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障害者自立支援法 支給決定プロセスをブラックボックスにするな
=市町村審査会医院を囲んでの勉強会から=
東京地業研 山本 則昭
10月からの障害者自立支援法の本格実施に向け、各市町村では、障害程度
区分の認定作業が進められている。東京地業研では、各地の市町村審査会の
状況を調査している。今分かっている範囲でも、審査会の成り立ち、活動状況に
自治体ごとにかなりの違いがあることが分かった。例えば、一合議体当たりの人
口は22,000人〜168,000人と8倍の格差がある。自治体によっては、少数で
あるが障害種別ごとの合議体を設けているところもある。一次判定結果の変更
(精神)については、ほとんど変更がないところからほとんどが全数アップするとこ
ろまで、かなりの差がある。なお、審査会委員の名簿「公開」については、次の斎
藤さんの稿に詳しい。
審査会の状況をより詳しく知るために、さる8月21日、審査会の委員をしている
有志の方々に審査会の状況を報告していただく勉強会を持った。
そこで出された声を拾ってみる。「一次判定の資料を見ていると、調査票の記入
の仕方などから、認定調査がどれくらい丁寧に行なわれたか察しがつく。かなりの
ばらつきがあり、必要と思われる支援者からの意見聴取もなく調査票が作られた
と分かる場合もある」「一時判定ソフト自体の信憑性に問題あり」「判定の変更基
準が国からも示されていない」「医師意見書を読むのが大変。専門用語は調べら
れるが、字が読めない」「精神の場合、区分は上がりにくく区分2がせいぜい」「よ
り多くのサービスを受けられるようにと、区分を重くするよう努力しているが、その
分自己負担は増える。重く出て良かったねという意識の蔓延には疑問を感じる」
また、審査会そのもののことではないが、「調査票は審査会で使うためのものだ
からと、調査の結果を本人には見せない」という自治体もあるとのこと。
一回の審査会での審査件数は20〜30件、特に8〜9月はかなりハードな作業
日程をこなしているが、それでも多くの自治体で認定作業は進んでおらず、このま
までは10月以降も暫定支給という形になるのでは、とも見られているとのこと。
どの委員も制度そのものの問題を感じつつも、判定結果の影響の大きさを考え、
目前の状況の維持、改善のために、一次判定のあり方への意見をはじめとして、
よりその人の障害を適確に反映した区分判定にするよう努力している。しかし、
そうすることで問題をはらんだ制度そのものを補完していくことへの矛盾を意識し
ている。これは、審査会の委員だけでなく、この制度に携わる多くの人たちの思い
でもあるだろう。
「サービス支給の公平性、透明性の担保」を建前として障害程度区分制度は導
入されたと聞く。しかし、果たして「障害の程度」を客観的に数値化して測れるもの
だろうか、それも全障害一律に。机上の幻想を無理やり現実の中に放り込んだよ
うな乱暴さを感じる。しかも、決定された障害程度区分が、支給されるサービスや
自己負担金額を決める上で大きな影響を与えることになってしまった。人にはさま
ざまな生活があり、事情があり、意味がある。そのなかで、「障害」ゆえの不自由さ、
不利益がある。それに対応して福祉サービスはあるはずだ。一人一人の生の意味
が違い、「障害」の意味も違う。その「意味」を新しい制度は排除する。
障害程度区分の決定プロセスの中で唯一障害当事者と面する機会は、認定調
査である。しかし、その認定調査は、本人が初めて会う調査員によって行なわれた
り、本人がそれと知らずに済んでいたり(説明と理解がどの程度可能かと言う問題
はあろうが)、支援者の同席や意見の機会が与えられずに行なわれたりといった問
題が生じている。調査の時間は長ければいいというものではないし、本人の負担も
あると思うが、聞こえてくる話ではかなり簡単に済まされている例も多いようだ。そし
て、審査会では、本人不在の中、一次判定の結果、調査項目、特記事項、医師の
意見書などを資料として審査される。そこに、どれくらいの生活のありよう、障害のあ
りようがすくいとられているのだろうか。
多くの課題、問題を孕みつつ、認定作業は進んでいく。各自治体では、障害程度
区分に対応した支給決定基準が作られつつあるという。今後、決定された障害程度
区分は障害当事者に知らされ、サービスが決定されていくというが、そこに交渉の余
地、機会の保障はあるのか。また、サービスの決定への不服審査はどの程度機能し
ていくのか。そもそも障害程度区分と支給決定との関係が不明確だ。疑問や不安は
尽きないが、申請から支給決定に至る一連のプロセスの中で、市町村審査会が大
きな役割を負うことは確かだ。
「公平性、透明性」という建前と、不公平で不透明な実態との乖離を当たり前にして
はならないし、そのために審査会をはじめ支給決定プロセスをブラックボックスにして
はならない。
なお、審査会委員を囲んでの勉強会の第2回を、10月16日に企画している。