さまざまな立場の人の間のコミュニケーションを開くものです。そして、そのコミュニケーションの性質や目的や方向性にも色々な種類があるようです。学会当日には、そうしたことをできるだけ調べてその成果を報告したいと思います。また、「障害マーク」について、ご存知の方は私たちにマークについて何でも教えていただきたいと思います。障害学会で、当日参加されたすべての方と「障害マーク」を通じたコミュニケーションが開けるとよいなと考えています。