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【質問2】
 成年後見制度を利用しようと思っています。後見,保佐,補助のどれを使えばいいのでしょうか。基準を教えてください。

【質問2に対する回答】

 後   見
精神上の障害に因り事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法7条)
 保   佐
精神上の障害に因り事理を弁識する能力が著しく不十分な者(民法11条)
 補   助
精神上の障害に因り事理を弁識する能力が不十分な者(民法14条1項)


痴呆,知的障害,自閉症,精神分裂病,遷延性植物状態等
事理を弁識する能力
意思能力のこと。
 意思能力とは自分の行為の結果を判断することのできる精神的能力(5頁)
 簡単にいえば,法律行為が利益になるか不利益かを理解する能力
従って,知的障害者・自閉症者は,精神上の障害のある人ですから,意思能力の不足の程度によって,後見,保佐,補助を使うことになる。

【回答についての説明】
1、  当該知的障害者の「事理を弁識する能力」の程度が[欠く常況][著しく不十分][不十分]のどこに該当するかを,主治医,施設職員,福祉事務所等のアドバイス等から判断します。

2、  しかし,「欠く常況にある」「著しく不十分」「不十分」という基準から,機械的に当該知的障害者の場合どこにあてはまるかがわかることはないでしょう。「事理弁識能力」「欠く常況」「著しく不十分」「不十分」は法的な評価の問題だからです。

【額田洋一弁護士の説明】

 質問2に対して,額田洋一弁護士(こうして使おう,新成年後見制度・税務経理協会発行という著作)は,「『後見』は日常の買物もできない程度,『保佐』は重要な取引行為ができない程度,『補助』は重要な取引行為について援助があったほうがよい程度が目処とされます」と記しています。
 
 なお,額田弁護士の後見に関する説明を読むと,「植物人間」「重度の痴呆で寝たきり」とあり,知的障害者についての具体例はありません。
 額田弁護士も「後見」は権利侵害の程度が大きいので,よほどのケース以外は使わないという考えのようです。私もそう思います。

【知的障害者は必ず成年後見制度を利用しなければならないの?】

1,知的障害者の現状をまず知ってください。
 (国民の福祉の動向2000年第47巻第12号参照。平成7年9月時点の資料が掲載されています)(この通信の118頁〜119頁も読んでください)。

  在宅の知的障害者の総数は29万7100人です。軽度の人が7万1700人,中度の人が8万7700人,重度の人が9万1200人,最重度の人が3万7100人,不詳が9400人でした。20歳以上の人は17万8900人です。
   在宅の知的障害者の場合未成年者は12万人ですが,これは幼児・就学している児童・生徒だということになります。

  入所している知的障害者は11万5900人です。入所している知的障害者の殆どが成年ですから,成年の知的障害者は29万人となります。なお,知的障害者数は41万3000人で,これは人口比1000人対3・5人になります。

  知的障害者援護施設の数は全国で2726箇所で,定員は14万人です。北海道は173施設で定員が1万185人(1998年10月)です。東京が7000人,大阪が5000人,神奈川が4700人,奈良は934人で最小の定員です。  

  人口10万人の町に350人の知的障害者がいる計算になりますから,人口15万人の小樽市ですと510人ほどいることになりますね。

2、  29万人の成人知的障害者が全員成年後見制度を利用しなければならない訳ではありません。成年後見制度は自己決定権の尊重を謳っていますが,実際には本来個人が自分の意思で自由にできる筈の権利を制限する制度です。ですから,権利を制限することでその人の自律や尊厳を守る必要がある場合を除けば,成年後見制度を利用しなくてもいいのです。本来ある筈の権利が制限されるという制度だという認識を持ってください。

3、  ではどのような場面で,成年後見制度を利用することになるのでしょうか。いくつかの相談例をあげて考えることにします。

【相続の場面】

1、 父親が亡くなり相続が始まるという場面を考えます。相続人は母親と兄弟・姉妹となるのが普通です。この場合,兄弟らが知的障害者に相続放棄の書面を書かせることがあります。そして兄弟・姉妹らは相続放棄をした知的障害者を除けて(相続放棄をすると,当該知的障害者は相続人ではなくなります。但し,その知的障害者に子どもがいる場合は別の問題がある)遺産分割をしてしまうというケースがあります。

2、  この場合,知的障害者本人が相続放棄の意味を理解してそして相続放棄をするなら致し方ないかも知れません。

3、  しかし,皆さん自身のことを考えてみてください。皆さんは相続放棄をしますか?親からある程度の遺産を分けて貰えるという場面で,その遺産は要らないよといいますか?貰えるものは貰う筈です。ですから,知的障害者(身体障害・精神障害も同様)だから相続放棄を安易にしてしまうというのは非常におかしなことなのです。管理ができないというのが理由なら,それこそ管理契約を締結したり,任意後見人を選んだり,この成年後見制度を利用すればいいことです。ですから,財産を管理できないからというのは理由にはなりません。相続放棄を勧める場面は,親の借金が多く,相続をしたら負債で首が回らなくなる場面だけというを原則に考えるべきではないでしょうか。

4、  なお,権利擁護センターすてっぷの吉田勧弁護士は「本人が全部分かった上で,それでもいい(相続放棄のことです)と言った場合に,「いやそれでは損だからやめなさい」と言えるかというと,それは違います(中略)。それを決めるか否かは本人が決定することです。本人の理解できないところを援助する,後は本人に決めてもらうという態度が必要です」と言われています(「ふつうに生きたいな」185頁,全日本手をつなぐ育成会)。

5、  私は吉田弁護士と違って「それは違う。やめた方がいい」と強く根拠を示して説得的発言をすべきだと思います。私が静岡で市民運動として脳性麻痺の障害者らに関わっていた時は,「相続放棄!それは止めろよ。良く考えようよ。自分で生活するための財産じゃないか。放棄はやめろよ」といっていました。弁護士になってもそのスタンスは変わりません。支援者とは何かという評価・価値観の問題ですが,知的障害者が地域生活を送るためには今の年金制度では収入面では絶対不足ですから,正当な権利である相続は強く勧めるべきだと私は個人的には思います。

6、 私はこれが常識だと思っています。そうだとすると,相続放棄などという方法をやめさせることが必要になりますが,しかし私の経験では相続放棄の書面は知らないうちに持ちこまれたり,説明もうけずに相続放棄書に署名をさせられるのが一般です。

7、  知的障害者の生活のことを心配する通所施設の職員やバックアップ職員や入所施設の関係者は,相続放棄などしなくていいのではないのかと考え,弁護士に相談しようとなります。そこで事が発覚します。

8、  障害者に理解のある弁護士であれば,当事者から,「あなたは今後どのような生活をしたいの」「あなたの生活資金はどうなの」「兄弟・姉妹とはこれまでどういう関係なの」などと,知的障害者の能力や経験を踏まえて質問します。場面によってはイエス・ノーで答えることが出来るようにしますし,誘導しないようにして質問をします(誘導というのは,質問をする人が期待する回答がなされるような形で質問することです。知的障害者の場合,語気を強めたりすれば誘導は簡単にできます)。

9、  障害者と付合いのない弁護士だと,知的障害者がいいたいことを言わせない結果になることがあります。知的障害者の場合,論理的な説明や回答が苦手ですが,それを弁護士が理解していないことがあります。そのため,弁護士が誤解します。また知的障害者は質問者の質問した言葉の意味が分からないとき,質問の意味を確認する機会を逃してしまい,質問の意味が解らないまま回答することがあります。その結果,弁護士が誤解します。

10  知的障害の持っている問題点を理解しないまま,知的障害者に回答をする弁護士は多いです。当該知的障害者は自分の気持を伝えたいけれど,弁護士の矢継ぎ早の質問に驚いて,質問についていけないのです。

11  知的障害者に理解のある弁護士なら,知的障害者の説明に耳を傾けてくれます。そして知的障害者に向って「相続放棄は無効だよ。そして遺産分割も相続人を排除しているからやり直させることができる」と教えてくれます。

12  そして知的障害者に理解のある弁護士なら,親や親族や兄弟が何故その知的障害者を排除して相続をしたのかを吟味します。兄弟の1人がその知的障害者の世話を全て負担するという約束をしていたのか,その約束はどのように担保される仕組みなのか等について,情報を集めてくれます。親の説明や兄弟の説明そのものよりも,施設入所の経緯,施設利用の経緯,障害の程度と障害に対する理解などを考えてくれます(養護学校を卒業するまでは全く子どもの世話をしてこなかったのに,年金が貰える年齢になると,突然親だから子どもの世話をすることにしました,と連絡をいれてくる親がいます。そういう親に親としての権利行使などを認めては駄目です)。

13  勿論,弁護士だけでそのようなことができる訳ではなく,施設職員,養護学校時代の信頼のおける教員,奉仕活動の仲間等関係者の意見を尊重します。

14  それらの結果,適切な相続をした方が知的障害者の自己決定権や自立の観点や,本人の意思を尊重する観点から,その知的障害者の意思能力の程度,当該問題に対する理解力の程度,今後生じうる問題に対する対応方法への配慮等を検討して,「被後見」「被保佐」「被補助」を選択することになります。

15  ところで,知的障害者であっても弁護士に事件を依頼することはできます。つまり,知的障害者自身が契約当事者になって弁護士を雇うことはできます。ですから,成年後見制度など使わずに,知的障害者が弁護士を雇って(雇うことを法律用語では委任契約といいます),その弁護士を手足のように使って,相続放棄は無効(錯誤),取消(詐欺)だと主張することも可能です。しかし,私の経験では,そういう形で争う場合,相続放棄を無理やりさせた親・親族・兄弟は,「あんた弁護士に騙されているよ」「弁護士に高い金払っても駄目だ」「将来誰が介護すると思うの」「もう家に戻ってこなくてもいいわ」等と脅します。この脅しは非常に効果があります。ですから,折角弁護士を雇っても,委任契約は解除しますという形になる恐れがあります。

16  ですから,成年後見制度を利用した方が交渉はしやすくなります。ただ交渉がしやすいというだけで,相続放棄をさせるような親・兄弟であれば,後見人・保佐人・補助人の適任者は親だ,兄弟だと裁判所に文句をつけます。これに対し知的障害者の方は,(例えば)北海道障害者人権センターが適任だと主張すればいいのです。裁判所は北海道障害者人権センターを後見人・保佐人・補助人に選任するかも知れません。障害者の立場で考える北海道障害者人権センターならば,相続放棄が本人の真意ではないことを,それまでの施設,通所,通勤寮,GHの利用状況,生活状況等から立証できると思います。

17  なお,遺産相続を受けさせるためだけに補助制度を利用することもできます。使い勝手がいい制度なので,私はこの制度をたくさん使って欲しいと思っています。

【サラ金で多額の借入をする人の場面】

1、  軽度の知的障害者で1番多い問題がこのサラ金です。レオタードで踊るお姉さんや,パンダさんの行進や,サッカーの神様ジーコと逆立ちする金髪女性を毎日眺めていると,借りることは問題がないと思ってしまうようです。しかもサラ金はなんらのチェックもしないで,一人に50万円程度は貸してくれます。1社で50万円ですと300万円(6社)くらいすぐに借りられます。

2、  ところが,親の多くは,子どものローンを一生懸命返済します。200万円も300万円も400万円も子ども(子どもといっても成人した軽度の知的障害者です。)のために支払っていきます。そして,どうしようもなくなって私の事務所に来る方もいます。

3、  それらの親は「息子を精神病院に入れられないでしょか」というような質問をします。精神病院の閉鎖病棟に閉じ込めれば今後借入はしなくなると考えているようです。しかし,それは間違った対応です。まず,今までの親子の関係を吟味し自律の方法を学習する場を探したり,一般人が取るだろう法的な方法である破産手続を採用したりすべきです。そしてその後に成年後見制度を利用して借入ができないようにすべきです。

4、  なお,私の少ない経験ですが,軽度の知的障害者をお持ちの親で,自宅で一緒に生活をしている人の場合,年金等行政が行っている申請手続をしていない方がいます。自分の息子は「障害者ではない」という思いがあるため,手帳などを取得せず年金も申請しないのでしょう。息子と自分とは一体だという意識があるのかも知れません。そこで息子が借り入れ・浪費した負債を親が自分の財産から払うのかも知れません。子どものことは親が責任を負うという気持は,日本人であればよく理解できる気持のようです。しかし,これは親と子が別人格だという部分を誤解しています。

5、  親と子が別人格だと述べても,障害をかかえた息子・娘と親の関係はそんな簡単には割り切れません。実際重い障害を持っている娘・息子を理解できるのは親だけかもしれません。

6、  「太郎・20歳」(前川千寿子著・秋川出版・2000円・97年5月初版)は,自閉症の息子さんである太郎さんの成長の話です。自閉症の子どもの成長が良く分かる本です。その114頁で前川さんは(学校の先生の「お母さん,いつまでもお母さんはいないのだし,その時になって困るのは,お母さん,あなたなのよ」(だから教員が叩いたりして教育・療育する)という発言に対し正当な批判をした後で)「子供の一生も親の将来も,いずれも親自身が負うべきもので…」と記載しています。

7、  学校の先生の発言は完全に間違っていますが,お母さんの「子供の一生も親の将来も,いずれも親自身が負うべきもの」という気持は気持としては理解できますが,「親自身が負う」という記載部分は,議論をすべき部分だと思います。

8、  親の将来は基本的に親が自ら負うべきでしょう。そして国が用意している福祉システムを利用すればいいでしょう。太郎君という自閉症者の場合でも,太郎君の一生は太郎君が様々な支援を受けながら,太郎君自身が決めるべき問題だと思います。様々な支援というのは,行政の支援,民間法人の支援,民間奉仕活動の支援,家族の支援等様々です。自閉症の太郎君の愛情を注ぐ人が必要ですし,それが親であることは否定しません。そのような愛情を注ぎ,もっとも子どものことを分かっている親が息子の将来に配慮するということも良く分かります。

10  しかし,××君君の人生は××君が自分で決めることなのです。その自閉症という障害のため,情報を理解したり,意思を伝えたり,情報を操作する力が弱いかもしれません(自閉症はコミュニケーション障害です)が,その弱さは適切な支援によってカバーすればいいのです。

11  それは親が子どもをどこかで放り投げるということではありません。親は親です。しかし,子も一人の独立した存在です。特別な目で見ない,しかし,必要な支援は提供する,そういう社会を作る。これが国の仕事です。われわれ市民の義務です。

12  札幌のみんなの会のリーダーの人は30歳になるまで1人前に扱われなかったとお話をしていました。今の彼を見ていると全く信じられませんが,しかし,知的障害者という言い方をされる中で,彼は尊厳を奪われていたのです。だからこそ,当事者の親は支援する人々との間のパイプを持って欲しいと思います。

13  私が述べたいことは養護学校卒業後,自宅で親と生活をしている知的障害者の方の場合,親と子(とりわけ知的障害の子)はいつまでも一体の関係があると考えてしまいがちで,親自身が知的障害者の自律の機会を奪ってしまうケースを多々みられることから,その点について注意を促したいからです。先ほど述べたサラ金の尻拭いのケースも,自律・自己責任を学習させるべきだったのに,子どもを不憫に思う親が払ってしまう。そのため子ども(子どもといっても成人です)は自己責任を学ぶ機会を失い再び借入をする。そのような息子の態度を見て親は諦め,そしてどうしようもなくなって精神病院へ御願いしますとなる。このような事案を多数扱うことから強く述べたのですが,前川さんと息子さんの関係がおかしいといっている訳ではありません(学校の先生に遠慮をした記述はありますが,それ以外はとても参考になる本です)。

14  さて話を戻します。サラ金からの借入金額が100万円,200万円に脹れてしまうと,利用者の態度がおかしくなります。そこで日常的な付合いのある職員が利用者に質問をしてサラ金のことが発覚します。そして話を聞いた職員は会議を開き,結果として保管している年金(定期)を解約して支払をします。年金がある場合(1級で年100万円,2級で年80万円/平成11年度)はこれが適切な方法です。支払をさせることで責任を理解させる必要があるからです。この場合職員が全て行うのではなく,当事者と一緒に銀行に行って,貯金額がどんどん減ることをみてもらった方がいいです。まさしく自己決定(借りること),自己責任(払うこと)の原則を実践させます。

15  しかし,知的障害者の場合,懲りない人がいます(健常者でも親が負債を払うと直ぐ借入をしますから,知的障害者だけの問題ではありません)。この場合,破産制度を利用すればいいと思います。殆ど浪費が原因でしょうが,今の裁判所であれば破産をさせてくれます(障害基礎年金を毎月約7万円〜8万5000円貰っていても,更にまた年金以外に給料を10万円程度貰っていても,破産は容易にできます。17万円程度の月収では生活費を払うだけでぎりぎりですからね)。破産制度の利用も自己決定権の観点から必要です。

16  しかし,それで借入をしなくなる訳ではない人がいます(これは健常者も同じで,悪知恵が働く人は養子縁組をして他人の苗字を名乗り,再び借り入れをします。苗字が変わっても同一人物ですから,二度目の破産は困難です)。ススキノあたりで生活をしている人は良くこういう悪さをやっています。また知的障害者の方が知らない人と養子縁組をすることがありますが,その目的は今述べたようなことをするためです。

17  そのような人の場合,借入については単独ではできない―権利を奪ってしまう必要がある―と考えるべきです。自己責任の方法を2度も学習しながらそれでも学習できないのですから,しばらく成年後見制度を利用して,権利制限の憂き目を見た方がいいでしょう。このような場合には,補助が使えます。

18  また最初の失敗で職員に対し自分1人では失敗しそうだから何かいい制度はないですかと質問をする利用者もいます。そのような場合も補助制度を利用することを勧めます。

 【通信販売や訪問販売に手を出す癖のある人】
  
1、  軽度の知的障害者で健常者と同じ生活をすることが目標になっている人がいます。それ自体は問題ありませんが,自分が知的障害者だと悟られないように,本来質問すべき場面で質問をしないで契約をする人がいます。

2、  その結果,支払だけで限界になり,まともな食生活を送れない人(その結果餓死したり,健康を損ねたり,必要な薬を入手できなくなったりします)や,クレジット地獄に落ちる人がいます。また知人を保証人(知人もまた知的障害)にする人がいます。

3、  このような人についても,補助制度を利用することを勧めます。このような人はある局面で適切な判断ができなくなる人ですから,その局面では支援者を始めから補助人にしておけばいいのです。

【親が子ども名義で借入をするケース,年金を費消するケース】

1、 母親が息子名義でクレジットを契約して,息子名義の負債が200万円になったりするケースがあります。息子の年金を担保にするケースもあります。

2、  この場合の母親(親)は単なる寄生虫です。親が子どもにぶら下がって生活をしてもいい訳ではありません。いえ,絶対に許すべきではありません。施設関係者や福祉関係者は,速やかに知的障害者に自分の権利を守る術があることを伝えてください。自宅をでて生活保護と年金で生活するのも方法です。親は親で生活保護を受ければいいのです。子は親を援助する義務が民法にありますが,その義務に縛られる必要は全くありません。

3、  上のような場合,補助制度を利用し,補助人が親と対決すればいいと思います。親の財産侵奪行為は刑事犯罪です。

【裁判をする場合】

1,知的障害者が刑事事件の加害者になった場合は直ぐ弁護士を依頼してください。

2,民事裁判で訴えられた場合や民事裁判を起こす場合,弁護士を依頼できる能力がっても,事件の内容によっては後見制度を利用した方が本人の利益を守ることができる場合があります。

【親から財産を相続したが,管理が苦手】 

1, 一人息子,一人娘だったりすると,親の全財産を相続しますね(私は親は可愛い息子・娘のために遺言を作成することをお勧めします。遺言執行者には弁護士等を選任し,遺産の管理方法を指定する方法等を遺言で行うことをお勧めします。そうすれば,親亡き後の知的障害者自身の生活の安定は図れると思うからです。これも後日詳細に説明します)。その場合,悪い人が近寄ってきます。

2, 相続をしたような場合,後見制度を利用して,その財産の維持・管理を後見人・保佐人・補助人に任せることをお勧めします。

【性的被害をうけている場合】

1、 成年後見制度を利用したとして,どのような意義があるかはよく吟味する必要があります。性的被害をうけるのは女性の障害者です。加害者は@親,A親族,B施設職員 C教員,D地域の人です。つまり身近な人が1番の加害者です。教員や地域の人が加害者で親がきちんとした人なら,成年後見制度を用いる必要はありません。すぐ警察に事情を説明すればいいでしょう。では加害者が親,親族,施設職員の場合はどうでしょうか。とりわけ,親が加害者という場合がたくさんあります。

2、 被害者が未成年の知的障害者である場合,親の親権を制限したり,奪うことが必要になります(親権の濫用は許されないからです)。性的被害の場合は虐待という概念に該当するので,児童福祉法及び児童虐待防止法を用いて,親権の一時停止,親権者の変更,監護権者の指定や未成年後見(民法838条)を利用する他,知的障害者ということで成年後見制度の利用(後見)で対処します。親が娘と性的関係を持っていたという相談では,私は以上のような説明をします。ですから,成年後見制度を利用することもできます。

3、 成人施設に入所して娘さんが帰省の際,性的被害に遭っているという場合はどう考えるべきか?この場合,娘さんは成人ですから親を拒むことは出来ます。これが原則です。成年後見制度の出番は本来ありません。

4、  しかし,親が娘を帰省させろと言ってくることが多いです。娘を物として扱う親,娘に援助交際をさせる親(通所施設の施設長が売春を強要した事案として「山形つくしんぼ事件」)がいますが、そのようなことをする保護者に従う理由はありません。「保護者(親)の引き取り要求」というのが入所施設でよく問題になりますが,施設は現に監督保護する者(知的障害者福祉法15条の2,1項)として抵抗してください。なお知的障害者福祉法17条の2の但し書は問題のある規定です(親が適切な保護をする人物だという前提なので,そうでない場合は抵抗しましょう)。

5、 しかし,施設が抵抗することは容易ではありません。「保護者」という呼び方で呼ばれる親・親族・兄弟が加害者である場合,性的被害を受けている女性を守ることは出来ません。私はそのような場合,後見制度を利用することで,女性の尊厳,生命,生きる勇気,健康を守れるのではないかと思います(つまり,後見人にある身上看護の義務を実践する)。ただ被害に遭う女性の多くは軽度知的障害者のようです。この場合成年後見制度は役に立ちません。軽度の知的障害者の場合は,自分の尊厳を守ることは適切な支援をすればできる筈ですから,それをしても自分に危害は及ばないことを理解させて,刑事告訴,民事損害賠償をしてください。なお,そのような場合,加害者が障害年金を奪うことがあるので,年金の管理などについては補助制度を利用すればいいと思います。

【権利擁護という言葉について】

1、  権利擁護という言葉を皆さんは当然のように使いますが,日本国憲法には権利擁護という文字はありません。平成12年に施行された中央省庁等改革基本法の別表第2の法務省の主要な任務というところに「基本法制の維持及び整備,法秩序の維持,国民の権利擁護等」と明記されているくらいです。

2、 ところで、最近になって障害者も権利主体と理解されはじめました。しかし,障害者の権利行使は容易ではありません。

3、  権利を侵害された人は,司法に対して権利侵害に対する是正を求めることが出来るというのが法律的な意味での権利です(質問1の説明の箇所で契約・約束の話をしましたが,主に司法救済を予定している)。しかし,福祉の現場ではそのような司法救済だけでは解決できないことが多数あります。そもそも司法救済を知的障害者が求めても,知的障害者に対する偏見・無知が法曹関係者(検事,警察,裁判官,弁護士)にありますから,司法での救済がなされません。そこで,福祉的な観点から,法律的な権利を実効性のあるものにしなければならない,それが権利擁護という言葉になるのではないかと思っています。予防という視点が入っていると思います。財産権,人格権,適切な身上監護を受ける権利は,知的障害者の場合支援者との関係で決まるという実態があるからこそ生まれた概念だと私は思っています。

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