TOPへ戻る
戻る
障害者自立支援法は廃止すべき
医師 蟻塚亮二 (サマリア人病院)
いよいよ10月1日から障害者自立支援法が施行される。この法律は
成立した後に、小出しに、大慌てで厚労省から内容が提示されるという、
かつて前例のない泥縄式の法律であった。そして最近になりようやくそ
の全貌が明らかになった。
さて私は、那覇市の同法審査委員会委員として障害の重度判定区分
を精査し、とりわけ判定区分を上げるべく努力してきたが、同法の全貌が
明らかになるにつれ、これに審査委員として協力するのは誤りだとの結論
と反省をするに至った。そこで同法審査委員をやめることにした。以下に
同法の問題点を列挙する。
@ 筋ジストロフィーで呼吸がままならず、定期的にチューブで痰を取らな
いといけない人や、そもそも社会的な役割の喪失が主たる内容である
「精神障がい」をもつ人が働いて社会的役割を回復することは、憲法で
保障された当然の権利である。しかるに同法では痰を取るケアを金で買
わないといけない。呼吸するにも金のかかる社会なんてあるか。呼吸し
たり働くことは決して特殊な「オプション的サービス」ではない。従って呼
吸したり作業所に通って働くことは、金を出して購入すべきサービス筋合
いのものではなく、「応益負担」を求めることは正しくない。
A 社会に参加することは「障がい」を持つ人には空気のように無条件に提
供されるべきものである。従って、作業所に通ったり外出したりすることは
「応益負担」によって買い求めるべきサービスではない。
B 私は「精神障がいを持つ人の就労に関する欧州会議」(CEFEC)の会
員として、10数年この会議に参加してきたが、「障がいにみあった保護的
労働環境の下で働くこと」はCEFECが提案し、欧州議会が採択した「障
がい者の権利」であり欧州各国はその遵守を義務づけられている。決して
金を出して購入するサービスではない。日本国憲法においても勤労は権
利としてうたわれている。
C 介護保険を修正して作られた自立支援法は、精神障がいの重症度を的
確に評価できない。精神障がいをもつ人がより多くのサービスを受けるた
めには派手な迷惑行為を行い、問題行動を増やさないといけない。社会的
に孤立してアパートに一人で生活している人は、「コミュニケーションの障が
い」「無為・自閉という問題行動」なのだが、そのように評価せず「何も問題
がない」とする。
D 「障がい」の重さと、そのために必要な福祉サービス購入費用を定率自己
負担とする制度は国際的に例をみない。私は、この法律の不当を前述の欧
州会議(CEFEC)や国連の人権委員会に訴えようと考えている。
E 以上のようにほころびだらけの同法の施行にあたり、当面は各自治体が
独自に対策を講じて「障がい」を持つ人が新しく不利益をこうむらないように
するべきである。しかし可及的速やかに同法は廃止されるべきである。新
法は、当事者主体の自立支援法であるべきである。
F 社会保障や医療などの「社会的コスト」を極限まで削減して経済的競争力
を高めようとする政府の政策に基本的な誤りがある。経済的格差の拡大、
療養病床からの高齢者の追い出し、高齢者の医療費自己負担の増加などに
見られる「社会的コスト」削減政策と自立支援法は密接に関連している。これ
と対峙しなければ問題は解決しない。しかし小泉内閣は、日本医師会や厚労
省族議員をも「抵抗勢力」と呼んで医療制度の改悪を押し進めた。小泉後継の
安部内閣に対して自立支援法の改善を求める勢力も、同様に「抵抗勢力」呼
ばわりされることは必至である。従って、同法の「話し合いによる改善」はそも
そも無理であり、廃止しかない。
G このような「社会的コスト」削減政策は、憲法と教育基本法の改悪をあから
さまに表明する安部内閣の好戦的政策と無縁ではなく、自立支援法の問題は
平和の問題とも直結している。