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【質問5】
 私の息子小泉正(ただし)は知的障害者で40歳です。夫は73歳で,私は71歳です。私達が亡くなった後も,息子には幸せに生活して欲しいと思います。私達には僅かですが息子に残せる財産があります。親亡き後の世話を誰にどのように頼めばいいでしょうか。

【回答5】

親亡き後の財産管理・利用者の身上看護についての質問です。(たくさんの方法があるので、Aの方法、Bの方法、Cの方法……と書きます。具体的な説明は【回答についての説明】の当該箇所を読んでください。


遺産の管理方法と遺言執行者を指定する遺言を作る方法
⇒正君を代理して正君を委任者とする任意後見契約を締結し任意後見人を指定しておく。

あなた自身の遺言を作る方法。
⇒(正君が重度の知的障害なら)後見人を事前に決めておく。
⇒(正君が軽度の知的障害なら)知的障害のない人と同じ

負担付遺贈をするという方法

信託という方法

成年後見制度を利用する方法。
F
知的障害者自身が任意後見制度を使用する方法。(委任契約をする)
親自身が「任意後見制度」を利用する方法
親自身が任意後見契約をする。
⇒親が痴呆等意思能力が欠如したとき,任意後見が発効する。
⇒後見人が,親が後見契約で指定した方法で,親の財産や正さんの年金を管理し,息子の生活を保障する。
*親が死亡した後まで,この契約が有効なのかは議論があるところです。


【回答についての説明】       
【はじめに】

 様々なところで相談を受け,また講演をして思うことは,法律は一般の人々の生活とは無縁だということです。1970年代のアメリカの本に「日本人は法律とは無縁の世界を生きている」という法律の説明書がありましたが,それは本当の話なのだと実感する私です。
【何故,親の死亡(痴呆後)後の財産管理なのか?】

1、 今現在,親は健在で,親が息子の年金を(事実上)管理し,生活の面倒一切を見ているとか,息子に施設に入所させ,年金は身元引受人(もしくは保護者)として,施設の父母会に管理させている,こういうお宅はたくさんあります。親の体と頭がシャキッとしている間は特別問題は生じません。

2、 しかし,親自身の体の自由が利かなくなり,親自身が介護保険の適用を受けるような状態になったり,親自身が痴呆状態になったり,親が不慮の事故で死亡したり,意識不明の状態になるということがあります。その場合,息子さんの生活を見ることは出来ません。

3、 息子さんの世話をすることが出来なくなっただけでなく,年金からの支払等といった年金の管理・処分は宙ぶらりんの状態になります。息子さんは誰に食べさせてもらうのでしょうか。施設に入っている場合は特別問題は生じませんが,年金は溜まるばかりです。

4、 親に財産があり,息子さんが相続することになると,地域生活者の場合生活保護ということにはなりません。福祉も手を出せない状況になってしまいます。例えば両親と子一人の家庭があったとします。両親が旅行中交通事故で死亡した場合,賠償金がその障害のある息子さんにおります。障害の程度が重ければ,損害賠償金の交渉自体できませんし,使用も出来ません。

5、 親族もいないような場合は,市町村長が成年後見を申立て,しかるべき人が措置(現状なら)をして,施設で一生を過ごすことになります。

6、 親が息子さんの将来を心配するなら,任意後見制度と遺言の双方を活用することである程度カバーできそうです。今回は一般論を述べます。



1、 遺言は書面という形で作成します。どんな紙に書いても有効ですが,トイレのペーパーに書いても後で流したら意味がないですよね。後から紛争の種にもなるので,常識を働かせて,普通の紙を用いてください。罫線があっても罫線がなくともどちらでもいいです。普通の紙に遺言書と題名を書いて,そして遺言内容を記載してください。そして日付(年月日を記載します。婚礼への招待状ではないのですから吉日などとはしない。)署名(自分で署名しないとだめ),押印をします。   
   文例1

遺言書

遺言者小泉一郎は,この遺言書により左のとおり遺言する。

1、 私の財産すべてを小泉真紀子に相続させる。

2001年6月20日

        北海道小樽市緑町10丁目100番地
                遺言者 小泉一郎 印


    これがもっとも簡潔ですが、他に相続人がいると、その相続人の遺留分を侵害することになります。遺言を作成する場合は弁護士に相談をしてください。相談料は30分5,000円が原則です。

    文例2

遺言書

遺言者佐藤大作は,次のとおり遺言する。
1、 遺言者は,次の預貯金を長女江田良子に相続させる。(預貯金目録などは省略)
2、 長女江田良子は,次男小泉正に生活費として,同人が生存中,月額7万円を毎月支払うこと。
3、 長女江田良子は,**園に対し,施設で適切な支援が受けられるよう配慮すること。
4、 遺言執行者として次のものを指定する。
     室蘭市母恋町2丁目12345番地
           司法書士 ****
2001年6月20日
                住所*******
                   氏名****  印



2、 1で述べた遺言書を自筆証書遺言といいます。字を間違えたりすると無効になってしまいます。ですから,息子さんや娘さんの将来の生活の確保を考えるなら,私は公正証書遺言を作成することをお勧めします。費用も数万円です。立会人2人必要ですが,弁護士事務所や司法書士事務所に行けば事務員さん立会人になってくれます。この場合自署は必要ないので,字が書けなくなった高齢者でも身体障害者でも遺言はできます。
しかし,意思能力がなければなりません。皆さん自身の痴呆状態が進行してしまいますと,遺言もできないので注意してください。被後見人,被保佐人も遺言はできますが,意思能力が回復していることを証明するためには医師二人の立会いが必要になります。ですから,被後見人にしてしまうと様々な不利益が生じるので,よく考えてください。

    公証人役場での費用
法律行為の目的の価額
金額(費用)
500万円を超え1000万円以下のもの
1万7000円
1000万円を超え3千万円以下のもの
2万3000円
3千万円を超え5千万円以下のもの
2万9000円
五千万円を超え1億円以下のもの
4万3000円
@ 法律行為の目的の価額とは,遺言によってあなたの財産が他人の財産に移るでしょ。そのあなたの財産の総額をいうと考えてください。小泉一郎さんの場合,全財産と記載していますが,公証人さんは全財産はお幾らですかと聞きますよ。
A 自宅で作成する,病院で作成するという場合は,公証人が出張してくれます。その場合,旅費・交通費と日当(2万円と決まっています)がかかります。

3、  それ以外の方法もありますが,皆様には必要はないので説明はしません。

4、 ところで、「長男に沢山渡すから知的障害の次男の世話をしてね。毎月小遣いとして10万円を次男にやってね。」いう遺言は可能でしょうか?

@、 この遺言は負担付き遺贈,または(負担付きの「相続させる」遺言)という形になります。

A、 負担付遺贈というのは,財産を上げるから(これを遺言で表示するので,遺言の遺と,贈与の贈を併せて遺贈といいます),面倒みてね(面倒見るのは大変でしょ。だから負担付きといいます)という遺言者の処分行為のことです(文例4参照)。
 この場合,遺言の中に,遺言執行者という人(あなたの遺言通りにことが進むように手続や監視をする人のこと)を決めておくと,遺言執行者が長男さんに10万円を次男に送金するよう手続をしてくれます。

B、 例えば,ご両親がアパート経営していて,ご両親の死後,そのアパートの家賃を知的障害者の息子の生活費に充てたい場合も,負担付遺贈で対応できます。

5、 負担付の「相続させる」遺言は次のような遺言です。
   【文例2も参照してください】
    文例3

遺言書

長男太郎に左記事項を負担として,私の全財産を相続させる。


 次男,小泉次郎の生活支援として,毎月10万円を支払うこと。
 但し,支援方法として施設入所を選択する場合には,やむを得ない場合に限ること。

平成13年6月20日

  静岡県静岡市小鹿2丁目123番地
     遺言者 小泉千秋 印



6、 死後自宅をグループホームにし,息子の世話をしてもらい場合はどうしましょうか?

@、 息子さんに契約締結するだけの意思能力があるのであれば,アパートを息子さんに相続させればいいです。そして友達を介してGHとして使うよう指導し,社会福祉法人にGHの運営を委託する契約をして,息子さん自身もそこで生活するようにします。

A、 長男などに負担付きで遺贈,もしくは「相続させる」遺言をし,長男が社会福祉法人に運営を委託し,息子さんにGHでの生活をさせるのも可能です。

B、 しかし,GHにしたいなら,次のような遺言をしたらどうですか?
    文例4
遺言書

1、 次の事項を負担として,後記不動産を社会福祉法人**会に遺贈する。
 (負担の内容)
     左記の不動産において,知的障害者のためのGHを運営し,小泉次郎に右GHを無償にて利用させる。
  (遺贈する不動産)
1、 所在
2、 地番
3、 地目
4、 地積

2、 この遺言の執行者として,弁護士*山*男を指定し,その報酬は札幌弁護士会報酬規定に定めるところとする。
2001年6月20日
       東京都港区麻布10番3丁目1
               小泉純一郎      印


【遺言は相続人の合意で無視できる】

1、 遺言は被相続人の最終の意思ですから,相続人は守るだろうと思っているでしょ。
2、 でも,相続人が皆で協議をして,遺言とは違う内容で分割すると決められるのです。
3、 私自身も経験したことがあります。そうなると,亡くなった人の意思は無視されてしまいます。だから,知的障害者に沢山財産を残すというような遺言が,あなたの死後,守られているかは分かりません。だからこそ,息子さんに後見人(保佐人。補助人)をつけておけば,息子さんの財産を守ることができます。
4、 嘘のような本当の話です。遺言でさえ,(相続人が)みんなで無視(合意で遺言に従わないことにする)すればそれで終わりです。

  遺言の説明はそれだけで大変な分量になりますので,知的障害者の親の方で,息子や娘の将来のために方策を講じておきたいかたは,遺言の作成方法を弁護士や司法書士に依頼して勉強してください。

 案外,いろいろと使い道があります。
【Aの方法】
1、 遺言は文例2などを参照してください。
2、 遺言執行者は弁護士など専門家の方がいいです。
3、 ご両親が正君から代理権(正君が中度,軽度なら代理権を貰えます)を貰い,正君を代理し,正君を委任者とする任意後見契約を締結します。正君が重度であれば代理権を貰うことは困難(代理権を与える行為も意思表示だから,意思能力がいる)です。この場合は3の説明が適用しません。
4、 大雑把にいえば,ご両親が遺言で,正君のために財産の使用方法を定め,それを遺言執行者にきちんとやってもらう。そして正君の判断能力を踏まえて,任意後見人候補に家庭裁判所の申立をしてもらう。遺言の説明と任意後見の説明が交差しています。

【Bの方法】
1、 遺言だけですから,知的障害者に特有のケースではありません。
2、 既に述べたように,遺言は相続人の合意で「破棄」でき,遺言とは別な形の遺産分割になる恐れもありますので,遺言だけでは駄目です。

【Cの方法】
 1,負担付遺贈。これは負担付遺贈のところ(52頁)で説明しました。
 2,遺贈というのは,受取る側が「いらない」といえば,それまでです。目的を達せられないことになります。
3,事前に御願いしておくことが重要です。

【Dの方法】
1、  信託とは,財産を信託銀行等に移転させ,銀行が信託から得た利益を受益者(障害者)に支給するという制度を言います。
2、  私には経験がありませんので,あまり詳しいことは書けません。実際に信託をしていると話を聞いたこともありません。
3、  信託をする場合には,信託の目的(生活費の支給とか),受益者,信託財産をはっきりさせる必要があります。
4、  かなりの財産のある方には勧められると思います。銀行に報酬・必要経費を負担するから,財産があまりない人には使えません。

【Eの方法】
1、 成年後見制度を今から使うというだけです。
2、  この場合のミソは後見人を複数(85頁参照)にしておいて,ご両親が亡くなられた後,別の後見人がすぐ後見事務ができるようにしておくことです。
3、  なお,最初は親が後見人になり,親の死後,信頼できる人に後任の後見人になってもらうこと,つまり,後任者選任の申立を御願いしておくのも手です。
4、  しかし,息子さんや娘さんの障害の程度が重いと,後見制度しか利用できない恐れがあります。最重度の知的障害者やIQ35以下の障害者の場合は,補助制度の利用を裁判所が認めるとは思えませんし(裁判所の判断は杓子定規です−判断が恣意性が入らないといえばそうではあるが),後見は余りに権利を奪う仕組みなので,利用を悩んでしまいます。
5、  補助の場合の使い方は,次のようにするといいでしょう。軽度の知的障害者の親が老齢になってきたとします。本人も親も信頼のできる人物がいるのなら,親に何かあった時に,信頼のできる方が補助人になるという申立書を事前に作成しておいて,4親等内の親族に預けておきます。そして不幸にして親に何かがあった時,その4親等内の親族の方に申立て貰います。そうすると,親が信頼し,本人も信頼している人が補助人になれます。



1、 この説明はどの教科書をみても回りくどいですが,大まかに説明すれば次のような制度だと思います。

2、 任意後見制度

@ いつかあなたも私も呆けます。呆ける人には突然呆けが来ます。呆けが来てから,子どもの事,財産の事について依頼しようとしても,呆けの来たあなたの話をまじめに受け取る人はいないです。「俺はまともだ」と叫んでも誰もそうは思いません。

A ですから,身寄りはないが財産(身寄りがいないと財産は国にとられます。嫌だよね)があるとか,身寄りはいるが知的障害の息子の将来だけは確実にしておきたいという場合,あなたの頭がしっかりしている時に,痴呆後の処理を契約しておく手続が任意後見です。

B  あなたの頭がシャンとしている時に締結する契約ですから,あなたの意思が100%任意後見では反映します。誰に御願いするかもあなたが自分の意思で決めていいのです。どのような事項を依頼するかもあなたの意思です。療育看護の方法,財産の管理方法について,どの範囲で御願いするかもあなたが決められます。

C  その契約は公正証書で作成します。でも公正証書を作成した時点では,あなたは痴呆状態ではありませんよね。契約書を作成できるのですから当然の話です。だから,公正証書を作成したからと言って,あなたが被後見人になるのではありません。後見人という方があなたの後見を始めるのでもありません。契約を完了した時点(公正証書を作成した時点)も,その後もあなたは自分の財産や権利を自分の意思で管理・処分できます。誰の指図も受けません。あなたの権利・義務に何らの負担も制限も生じません。御安心してください。あなたは息子さんの世話や支援を自分の意思で行えます。

D  公証人さんは,あなたが公正証書を作成しますと,東京法務局の登記所に対し,任意後見契約を締結したという登記の嘱託をします。あなたは何もしなくてもいいのです。公正証書を作成した時点で,公証人の義務が生じ,公証人はその義務の履行(義務を果たすこと)として登記所に登記の嘱託をします。

E  あなたは平穏に生活をし,息子さんの世話をしたり,親の会の集りにいったりしますが,ある日,あなたの意識しないところで,痴呆が生じてきます。そしてその痴呆が進行し,あなたの判断能力が不十分になった時(勿論,あなたが判断するのではなく,周りの人があなたの様子をみて心配して,どこか病院等に連れていってくれます。),配偶者,4親等内の親族,又は任意後見受任者(弁護士西村が任意後見契約をあなたとしたと仮定して話をします。弁護士西村に任意後見人になって下さいと頼まれていれば―頼むとは契約をすること,つまり任意後見契約をすることです―弁護士西村は適時様子伺いをしたりして,状態をチェックします)が,家庭裁判所に対し,任意後見人監督人の選任(つまり,弁護士西村があなたの財産を悪用するかもしれないので,弁護士西村を監督する人物を裁判所が選びます。通常は弁護士か司法書士がなるようです。)を求めます。

F  この時点ではあなたは痴呆が進行しているので,あなたの意思とは無関係に進んで行きます(本当は補助要件に該当する程度の精神上の障害があれば判断能力の不十分な状況というので,あなたの意思が全くない訳ではありません)。そして裁判所が任意後見監督人を選任した時,任意後見契約がその効力を発生させます。

G  そして,任意後見人である弁護士西村武彦が,財産目録などを作成し,あなたから依頼された仕事を行います。家庭裁判所には定期的に財産関係を報告して,任意後見人である弁護士西村武彦がお金を盗んでいないかを監督します。任意後見監督人は任意後見人である西村に事務内容を報告するよう求めることが出来ます。

H  任意後見人は,あなたの判断能力が衰えたときに,後見人として活躍してくれます。後見人の権利・義務は法定後見とおおよそ同じです(異なるところもあります)

I  法定後見とは,既にお知らせしたように,後見,保佐,補助のことで,家庭裁判所に申立をする制度です。契約ということをしません。他方,任意後見は,まずあなたが任意後見候補者と話しをして,私が呆けたら裁判所に申立するのよ,頼むね等といい,それから一緒に公証人役場に出向いて公正証書で契約書面を作成します。ここが違いますし,内容を自由に決められる点も違います。

【任意後見人の仕事の説明】

1、 まず,任意後見人の仕事(専門家は仕事のことを事務といいます。ですから任意後見人の事務という言葉と任意後見人の仕事と同じことです)について説明します。

2、 任意後見人の仕事というと,皆さんは「なんやら難しい話がはじまるのかな」と構えてしまうのでしょうが,ここでいう任意後見人の仕事とは,成人した知的障害者の親であれば,皆さん日常的にやられていることです。例えば,知的障害者施設と私的契約をして,息子さんを通所させている方がいるでしょ。それは身上看護としての福祉利用契約のことです。ですから,親の皆さんはすでに任意後見人の仕事をしている訳です。ですから,「任意後見人の仕事」などと改まって記載されると少し躊躇するかも知れませんが,親の皆さんが息子さんのために良かれと思ってしていること,それが任意後見人の仕事です。

3、 この通信では後見人,保佐人,補助人(右の三つを法定後見といいます)、任意後見人について説明してきました。「法定」後見と「任意」後見,文字を良く見ると「法定」「任意」というところが違っています。「任意」とは利用者さんが自分の気にいっている人を選べるという意味です。軽度の知的障害者であれば,任意後見制度も利用できるので,軽度の人は自分の気にいった支援者や親と契約をして,自分の財産などの管理を依頼できるのです。

任意後見人の仕事

1,身上看護
@,電気・ガス・水道・電気などの契約
A,介護契約,福祉利用契約,給食サービスの契約など
B,要介護認定,福祉関係の措置等についての申請や異議申立など
C施設の利用契約など
D診療契約など
Eその他,生活に必要な契約(NTT受信契約,新聞購入契約,雑誌購入契約,旅行の契約)

2,財産





@,預貯金の管理・払い戻しといった金融機関との取引,収入・支出の領収・支払いなど
A,居住用の不動産の購入契約,賃貸借契約,修繕契約
B相続,遺産分割
Cその他,財産の処分などに関する契約
3,その他
@住民票,戸籍謄本,登記事項証明書,印鑑登録証明書など行政機関(市役所,役場,区役所,法務局などのことを行政機関といいます)の発行する証明書などの請求,登記・登録の申請,供託の申請,公正証書の作成の嘱託等
A,税金の申告と納付,還付請求,還付金の領収等
B福祉関係以外の行政機関の許可,認可を要する行為の申請,不服申立て及びその手続を行うこと
C訴訟行為(これは弁護士が任意後見人になった場合だと考えてください),裁判外の和解,示談
他にもありますが,大事なところは羅列しました。

4、 次に任意後見人の責任について説明します。
責任という言葉も,これを読んでいる方には重い言葉だと思われます。でも日常生活の中で「あなたが決めたから,あなたが責任をとりなさい。」などという場面が,子育ての場面では良く使われますよね。ただ,そこで使わせる責任という言葉は脅かしの意味であって,責任があるからどうこうしなければならない,という意味では使用されませんよね。子どもなどに「責任をとりなさいよ」などといって,親や先生が脅(おど)すための単語ですよね。しかし,法律の世界では「責任」という言葉は,脅しのための言葉ではありません。責任という言葉は,任意後見人に損害賠償義務を負担させたり,任意後見人の地位を奪われることを意味したりします。もっと厳しくいえば,任意後見人が依頼者の金銭を勝手に使えば(費消するといいます),業務上横領罪といった刑事犯罪が成立し,そのような場合の責任として,刑務所に入ることになります。
 
5、 これからは責任という言葉と馴染みになってくださいね。特に,法定後見制度を利用して補助人や保佐人,後見人になろうとしている方,任意後見制度を利用して任意後見人になろうとしている方は,それらの制度によって,そのような地位についた場合,地位についたことで責任を負担するのだということを理解してください。

家庭裁判所による解任
 任意後見人が不正な行為をしたり,その任務に適しないような行動をとるときには,家庭裁判所は,任意後見監督人,本人,その親族の請求があれば,調査をして,任意後見人を解任します。
 * 法律の文言では,検察官という単語も出てきますが,覚える必要はありません。
 家庭裁判所が任意後見人を解任すると,任意後見人は仕事をすることが出来なくなります。
任意後見契約の解除
 任意後見人と契約をした依頼者(高齢者であったり,軽度の知的障害者であったりします)が,契約をした後に気が変ったとき,その契約を解除することが出来ます。
 但し,任意後見監督人が選任される前,つまり,依頼者の意思がまだキチンとしている状態の時ですが,そのときは,公証人の認証をうけた書面で解除の意思を表明することになっています(公正証書を作るわけではありません)。
 次に任意後見人が家庭裁判所で選任された後,つまり,痴呆症状の発症など,依頼者の意思能力に問題がある状態では,家庭裁判所の許可が必要になります。既に痴呆などの状態にある訳ですから,利用者の保護が重要になり,任意後見人の地位から離脱することを認めてあげることが正当な場合に限定されています。
 だから,普通の契約の解除よりは,厳しい規定になっています。
本人(依頼者)の死亡
 任意後見契約は契約です。正確には委任契約といいます。委任というのは「**を頼んだよ」ということです。民法という法律には委任契約の場合,本人が死亡した場合には契約は終了すると規定されています。
 ですから,依頼者である本人が死亡すれば,それで任意後見人の仕事も終了します。

 法定後見制度の開始
 正確には,法定後見開始の審判といいます。任意後見契約をしているけれど,誰かが法定後見の申立をすることは可能です。
 皆さん御存知のように,親族の間でも利害対立はあるでしょ。それで知的障害者の息子が,施設でであった女子職員が気にいり,その女性との間で任意後見契約をしたとします。親族の一人が「あの女が息子の年金を使うはずだ」とか「うちの息子が契約なんてわからない」と考えて,法定の後見制度を利用して,あの女を追い出そうとしたとします。こういう時,家庭裁判所は,本人の利益のため特に必要だと考えると法定後見開始の審判をします。その場合,任意後見契約は終了します。
 西村に言わせると,軽度の知的障害者の自己決定権を奪うための仕組みに思えますが,どうですか?
*任意後見人が仕事をするためには,任意後見人を監督する任意後見監督人が裁判所から選任される必要があります。


6、 【誰が任意後見人になれるのでしょうか?】
    法律には制限規定はありませんので,親,親族,友人,職員,弁護士,司法書士,町内会長,誰でもなれます。ですから,任意後見契約をする時点では誰でも構いません。ただ任意後見監督人の選任を裁判所に求めた際,裁判所は「本人に対し裁判を起こしたことのある人」とか「不正な行為をした人」「任意後見人の任務に適さない事由がある者」を任意後見監督人には選任しませんので,任意後見人になる人がそういう問題のある人であれば避けるべきです。だから,任意後見契約をする際,一応チェックした方がいいでしょう。

7、 【任意後見人は一人だけですか?複数でもいいですか?法人でもいいですか?】
    複数の者を任意後見人にすることはできます。ご両親が任意後見人になるとか,兄弟が任意後見人になることは出来ます。公正証書はそれぞれ作成することになります。法人も可能ですが,西村の知る限りでは,任意後見契約をする法人はないようです。

8、 【任意後見監督人】
    資格制限はありません。但し,適正かつ実効的な監督を確保するため,任意後見人の配偶者とか,直系血族だとか,兄弟姉妹を任意後見監督人とすることはできないとされています。任意後見人を監督する仕事をする人の責任は重いという事ですね。本を読むと,社会福祉協議会やら,**サポートセンターとやら,その任務にあたれますと記載していますが,社会福祉協議会はその準備をしているようには思えません。

10,【任意後見人も任意後見監督人も報酬が必要】
    任意後見人は,任意後見契約に基づいて仕事をするので,その任意後見契約に報酬の規定を盛りこまなければ,報酬は生じません。親族や親が任意後見人になるときは,報酬規定のない契約をすれば,いいのです。他方,弁護士や司法書士が任意後見人になるときは,報酬規定を盛り込みます。なお,札幌弁護士会の報酬規定によれば,以下のようになっています。
    
 事務処理の内容
弁護士報酬
依頼者が日常生活を営むのに必要な基本事務の処理を行う場合
月額5,000円〜5万円の範囲
依頼者が日常生活を営むのに必要な基本事務の処理を行う場合に加えて,収益不動産の管理その他の継続的な事務の処理を行う場合
月額3万円〜10万円の範囲
なお,(任意後見)契約を結んだ後,任意後見監督人が選任される間,依頼者の家などを訪問して面談する場合の手数料は5,000円〜3万円


11, 弁護士に任意後見を依頼する場合には,上記のような金額がかかります。幅が広い規定なので,具体的に幾らになるかは,依頼する弁護士さんと話をしてください。高ければきちんとしてくれるという訳ではありませんから,よく話し合いをしてくださいね。

12, 任意後見人の有する権利の行使に仕方などは,法定後見制度の場合とほとんど同じです。

13,さて,次に高齢者の方(つまり,親の皆さんが今後痴呆などになる恐れがある場合,親に親族がいないような場合)について,任意後見制度の利用の仕方を説明します。

【高齢者の方が任意後見制度を利用するという場面を想定して説明します。お母さんというのが高齢者のことで,あなたというのは健常者のあなたのことです】

1、 任意後見契約とは,判断能力が不十分になったご本人の生活・療養看護・財産の管理に関する事務の全部又は一部について,任意後見人に代理権を付与する委任契約です。

2、 85歳になったお母さんと60歳のあなたとの間で,任意後見契約をすることになったとしますね。そこで公証役場(電話帳で公証役場と引くと出ます)に,お母さんとあなたが出向きます。ここでは便宜上,お母さんを委任者,あなたを受任者と呼びます。公証役場には公証人という人がいて,お母さんと面談をします。お母さんがしっかりしているかをみます。意思能力に問題がなければ,公証人はお母さんの説明を聞いて書面を作成します。内容(あなたに委任する事務の範囲といいます)をお母さんが決めます。

3、 完成した書面は,公証人が登記をします(登記所で登記をします)。

4、 お母さんが痴呆症状を示し,自分のことが自分で出来なくなったとき,あなたは家庭裁判所に,任意後見契約をしているという証明書(東京法務局の登記所に交付請求すると発行してくれます)を添付して任意後見監督人の選任の申立をします。お母さんが痴呆状態になれば,あなたはお母さんの世話をする訳ですが,任意後見契約をした場合には,あなたは家庭裁判所の選任した任意後見監督人のチェックを受けながら,お母さんから依頼された仕事をすることになります。それによって,あなたの御乱心(少しくらい貰っちゃおうかとか,孫の小遣いに使おうというような,悪い行いをしようとすること)をチェックするのです。

5、 申立をうけた裁判所は,医師の診断書などからお母さんの判断能力を判断します。そして意思能力が不十分だと判断されたとき,裁判所は任意後見監督人(あなたを監督する人です)を選任します。

6、 この任意後見監督人の選任をまって,あなたは任意後見人としてお母さんから依頼を受けた事務・仕事をします。医療契約,介護サービスの利用契約の締結,医療費の支払のための貯金の払戻し,不動産の売却などです。これらはお母さんが委任していることが前提です(任意後見契約は公正証書で作成してあるので,その公正証書をみれば,委任内容が分かります―今までほとんどの日本人は契約書を見ることはしますが,読むことはしませんでした。ですから,公正証書を作成しても,かなり多数の親(任意後見人)は委任内容には無頓着だと思います。また依頼する親も「なんでもいいよ」などというので,委任者であるお母さんも,受任者であるあなたも,「普通はどうなんです」なんて聞いて,結局なんでもありの公正証書を作ると思います。)

7、 このようにして,あなたはお母さんの任意後見人として仕事をします。仕事ですから,お金の動きは領収書などで明らかにする必要があります。もし弁護士西村が任意後見監督人になれば,3月に1度,月末にお母さまの預貯金通帳のコピーなどを送付させます。そしてその貯金通帳の記載から,理由の明らかでない出金などがあれば,直ぐに領収書・納品書・振込書などを送付させます。そうしてその出金がお母さまのためではなく,あなたのため,もしくはあなたの孫のための出金であれば,その金額をお母さまの口座に戻すよう通知をします。それでもあなたが口座に戻さなければ,弁護士西村は家庭裁判所から選任された任意後見監督人として,任意後見人であるあなたの解任(不行跡がある,不正行為があるという理由)を求めます。

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