【質問3】 私は夏目一郎の父親夏目太郎です。一郎のために後見制度(後見・保佐・補助)を利用することにしました。どこで手続をするのか,費用はいくらかかるのか,期間はどの程度かかるのか,どのような書面を作成するのかを教えてください。 【質問3に対する回答】 後見の場合 保佐の場合 補助の場合 手続をする場所 家庭裁判所(一郎の住所地を管轄する家庭裁判所)の本庁か支部 *東京家庭裁判所(03―3502−8311) *横浜家庭裁判所(045−681−4181) *静岡家庭裁判所(054−273−5454) *札幌家庭裁判所(011−221−7281) *函館家庭裁判所(0138−42−2151) *旭川家庭裁判所(0166−51−6251) *釧路家庭裁判所(0154−41−4171) 例えば札幌の場合,札幌市中央区大通西11丁目にあるのが本庁といい,札幌市内の人や石狩市,北広島市などの近隣の住民は本庁に書面を提出します。小樽市民・余市町民等は小樽支部,倶知安,蘭越,岩内,共和,泊等の人は岩内支部というように,札幌から遠い人は支部が利用できます。上記の電話番号は本庁の番号ですから,申立を希望する方は電話で場所を確認しましょう。 手続の方法 @書面を家庭裁判所に提出します。 A持参でも郵送でもファックスでも受けつけます。(家裁に1式備えているから郵送して貰う)。 手続が出来る人(申立権者) @ 本人 A 配偶者 B 4親等内の親族(兄弟・姉妹・叔父叔母・従兄弟・おいめい・おいめいの子) C 未成年者後見人 D 市町村長等(他にもいますが,知らなくても構わない) *@〜Dまで番号をつけましたが、優先順位ではありません。@〜Dに該当する人であれば、誰でも申立ができます。 申立費用 600円。 保佐の同意権の拡張・代理権の付与,補助の同意権の付与・代理権の付与はそれぞれ600円追加。 *収入印紙で払うが,消印はしない。 郵便切手 数千円(裁判所によって扱いが違う) *開始の審判の送達の郵便代 *登記嘱託のための郵便代 必要な書類 @申立書 A太郎(申立人)の戸籍謄本1通(戸籍課で取得) B一郎(被後見人・被保佐人・被補助人)の戸籍謄本・戸籍附票,成年後見に関する登記事項証明書(または登記されていないことの証明書)診断書を1通ずつ。 C成年後見人(保佐・補助)候補者の戸籍謄本・住民票・身分証明書を1通ずつ・登記事項証明書(法人が候補の場合には商業登記簿謄本) *身分証明書とは,市町村長が発行する破産者でないことの証明書のことです。 *本人が申立てるのならAは不要です。 *成年後見人候補がいない場合はCの資料は不要。裁判所が選任してくれます(選任される人は弁護士,司法書士です)。 *外国人の場合,外国人登録済証明書が必要 *診断書は主治医が作成するのが原則 *愛の手帳,年金手帳,精神障害者保健福祉手帳の写し,介護サービス契約書の写し,財産目録も提出する。 鑑定費用 6万円(札幌)が原則 10万円〜20万円(東京) *鑑定が不要な場合もある(植物人間状態等) *本人に求償できる。 *申立ての際,裁判所が用意している診断書を提出しますが,その費用は主治医さんに聞いてください。 鑑定不要(診断書のみ)(A弁護士が札幌家裁に聞いたところでは、補助でも鑑定をするようなことを述べていたそうです) 登録費用 4,000円(後見・保佐・補助開始の審判の登記) 2,000円(保佐人・補助人の同意権・代理権付与の審判) *本人に求償できる。 決定後の後見(保佐・補助)業務費用 @被後見(被保佐・被補助)人の財産から使用する。 つまり,一郎君が負担すべき金員・後見(保佐・補助)人の通信費・交通費など,一郎君のために出費する費用は一郎君の財布で賄う。 報酬 家庭裁判所に対し請求する。 解除(取消) 家庭裁判所に申立てる。 後見・保佐・補助監督人 場合によっては裁判所が選任する。 登記所 東京法務局(03−5224−3031) 【回答についての説明】 「後見の申立」をするということで説明します。保佐,補助についても殆ど同様です。 【手続は家庭裁判所で行う。】 1、 まず,一郎君の住所地の家庭裁判所(一郎君は札幌市内で生活しているので,札幌家庭裁判所本庁)で手続をします。 2、 裁判所には,家庭裁判所(家裁)の他に,簡易裁判所(簡裁),地方裁判所(地裁),高等裁判所(高裁),最高裁判所がありますから,注意してください。札幌の本庁ですと,高裁と地裁が一つの建物で,その建物とは別の建物に簡裁と家裁が入っています。 3、 家庭裁判所の受付は丁寧です。簡裁,地裁に比較すると丁寧ですから,手続に関して不明なことや心配なことがあるなら,受付で聞くのが1番です。 それでは【住民票は東京にあり,生活の場は青森】だという人について考えましょう。 東京都に親が住んでいる知的障害者の場合,都外施設に入所している人はかなりの数に上ります。東京都の措置で青森市の施設で生活している人等です。住民票は東京都内にあるが,青森市の施設に入所している人がいたと仮定すると,その人は青森市で生活しているのですから,後見の申立は青森市内にある青森家庭裁判所ということになります。本人が申立てる場合であろうと,東京在住の親が申立てる場合であろうと,青森家裁で申立をすることになります。 申立書の本人の住所の記載の欄には「現実に生活しているところ」を住所として記載するのですが,その意味は,家庭裁判所の調査官が施設や病院(精神病院,特別養護老人ホーム)に面接に行く必要があるからなのです。青森市内の施設や病院に本人がいるのですから,青森家裁の調査官が足を運び易いですよね。だから,住民票に記載のある住所ではなく,実際に生活をしている場所を書くのです。 ところで,戸籍謄本附票が必要な理由としては「管轄(本人の住所地)の認定に必要なだけでなく,成年後見登記には住民票上に住所が記載されるため,後見開始の審判等がされた場合の登記嘱託に際して必要となるものである。したがって,後見開始の審判等がされるまでに住民票上の住所に変更があったときは,速やかに担当の係に住民票を添えて知らせるように御願いしている」(実践 成年後見NO1という本の,57頁。東京家庭裁判所判事補山田真紀・調査官渡瀬友一・書記官小磯治著)という記載があります。 東京家裁の専門家の説明を読むと,住民票を青森に移動するように指導されるのではないかと疑問に思ってしまいます。戸籍謄本の附票をみると住所は東京都にあるのですから,管轄(本人の住所地)の認定に必要だという記載を読むと,青森の施設で住んでいる人は「青森市内に住民票を移動するように」と指示されかねないですね。でも札幌家庭裁判所の受付の担当の方は,「住民票の記載ではなく,実際に住んでいるところで申立をします」と明言しています。 住民票はそこの自治体でサービスを受けるための資格証だと考えると,住民票の意義がわかります。例えば保育園の利用や生活保護の利用も住民票の有無が原則です。だからこそ,様々な思惑があって,住民票を移転しない人がたくさんいるのです。 【申立の方法】 1、 申立は後見開始の審判申立書という書面を家庭裁判所に提出する方法で行います。申立書を持参してもいいし,郵送でもできます。ファクシミリでもできます。住所は家庭裁判所に問い合わせてください。 2、 弁護士に依頼しないで申立をする場合には,家庭裁判所に備えてある申立書を用いるといいでしょう。家裁に御願いすれば送ってくれます。弁護士に依頼する場合は,弁護士が作成してくれます。 【申立ができる人】 1、 申立ができる人は法律で決まっています(法律で決まっていることを法定事項と呼びます。)。ここで法律と言っているのは民法のことです。 2、 @ 本人は申立ができます。ですから一郎君自身が被後見になりたいのなら自分で申立ができます。 A 但し,意思能力を欠いているときは出来ません。申込という意思表示をする訳ですから,意思能力は必要です(5頁)。 B なお,一時的に意思能力が回復していれば申立ができます。最重度の人は,IQだけからすれば意思能力は認めがたいと思われますが,様々な事情を踏まえてみた場合に,(理論上は)意思能力が認められるかも知れません。でも,正直言って最重度の認定をうけている人が申立てるのは無理だと私は思います。なお,年金手帳が1級かどうかと,意思能力の有無とは直接の関係はありません。 3、 @ 配偶者。配偶者というのは妻もしくは夫のことです。配偶 者かどうかは戸籍で判断することになります。 A 内縁関係の場合は問題です。内縁関係の夫,妻がどういう権利関係にあるのかは,その問題になった法律毎に考えるべきです。しかし,申立に際して戸籍謄本が必要だということですから,戸籍謄本に配偶者として記載されていない場合には,「配偶者」には該当しないと思われます。 4、 @ 4親等内の親族が申立をすることができる。 A 日本民法では,血族と姻族を合わせて親族と言いますが,より正確にいえば,6親等内の血族,配偶者,3親等内の姻族のことを親族といいます。 B 血族とは血縁の繋がっている者を指します(なお,養子の場合も血縁関係は擬制されます(民法727条))。 C 姻族とは,自分の配偶者の血族(又は自分の血族の配偶者)のことをいいます。あなたからすると,妻の父母,兄弟姉妹は姻族です。あなたの子どもの配偶者やあなたの兄弟姉妹の配偶者も姻族です。 D そうすると,@の4親等内の親族とは,4親等の血族と配偶者と3親等の姻族のことだということになります。自分の父母(1親等の血族),兄弟姉妹(2親等の血族),叔父叔母(3親等の血族),叔父叔母の子ども―従兄弟(4親等の血族),おい・めい(3親等の血族),おい・めいの子(4親等の血族)や配偶者の父母(1親等の姻族),配偶者の兄弟姉妹(2親等の姻族),その子ども(3親等の姻族)ということになります。 3、 @未成年後見人,A未成年後見監督人。 4、 @保佐人,A保佐監督人,B補助人,C補助監督人,つまり,既に成年後見制度を利用している場合で,より重い制度を利用する場合のことです。例えば被補助人になっている知的障害者が高齢者になり痴呆が進行したため,保佐や後見を申立てるような場合のことです。 5、 検察官 6、 市区町村長 例えば,地域に身寄りのない高齢者が住んでいたとします。ヘルパーさんはその高齢者の世話をしてきたのですが,痴呆が進行しているので,そのヘルパーさんが後見制度を使ったほうがいいと考えたとします。その場合,ヘルパーさんが家庭裁判所に電話をしても,家庭裁判所はそのヘルパーさんの依頼には応じてくれません。請求権者ではないからですね。そこで,ヘルパーさんは上司に事情を説明し,ヘルパーさんの上司が市町村の担当部署に連絡をいれると,行政の長が申立をします(老人福祉法32条)(知的障害者福祉法27条の3)。どのようにして市区町村長が申立をするのか残念ながら経験がないので,私はわかりません。 7、 @任意後見人,A任意後見監督人,B任意後見受任者。任意後見制度によって,任意後見人などを選任していた場合でも,法定後見を利用することが出来るということです。しかし,知的障害者が任意後見を利用することはあまりないと思います。確かに任意後見制度は知的障害者でも利用することは可能ですが,私の経験では特段の必要性はないように思います。 高齢者の方やこれを読んでいる親には使い勝手があるのが任意後見です。 【提出する書面】 1,申立書 @ 申立書に裁判所の記載をするところがあります。札幌地方裁判所に書面を出すなら,札幌地方裁判所御中と記載します。 A 書面を提出する日付を記載してください。年号でも西暦でも受けつけてくれます。 B 申立人の氏名と押印をします。氏名は自署に限定されません。ゴム印でもワープロ書きでもOKです。押印は実印でも認印でも構いません。 C 添付書類の説明は2でします。 D 申立をする方の本籍,住所,氏名,生年月日,職業,本人との関係を記載します。 E 本人の本籍,住所,氏名,生年月日,職業を記載してください。 F 「申立ての趣旨」として、何を求めるかを記載します。 G 「申立ての実情」というのは理由のことです。ここは出来るだけ詳しく記載した方がいいと思います。例えば「(後見の場合ですが,)**は最重度の知的障害者であり,IQは測定不能であると更正相談所の書類に記載されている。服の着脱や風呂の入浴や食事も全介助であり,現在措置入所している入所施設での作業も全くできない。入所施設の利用を継続するため,平成15年4月に施設との間で入所契約をしなければならないが,本人には契約を理解する能力は全くない。今述べたように現在入所している施設との間で利用契約を締結する必要の他,本人の口座に入金になっている障害年金の管理や,施設への費用の支払なども本人がすることはできないので,本申立に及ぶものである。なお,本人は施設入所しているが,本人の父親である**が日頃から本人の健康に留意し,施設に面会などにいって,身の回りの世話などをしているので,同人を成年後見人に選任されたい。」と記載します。 H 「申立の実情」の下には成年後見人候補者の氏名を記載する箇所があります。住所,氏名,生年月日,職業,本人との関係,勤務先を記載します。通常は親族の名前が記載されると思われます。 民法は複数の成年後見人(民法843条3項),法人の成年後見人(民法843条4項)も認めています。 候補者は裁判所にお任せしますという場合は,裁判所が予め用意している後見人候補者の名簿から適当な人が選任されます。 ところで,成年後見人候補者の記載があっても,その方が100%成年後見人になれる訳ではありません。民法843条1項は「職権で成年後見人を選任する」と記載し,民法843条4項には@成年被後見人の心身の状態ならびに生活および財産の状況,A成年後見人となる者の職業および経歴ならびに成年被後見人との利害関係の有無,B成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類および内容ならびにその法人およびその代表者と成年被後見人との利害関係の有無,C成年被後見人の意見,Dその他一切の事情を裁判所が考慮するとなっています。ですから,裁判所は広い裁量(裁判所は好きに決めていいということです)が与えられておりますから,成年後見候補者が本人の年金などを狙っていることが明らかなような場合には,その候補者を排除するでしょう。なお,通常は成年後見人候補者がそのまま後見人になるようです。 これまでの禁治産宣告の時には,お金を持っている知的障害者を精神病院にいれることにして,その年金を奪うために,親族が争いをしていたというのが実際のところでした。だからそういう紛争は今後も生じますから,そのような場合は裁判所も慎重になります。実際には鑑定をする医者が1番慎重になります。そして鑑定する医者に情報を示す調査官も慎重になり,どういう事情で申立をするのか,詳細に調査をすると思われます。 そのような場合,施設は真実の情報を調査官に伝えてください。事情によっては施設は処遇記録や個人記録を調査官に示して,身上監護上の問題などを調査官に示してください。(補助などを申立てた経験のある施設長さんなどから,「裁判所は知的障害者の事わかっていませんね。裁判所の人が本当に障害者のことをわかっているのか心配になった」という声を耳にします。調査官は心理学などの専門家だそうですが,大学で知的障害者のことを学習している訳ではありませんので,調査官,審判官に丁寧に実情を教えるのが,皆さん専門家の義務です。それから弁護士も知的障害者のことはわかっていません。依頼するときは何故後見制度を利用するのか十分説明し,本人の状態をしっかりと説明してください。 それから法人も後見人になれますが,利用者が使っている施設(法人)が後見人候補になることは許さないというのが札幌家裁の現在の方針です(2000年11月当職の質問に裁判官がその旨回答している)。ですから,入所施設(その運営主体の法人も含む)が利用者の後見人になることは札幌ではありえません。 複数成年後見はとてもいい制度だと思いますが,費用・報酬の面で,知的障害者には関係のない制度に思えます。しかし,最近多数耳にする施設の寄付強要(育成会のイエローページを参照してください)や北海道の施設の職員から聞こえてくる,利用者の年金の横領事件,詐欺事件(4月19日の朝刊には高齢者関係の職員が400万円余を詐取しているケースが載っています),更にまた「私の年金をどのように使用しても私は返還請求をしません」という類の念書を書かせて施設が年金を利用するなどがあるので,利用方法を工夫する必要があります(親と弁護士が複数後見人になるということ。親は施設に主張できなくとも,弁護士が後見人として不誠実を問題にできる) 【添付資料】 @ 本人以外の人が申立てる場合には,申立人の戸籍謄本が必要です。本人との身分関係を明らかにするためです。 A 本人については,戸籍謄本,戸籍の付表,成年後見登記事項証明書,診断書が必要です。成年後見登記事項証明書は東京法務局で取得します。 B 成年後見候補者がいる場合には,その人の戸籍謄本,住民票,身分証明書,成年後見登記事項証明書が必要です。 C 本人の診断書ですが,できるだけ詳しいものをだすべきだと思います。鑑定をするのですから,診断書は病名程度で好いじゃないかというかも知れませんが,家裁が非常に忙しく何時までたっても審判を出してくれないという現状がありますので,申立時点で,詳細な診断書をつけて(勿論,申立書に速やかな決定が必要な旨を記載する)提出すべきです。 【申立費用】(後見の場合) @ 収入印紙600円です。収入印紙は裁判所の売店で販売しています。 A 郵便切手は,その裁判所毎で若干違ってきます。 札幌家裁では2,250円程度です。家裁の受付で,幾らの切手を何枚と指示してくれますから,これも裁判所の売店で購入してきます。 東京家裁の場合は500円切手3枚,80円切手20枚,10円切手10枚だそうです。ですから1500円+1600円+1000円=4100円必要です。手続をする裁判所に確認してください。 B 後見決定がでた際の登記印紙が4,000円です。 C そして鑑定費用です。 【鑑定費用】(88頁参照) @ 後見の場合,鑑定を行います。これが原則です。 A 但し,植物人間状態のように,一見して意思能力がない(法的な評価として,有効な法律行為をするための意思能力はないという意味です。)場合には鑑定が不要になるそうです。 B 鑑定は,本人の精神の状況について医師その他適当な者に鑑定をさせなければならない(家事審判規則24条など)のですが,その目的は後見決定の審判によって,本人の行為能力が制限されるから(権利を制限されるから),本人の精神の状況に関する判断を信頼性の高い資料によって慎重に吟味し,権利制限される本人の利益を保護するためだと言われています(東京家裁の説明)。 C 鑑定費用は予納します。 札幌では6万円が原則で6万円〜8万円だそうです。 東京では10万円〜20万円だそうです。 【審理期間】 @ 2000年11月,札幌家裁で聞いたところでは,殆どが6ヶ月以内で決定がでているとのことでした。 A 6ヶ月以内といっても殆どが6ヶ月ぎりぎりのようです。補助でもそれくらいかかると知り合いの施設長から伺いました。 B 事情によってはそれより長くなります。ですから,申立書には具体的な事実を細かに記載し,調査官に頻繁に連絡をいれ,本人との面談を迅速に行うように御願いします。 【登録費用】 4,000円です。 【弁護士に申立を依頼する場合】 @ 弁護士はサービスを提供して対価として皆さんから金員を受け取ります。ですから,有料が前提です。 A まず,皆さんに知識そのものがなく,後見制度そのものを尋ねたいとか,どの制度はどう違うとか尋ねたい場合は,東京の方なら「すてっぷ」の連絡をして,そこのスタッフである弁護士に相談をしてください。非常に知識の豊かな,経験豊富な弁護士が相談に応じます。大阪なら「ひまわり」です。 B 札幌では,「かでる2・7」では障害者110番が,札幌市中央区南1西18丁目でも障害者専門相談があります。 C 札幌弁護士会の有料相談(5,000円)は毎日やっています。 D 申立そのものは,弁護士をつけなくても出来ます。ただ,親族間で争いがあるような場合には弁護士につけて申立をすべきです。知的障害者の関係で争いがあるとすれば,後見・保佐・補助の申立自体に文句があることはなく(文句があるのは本人だけ),誰が後見人,保佐人になるかと(年金管理を誰がするかです)いう点です。身上監護をしたいのではなく,年金だけを貰いたい人が争いの種を蒔きます。 【後見人(保佐人・補助人)の費用と報酬】 @、 費用・報酬は裁判所に書面を提出して請求します。 A、 後見人は,後見人に選任されますと,財産目録を作成し,また1年間の費用を予想した書面を裁判所に提出します(民法861条1項)。 B、 費用についてはいちいち裁判所に確認しないで,本人の財産から支出できます(民法861条2項)。費用というのは,被後見のために必要な費用なのですから,本人の財産から支出することになっています。私の場合,入所施設の床屋代や不動産の固定資産税や健康保険の費用,貸し金庫の費用の支払などはすべて引き落としにしていますので,費用があるとすれば,年数回施設に行く際の交通費程度です。 C、 報酬は裁判所に書面を提出します。そうしないと報酬を本人の口座から下ろすことは出来ません。裁判所の決定をうけずに金員をおろせば,横領行為になります。刑事犯罪です。報酬は被後見人に必要な費用ではなく,後見人の利益です。ですから後見人にどの程度の利益を与えるかは,その後見人の作業量などを踏まえて裁判所が決定します。決定があって初めて請求権が具体化して,後見人は預っている通帳から金員をおろせます。 【相談の話】 @ 精神障害者の母親と名乗る人から,娘の状態が悪いので病院にいれたい。ところが娘の旦那はそういうことをしない,という相談を受けました。 A このお母さんが成年後見人になったからといって,入院をいやがる娘を入院させることは出来ません。これが成年後見制度の結論です。精神病院と契約をすることまではできますが,無理やり連れていくことはできないのです。そういう無理やり行為は,成年後見人はできません。血の繋がった親だからできるのでしょうが,成年後見人の権利ではありません。 B しかし,成年後見人になれば,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下,「精神保健法」という)20条によって,精神障害者の保護者になります。その結果,保護者の義務?として娘さんを精神病院に入院させることが出来ます。 C 娘さんの旦那が内縁の夫であれば,さほど(法的には)問題がないのですが,旦那が戸籍謄本上夫になっていると,仮におばあちゃんが後見人候補だとして申立をしても,夫は「俺が後見人になる」という筈です。この問題は非常に難しい問題です。 D では,この場合弁護士が後見人になればいいのでしょうか。弁護士は中立的だからいいかもしれませんが,その場合,精神保健法41条の「引き取り義務」が問題になります。民法の後見人の規定を読むと,後見人の義務は法的な義務(「成年後見人は,成年被後見人の生活,療養監護及び財産の管理に関する事務を行う」(民法858条))であり,事実行為は含まないと解釈されています。他方「引き取り」は事実行為です。「引き取る」のですからね。弁護士が後見人になる場合,被後見人が精神病であると,今のような困難な問題に出会います。だから,親族が関わりを持つしかありません。そして相談者の場合には,デッドロック状態に陥ります。娘が発症したことは不幸なことですが,成人し,夫までいる娘をどこまで見ないといけないのか。法律論は簡単なのですが,お母さんは死ぬほど苦しんでいます。 |