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障害者自立支援法の現状と課題
日本社会事業大学教授・日本障害者協議会理事 佐藤久夫
障害者自立支援法は本年4月から1割利用料負担や日額制など一部が
実施され、10月からは障害程度区分、新事業体系への移行、障害福祉計
画など本格実施が迫っている。実施5ヶ月後、その実像が見えてきた。
まず利用者・家族から悲鳴が聞こえてくる。通所施設をやめて家に閉じこ
もった人、年間20万、40万円の負担増で家計を切りつめる人、負担軽減
措置のために本人と家族の収入・預貯金・不動産を書かされ「貧乏のつらさ
を思い知らされた」と泣く人、職員減で目が届かなくなったので(歩けるのに)
施設内では車いす利用を命じられたてんかんのある人---。
事業者も報酬単価の切り下げ・日額制で10−40%の運営費減を迫られ
ている。職員の解雇・非常勤化、給料・交通費カット、利用者増、土日の開所、
旅行・行事の中止で対応している。30年前、社会福祉を目指す学生は親か
ら反対されて大学に入学する例が多かった。給料・労働条件の悪さを熱意で
補う時代にもどるのかと思う。
自治体もこうした困窮と不安を一手に受けとめつつ、情報・時間・職員の不
足のなかでスケジュール消化に追われている。「市の担当者自身がよくわか
っていなかった」という声も多い。やむなく独自の負担軽減を行うところが増え、
法がなくそうとした較差が広がりつつある。
法律を作った側はどうか。6月に日本知的障害者福祉協会が開いた5500名
の集会に44人の与党議員が参加し、多くが「喜んでもらえると信じて成立させ
たが、このような抗議の大集会が開かれるとは」とショックを表明した。「障害
者も働ける社会に」、「低所得者には十分な負担軽減措置を講じる」などの説
明を安易に信用したといえる。
厚労省も財務省にせかされまさに「走りながら考えて」進めてきた。その典型
が法案上程後の「試行事業」でつくられた障害程度区分である。ほとんどの関
係者が障害者のニーズを反映しないという。ただこれは「急いだから不備があ
る」よりも、要介護認定結果をあまり変えないという誘導のもとで実施された
2005年の試行事業自体に問題があった。
ではどうしたらいいのか。
「財政難の時代、定率負担なくして国民理解は得られない」といわれるが、
月収6〜8万の人から1〜2万の利用料をという意見が、ほんとうに国民の代
表的なものか。しかもその「サービス」は生存に不可欠の介護や補装具であ
り、社会参加に必要な訓練である。政府が海外でもやっていると示したイギリス
では、最低生活費プラス25%は少なくとも手元に残し、しかも勤労収入や障害に
伴う出費は控除するなど、似て非なる例であった。
「定率負担」と「心身機能に基づく障害程度区分」は、「必要な人に必要なサ
ービス」を阻害し、結局は問題の深刻化によって社会全体の負担を重くする。
このため欧米では(基本的には)採用されていない。代わって自治体と専門職
を信用し、あわせて利用者の不服申し立て制度とサービス水準への市民参加
の仕組みを設けている。
3障害の統合、市町村への一元化、障害福祉計画などよい面もある法律で
ある。
厚労省も実態に基づく必要な修正は3年後を待たずに行うとしている。そのた
め、とくに自治体・利用者・事業者が一つテーブルについて市民参加の下で議
論し、事実に基づく改善案を提起することが大切である。その際は、国会が議
論できなかった自立の概念や障害者観などの基本的問題をベースに据えて
欲しい。
(2006年9月18日 福祉新聞 論壇)
※原著者による一部修正あり