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【質問12】 
   息子は施設に入所していますが,息子の使っている施設に後見人を御願いすることはできますか?

【質問13】
  私の息子は既に成年後見を利用しています。後見人は母親です。しかし,母親も高齢なので,新たに後見人を追加したいと考えています。既に後見人がいる場合でも,後見人の追加は可能ですか?

【質問12・13に対する回答】
 質問12,13とは答えはイエスです。但し,質問1では条文上クリアーすべき問題はあります。

法人後見
【民法843条4項】

 成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

 簡単にいえば,施設も後見人になることはできます。

【手続について】
  質問3の回答参照のこと
後見人の追加


 成年後見人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項(成年被後見人・その親族・利害関係人を指す)に掲げる者若しくは成年後見人の請求によって,又は職権で,更に成年後見人を選任することができる。

 簡単にいえば,追加は可能です。

【手続について】

@ 被後見人の住所地の家庭裁判所に申立をします。
A 申立ができる人は,被後見人,その親族,利害関係人(利害関係人の中には入所施設なども含みうる)です。
B 申立費用は次のとおりです。→申立手数料は600円,予納郵便切手は3200円程度
C 弁護士に依頼する場合は,10万円〜20万円程度が弁護士費用となります。
D 添付資料(申立人の戸籍謄本,本人の戸籍謄本,戸籍附票,後見登記事項証明書,成年後見人の候補者の戸籍謄本,住民票,身分証明書,登記事項証明書)が必要になります。法人の場合は資格証明書が必要です。NPOも後見人になることは可能です。
E 後見人を何故追加する必要があるのかを書面などで明らかにします。追加される成年後見人候補の適格性を明らかにします。すでに選任されている後見人との事務分掌の定めの有無なども定めます。(このEの部分が1番重要です。弁護士に依頼する必要があるのは,このEの記載のためです。誰でも書けますから,あえて弁護士はいらないでしょう。)

【回答12・13についての解説】

第1、 【施設は成年後見人になれるか?】
1、 民法843条の規定によれば,法人は成年後見人になれます。

2、 法人というのは,「自然人以外で,法人格を付与されたもの」をいいます。自然人とはヒトのことで,これを読んでいる皆さんのことです。
   法人というのは,公益法人(宗教法人,社会福祉法人,学校法人,日本相撲協会など),営利法人(株式会社,有限会社,合名会社など)などがあります。つまり,ある種の団体(団体というのは複数人が構成員になるのが普通ですが,財団法人というのは別です。覚えても仕方がありません。)のことです。
   皆さんが通院している病院はほとんどが医療法人**会**病院でしょうし,皆さんが勤めている施設も社会福祉法人**会となっている筈です。社会福祉協議会も法人です。

3、  法律を作った役人は,法人は人的・物的体制がちゃんとしているので,本人の財産管理や身上監護の事務を適切に遂行できる筈だと考えた訳です。ですから,法人は後見人になれます。それから法人というのと施設そのものは違います。しかし,その違いを理解する必要はありません。
*  言葉に厳格な人のためにいえば,仮称・社会福祉法人西村会,知的障害者入所更生施設薔薇色学園(なんか詐欺と搾取が蔓延していそうな名前ですみません)で考えます。薔薇色学園と社会福祉法人西村会との関係でいえば,法人というのは西村会のことです。薔薇色学園はその法人が運営する施設です。法人には理事長という人がいます。施設には施設長がいます。このように法人と施設は別の存在です。
*  なお,法人が成年後見人になったとしても,実際に成年後見業務を扱うのは,法人の職員⇒施設の職員=自然人です。名前だけのお偉い理事長さんが,利用者の金銭通帳や利用者の健康状態を見るわけではありません。

4、  勿論,条文を丁寧に読めば,どのような法人でもなれる訳ではないことは理解されるでしょう。特に利用者である被後見人と後見人の利害がぶつかる恐れがある場合には,後見人は排除されます。
   たとえば,ある利用者が150万円を寄付し,その寄付されたお金で施設側が職員の制服を購入したとしましょう。施設側は制服代金150万円を本来は施設の経理から捻出する必要があったのに,利用者に寄付させることで,施設側は1円も負担しなくて済んでいます。利用者は150万円を失い,施設は150万円を失うことなく,職員に新しい制服を提供できました。
   この場合,利用者が任意に150万円を提供したのであれば,それは利害相反とは言いません。
   しかし,例えば,施設がその利用者の後見人になっていて,その施設の判断で,被後見人である利用者の150万円を施設に寄付させたとすれば,これは明らかに「任意」という手段を濫用していますよね。このような場合,「利害がぶつかる」恐れがあるので後見人に選任されません。

5、  そのような恐れがない場合は,事業の種類・内容いかんによっては,施設も後見人になれます。

第2、 【利用者が入所・通所している施設が,当該利用者の後見人になれるか?】

1、 問題は,利用者が入所・通所している施設そのものが,その利用者の後見人になれるのかです。条文だけ読むと,なることは可能です。つまり,利害関係がなければ,利用者が利用している施設がその利用者の後見人になることは可能です。これが条文の規定から導くことができる答えです。

2、  確かに,非常に立派な施設はたくさんありますし,利用者の健康状態や性格・性向を一番知っているのは,親と施設かも知れません。その意味で,施設が適切な方法をもって後見人をすることができれば,利用者にとってもよいかも知れません。
    しかし,すでにこの通信で述べてきたように,施設での金銭横領,施設による虐待は,数多くあります。何故施設でそのような人権侵害が多発しているのかは別の機会に譲りますが,そのように多発している事実を踏まえるならば,利用者が利用している施設がその利用者の後見人になるというのは,利害相反の蓋然性が著しく高いという結論になります(利用者の入所している施設が親の同意などを得て,利用者の後見人になろうと画策をしているところがあります。そのような場合,親が施設に抵抗することは不可能ですし,裁判所もまさかそんなひどい施設があるとは思ってもいませんから,施設はやりたい放題ということになります。それを防ぐには,育成会などの親組織が強い意思を持って勉強をし,そのような施設にいる親にアドバイスをすることです。それから施設入所している当事者が声をあげるということはまずありえません。)

3、  利用者の金銭を一見「合法的」に奪うことは容易です。施設に入所されている親の中には,施設にすべてお任せという方も沢山おりますし,親のいない方の場合は事実上無権利状態です。また,利用者自身は,自分の健康状態に問題が生じても,その是正を求める術がありません。布団の衛生状態,服の状態,食べ物の状態,風呂の利用状態,対人関係,施設そのものの衛生管理など,利用者が自発的に問題提起をすることは絶対にありえないと考える必要があります。

4、  ですから,利用者が利用している施設が,その利用者の後見人になることについて,西村は反対です。

5、  西村としては,施設が成年後見人になるためには,その施設そのものに,後見業務を監督できるシステム(少なくとも,施設とは関係のない3人程度の組織。名誉職だという意識の強い人は御遠慮願う)を施設が自助組織として持っているか,オンブズマン組織があって,そのオンブズマンが契約に基づいて成年後見業務を監督できるシステムか,いずれかのシステムを採用しているようでなければ,「利害相反の恐れ」を回避できないと思います。

6、  ところで,法人が後見人になれるのですから,利用者が今現在利用している施設以外の施設が後見人になることは可能です。ところで,利用者が施設を変更することは今後頻繁になりえます(措置制度から契約制度に代わるのですから,利用者と施設の契約いかんでは,施設を変更することが理論上は可能になります)。としますと,利用者が後見制度を利用した時には,別の施設(法人)が後見人であったが,利用者がその後見人になっている施設と契約をして,入所や通所することだってありえます。そうなってしまえば,利用者の利用している施設が後見人になってしまいます。勿論,このような場合は,その施設は後見人としては不適切だとして解任することもできますが(民法846条),実際には解任などの申請を施設や親族がすることはないでしょう。ですから,法人(施設)は後見人になれるのですが,法人(施設)毎に,内部監査がきちんとできる体制になっていないと駄目だと思います。

7、 それから,内部監査の仕組みがあればいいという訳ではありません。仕組みだけなら誰でも作れます。その仕組みが作動する仕組み,その仕組みをチェックする仕組みが必要です。

8、  知的障害者の高齢者という問題は,長く施設入所していた利用者が,特別養護老人ホームや病院などへの移動を迫られるケースも発生させます。そのような場合,入所更生施設はそれまでその高齢者の性向・趣味・健康状態を把握していたのですから,施設として後見人になって,特別養護老人ホームや病院での身上監護や財産管理をすることが適切な場面も生じます。とりわけ,高齢になった場合,親族がいなかったりする場合もあるし,親族がいても遠方でその高齢者の諸問題を理解していないことがあるからです。このような場合には施設は積極的に後見人になったらいかがでしょうか?

第3、 【既に成年後見人が選任されている場合,成年後見人を追加できるか?】

1、  追加は可能です。質問2のケースのような場合はよく聞かれるケースです。例えば既に禁治産宣告を受けている場合,親が禁治産宣告として後見人になっている場合でも,追加的に成年後見人を追加できるのです。

2、  とりわけ,先ほど述べた法人後見を行っているような場合,内部監査制度やオンブマン制度によって,利用者の健康管理の問題,金銭利用状況の問題などから,後見人を複数にすべきだとなったような場合,追加的に後見人を選任すべきだと思います。

3、  多くの家庭では,後見制度を利用するにしても,とりあえず親が後見人になるでしょう。それは選択肢として間違っていないと思いますが,親が息子さんや娘さんに持っている思いが強すぎて,入所や通所(地域生活のありよう)に問題を抱えてしまうこともあります。

4、  親は子どもを過剰に保護しがちです。子どもに障害があるか,障害がないかには関わりなく,過保護になりがちです。しかし,過保護の結果,子どもの自立を阻害し・自己決定権の行使の方法を奪い,あることに挑んで失敗する権利を剥奪し,地域の人々と交流するチャンスを捨てさせているとしたら,それはやはり問題です。障害があろうとなかろうと,人間は失敗から学ぶし,回りの関係者も関わりの中から学習する筈です。だから,後見人として親以外の方をいれる必要がない訳ではありません。

5、  なお,弁護士や司法書士は金銭管理の専門家に過ぎません。身上監護をこれらの金銭管理専門家に依存してはいけません。ただ,金銭管理専門家ですが,親よりは年金の使い方を有効にしてくれる筈です。ガイドヘルパーをつけて,国内旅行や海外旅行に利用者を連れていくかも知れませんし,素敵なベットや家具を部屋に設置することをアドバイスするかも知れません。何故なら,成年後見制度は,利用者の自己決定権の保証(能力の活用)を促進する制度の筈ですから,その制度趣旨を理解している専門家である弁護士・司法書士なら,金銭の有効利用を考えてくれる筈だからです。ただ,そのためには,弁護士・司法書士に知的障害者を理解させる講習会を親の会などはもつべきでしょう。

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