Enough For Today? 平成11年3月17日
代表 岡部 耕典 様
拝復 早春の候、いかがお過ごしでしょうか。
日頃より岡部様には東京ディズニーランドにご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。過日は東京ディズニーランドインフォメーション・デスク宛にお手紙まで頂き、大変恐縮に存じます。また、ご連絡が遅くなりました非礼を、お詫び申し上げます。
岡部様からのご要望の件、真摯に拝読させていただきました。
東京ディズニーランドは、ウォルト・ディズニー・エンタープライゼズ社との業務提携により、弊社(株式会社オリエンタルランド)が運営をいたしております。運営に関するポリシ−や手順等はアメリカのディズニー・テーマパークに準じて設定をいたしておりますが、アメリカ側で追加導入されたシステムが自動的に東京ディズニーランドに組み入れられるような機構は存在しておらず、その全てが同じではないという実情を第一にご理解いただかなければなりません。
今日までに私共も日本国内のバリアフリーに関する動向を注視し、パークを訪れる全ての人に優しい施設環境の提供と、不便を感じることのないパーク運営を目指し、改善・検討を続けております。この度岡部様よりご要望をいただきましたように、車椅子の利用や歩行補助具の利用といった移動に関する機能以外に障害をお持ちのお客様方への対応につきましては、残念ながら現在のところ明確なシステムが確立されておりません。アメリカ側で導入されております"スペシャル・アシスタンス・パス"につきましては、私共も同等システムの導入に向けて検証、検討を進めております。
ここでご理解いただきたいのは、このシステムがアメリカ国内で稼動しているとは申せ、即座に東京ディズニーランドにも導入・稼動ができるというほど、安易な内容ではないということです。このシステムを導入するには、発行する側、受ける側の双方に対し、障害に関する専門的な教育を施す必要が発生いたします。アメリカでもお客様からのご申告全てに対し、このシステムを発行しているものではなく、お客様のご事情に合わせた援助がなにであるかを的確に判断できる知識をもって発行をいたしております。
また、このシステムは、ただ単にアトラクションの待ち時間を減免、回避することを目的としているものではなく、何らかの事情を有するお客様に対し、助力しうる内容を記し、その内容をスムーズにキャストに伝える手段として用いられているものでございます。
このような正確な判断を下すためには、高度な専門知識が要求され、その教育を行う側にも当然それを上回る知識と情報が要求されることは避けようがない事実としてご承知いただけるかと存じます。
日本は、欧米諸国ほど、障害に関する教育やマナーが浸透していないという決定的な弱点があるかと存じます。私共と同様業種であります百貨店や航空旅客業では、接客にあたるそのほとんどが定着勤務の社員であり、高度な専門教育を施すことでそのままのレベルを維持・向上することが可能な環境にあります。しかし東京ディズニーランドでは、最前列で接客にあたる従業員のほとんどが就労サイクルの短いパートタイム型(非定着型勤務者)であるため、この種の高度な専門教育を行える環境には及んでおりません。いかに内容を凝縮し短時間で行ったとしても、実際に対応を行う場面では大変デリケートな内容であるため、確実な対応が行えるという確証には至っておりません。
私共が提供するサービスは、そのすべてが完璧であるとは申せませんが、その完成度が低いまま実際のサービスに組み入れることは避けなければなりません。こうした点につきましては、ディズニー側の検証・制約を受けるものでもありますので、そうしても時間がかかるものであるということをご理解いただきたく存じます。
現在東京ディズニーランドにおいては、車椅子ご利用の方への対応が最も先行しており、今後はその他の障害を有する方々へのサービスを充実させて行くべく活動を行っております。その中のにとつに"スペシャル・アシスタンス・パス"も確実に含まれておりますが、前述の事情により現時点ではその具体的な導入の時期を明示することはできません。
また社内機構的なことで恐縮ではございますが、このお手紙の宛先に「バリアフリー専門チーム」とありましたが、現実的にはパーク運営部門、施設計画・整備部門、教育部門にて構成される協議体、「バリアフリー検討チーム」であり、バリアフリーに関する事項の決定機関、もしくはバリアフリーに関する強力な権限を有するといった機関ではございませんので、誤解の無きようお願い申し上げます。
こうしたこと等から、もうしばらくの間ご不便をおかけすることになりますが、諸事情ご勘案のうえご理解賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、ひとつご留意いただきたいことがございます。それはウォルト・ディズニーワールド、ディズニーワールド共に、この"スペシャル・アシスタンス・パス"というシステムの存在を対外的に公表いたしておりません。これはディズニー・テーマ・パークが基本的に万人に平等であるという理念に基づいていることと理解いただけますでしょうか。岡部様の書面の中に、貴店のホームページへの掲載というお話がございましたが、この点をご配慮いただきたく謹んでお願い申し上げます。
大変お時間を頂戴いたしましたうえに明快な返答をお届できず、私共も歯がゆい思いでございますが、ウオルト・ディズニーの考えた「訪れる全ての人に幸福を感じてもらえる場所」を目指し、これからも鋭意努力を重ねて参る所存でございますので、何卒ご理解を賜り、岡部様におかれましては今後ともますますのご支援の程、重ねてお願い申し上げます。
岡部様のご多幸とご健勝をお祈りし、略儀ながら、書中をもちまして返答とさせていただきます。
敬具
東京ディズニーランド
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