【質問7】 私は後見人に選任されました。後見人の義務を教えてください。 【質問7に対する回答】 後見人の義務としては,次のようなものがあります。 @被後見人の財産を調査し,財産目録を作成します。 民法853条1項。 「後見人は(後見人に就任した後),1ヶ月以内に,その調査を終わり,かつ,その(財産)目録を調整」するとされています。 但し,1ヶ月という期間については,後見人が「期間の伸長の審判を申立てる」と,家庭裁判所が伸ばしてくれます。 財産目録は,一目瞭然にする必要がありますから,作り方は裁判所に質問するか,知り合いの弁護士に聞いてください(西村は無償では教えませんのであしからず)。 財産目録を作らないと,家庭裁判所は後見人解任の一資料とされます。 これは法律が考えている1番大事な義務です。 A被後見人の意思の確認 「成年被後見人の生活,療養看護」(民法858条)を遂行するのであれば,まず被後見人の意思を確認するのは当り前 →【支援者】という立場なら尚更ですが,【支援者】ではないただの財産管理人でも,やはり当然です。 → でも,実際は本人の意思など無視するのが,日本の後見人の姿勢。親の皆さん,そうでしょ?息子や娘の意思より,「息子や娘のため」という親の意思・教育者の意思・医師の意思・指導員の意思を重視するでしょ! そのことを西村は批判しているのですよ。 B支出金の予定を作成する 民法861条 被後見人の生活,療養看護,財産の管理のために,毎年支出が予定される金額を事前に予定しなければなりません。 →介護保険費用,病院費,被服費,趣味娯楽費,床屋代などです。 →予定されていない支出から,後見人の悪用・権限濫用が推定されるのです。 C生活・療養看護・財産管理にかんする事務 民法858条。 本人の生活に必要だと思われる法律行為をすることです。 →(入所の人の場合),施設の利用契約,病院の治療契約,施設父母会(財産管理)との契約,施設に小遣い帖を管理させる契約,施設が主催する旅行に参加する際の契約(通常は施設に対し,後見人が委任契約・代理権付与をして,それで施設が後見人に代わって旅行業者と契約をします) →(GHの場合),GH利用料,電気代,管理料,定期券の購入契約など →(自宅の場合) * 契約をすることが【事務】です。 * 実際のお世話,介護・介助は,後見人の義務ではない→だから,弁護士でも後見人になれる。 善良なる管理者の義務 民法869条,644条。 あなたが後見人になった以上,いかに被後見人があなたの子どもだろうと,あなたは仕事として事務を遂行するのです。仕事をする以上,被後見人の財産や健康を害さないようにする義務を負担します。 その義務の内容は,「被後見人の精神状態や個性や対人関係や薬に対する状況などに対するあなたの理解(理解がない人は後見人になるのは辞めましょう)と,被後見人である当人の状態や必要な支援内容に対する一般人の健全な常識を前提にして,あなたが仕事人として当然に負担する義務」のことです。 → この一般論はわかりにくいですが,施設の処遇が問題なのに,「お世話になっているから,息子がおかしくなっても,息子が叩かれても,仕方がない」と思うのであれば,後見人は失格です。 → だって,被後見人の尊厳は尊重されていないことは明らかなのに,施設もあなたも放置するのですから。 →弁護士や司法書士が後見人になった場合,善良なる管理者の注意義務は財産管理についてだけ妥当するようになると思います。つまり,療育看護に関しては,死亡したりするなどの特殊な事案以外は,放置しても義務違反にならないだろうと思います。 →この制度はザルなんですよ。本当は。 財産処分等の許可 民法859条の3 被後見人が居住している建物などを売却・賃貸・抵当権の設定などをする場合には,家庭裁判所の許可が必要です。 → 後見人の権限を濫用させないための規定です。 → 実効性があるかは不明ですが,裁判所の許可を受けないでそういうことをすると,善良なる管理者の義務違反となります。 利益相反行為は駄目(利益が相反する行為はできないということ) 民法860条 後見人が母親,被後見人が息子だとしましょう。お父さんが死亡すると相続が生じますが,お母さんが息子にやっても仕方がないと考えて,すべて自分名義に変更する(つまり,お母さんの財産にすること)は,民法860条に反します。このような場合は特別代理人を選任します。 → 実際には役には立たない規定ですが,制度の趣旨を理解して後見人が仕事をしてくれるといいですね。 財産の譲り受けは駄目(他人の金を取る人は皆貰ったといい訳をするから,それを許さない規定) 民法866条 後見人が被後見人から財産を貰った場合,被後見人は取消せるという規定です。 →簡単にいえば,後見人は被後見人から財産を貰ってはいけないということです。 →後見人は報酬を請求できるのですから,裁判所の介入がある報酬請求で,正当な報酬を受ければいいのです。 →そういう手続を経ないと,犯罪行為だと思います(皆さん,自分の財産を他人に上げていますか?やらないでしょ!) →このような財産の奪い方を刑法では横領罪といい、後見人が犯行をすると業務上横領といいます。 民法の条文としては,854条,855条等ありますが,それは知らなくてもいいです。 【回答7についての説明】 1、 後見人に就任するには,家庭裁判所の決定という判断を必要とします。父親だから,母親だから,必ず後見人になれるという訳ではありません。しかし実際のところ,母親,父親,兄弟,姉妹であれば,100%に近い確立で後見人になれると思われます。 2、 さて,後見人に選任されますと,後見人は被後見人のために,後見人として権利,義務,責任を負担します。今回説明するのは,義務の部分です。次回には権利の部分を説明します。 3、 回答の箇所を読めばおおそよは理解できたと思います。ところで後見人の義務と言っても,その多くは親が今まで子どもにしてきたことです。 4、 子どもが未成年の時のことを想定してみてください。朝,子どものために,あなたはご飯を用意しますよね。そしてご飯を食べさせ,あなたが茶碗を洗います。服を着させて学校にいかせます。学校のバスだと迎えにくるかも知れませんし,市営バスだとバス停で待ちます。あなたが自家用車で送迎するかも知れません。それらにかかる費用はあなたか,あなたの連れ合いが負担します。学校にかかる費用もあなたかあなたの連れ合いが負担します。寝るときには布団を敷き,風呂に入るといえば,風呂を焚いてやります。これらの費用はあなたかあなたの連れ合いが負担します。病気になれば,車を呼び,車に載せて病院に行きます。費用は親が払います。 5、 成年後見人になった場合,上で述べた費用は被後見人(重い知的障害のある人)の通帳から使用できるのです。何故なら,被後見人は自分の人生を選択できるのあり,その選択した人生にかかる費用は,年金や公的援助で得られるお金で賄うべきだと理解されるからです。だから,後見人は被後見人の通帳から,必要な費用を出すことができます。それから風呂を焚くとか,ご飯を用意するとか,布団を敷くとかは,後見人の仕事ではありません。被後見人に金があれば,自分の好きな人に費用を払ってご飯を用意させたり,布団を敷かせたり,風呂を焚かせる(今は自動で沸くよな)ことができます。だから,煩い親を嫌ってアパートを借りてもいいのです。アパートを借りたいという本人の意思があるのであれば,後見人はアパート賃貸契約を締結します(実際はGH契約だよね)。解りますか? 【後見人と支援者の違いについて】 1、 知的障害者に関る関係者の共通の言葉として,【支援者】【支援】という言葉があります。【支援者】という言葉の意味するところをどのように理解するべきかは,様々な議論があり,西村が軽軽しく説明できるものではありませんが,西村の私見として以下で【支援者】という言葉を説明し,その次に【後見人】との違いを説明します。 2、 【支援者】という言葉は【介助者】【介護者】という言葉と同じような意味だと,西村は考えています。 概念を重んじる人は,【介助】【介護】【支援】は違う意味だから,また,それぞれの言葉が用いられる場面が違うからという理由で,言葉のもつ意味を厳格に定義するようですが,西村は,支援者という言葉そのものには特別の理解をしません。 なお,知的障害当事者のことを,以下では利用者といいます。何故なら,学校,作業所,授産施設,通所,入所を利用していない知的障害当事者はいない筈(精神病院に1万人を超える知的障害者は社会的入院をしている事実はありますが)だからです。 【知識として】 それから,この通信では,知的障害当事者という言い方の中に,「知的障害のある自閉症」と「知的障害のない自閉症」を含めています。 ご存知のように,日本の法律では,障害の分類は「身体障害」「精神障害」「知的障害」の3つに分類されています。 障害者基本法(第2条) 「障害者とは,身体障害,知的障害又は精神障害があるため,長期にわたり日常生活又は社会生活に相当の制限を受ける者をいう」としており,障害のあること=障害者とはしていません。当たり前の話ですよね。 障害者基本法は,今述べた3分類ですが,その障害者基本法には付帯決議というのがあります。 その付帯決議の中に,「自閉症(中略)で長期にわたり生活に支障のある人は(中略)この法律でいう障害(にあたる)」という文言があります。 ですから,この付帯決議と障害者基本法の本文とを一緒にして読むと,自閉症の人で生活に支障のある人については,国はその人の尊厳を重んじ,その尊厳にふさわしい処遇を保証する(同3条)ということになります。 自閉症について,知的障害があるか(低機能自閉症?),知的障害がないか(高機能自閉症とか,アスペルガー等)で,区別されていますが,障害者基本法の付帯決議は,知的障害の有無で区別はしていません。 しかし,療育手帳などの交付や施設入所などの場面では,知的障害のある自閉症の人は,知的障害者の範疇にいれて理解されています(知的障害のない自閉症に対する制度は皆無に等しいので,問題です)。 場面,場面で取り扱いが違っているのですが,西村は障害者基本法の付帯決議を根拠にして,自閉症(かつ,生活に支障のある人)の人も「障害のある者」であると理解し,「身体障害」「精神障害」に分類するよりも「知的障害」に分類しました(自閉症の80%に知的障害があると言われていますし,自閉症は発達障害と言われています)。ここでは説明の便宜として,知的障害当事者と一緒にして説明します。 「うちの子は,自閉症だが,知的障害ではないから,知的障害者と一緒にするな」と怒る方もいるかも知れません。 確かに,IQが低くないから,知的障害ではありません。しかし,「障害とは,生物学的に見て,機能に障害があることをいうのではなく,社会生活に参加できない,社会の中で活動できない」(ICF2001年の障害定義)ことをいうとされ,日本の法律では3分類が原則なのですから,西村は法律の説明(成年後見制度は民法という法律の中にある規定です)としては,以上のように考えます。 3、 【支援者】というのは,通所施設で利用者を支援計画を立てる人,通所施設で日常的に関りを持つ人,通所施設にボランティアとして利用者に関る人,入所施設で利用者の作業の指導(援助)をする人,入所施設で利用者の生活の介助をする人,親,兄弟,姉妹,親族で,利用者と関りのある人,行政の職員で利用者の措置入所を決定したり,能力を判断する人,学校の関係者で就労指導をしたり,勉強を教える人,学童保育で障害者を受け入れているところの指導員,学童保育に通ってくる子ども達などをいうと,西村は考えます。 この西村の理解に従うと,支援者という言葉には特別の意味はないことになります。 4、 しかし,【支援者】という言葉には特別の意味はなくとも,全ての知的障害者・児は一生何らかの援助を必要とするのですから,知的障害者・児に関る人は,【支援者】であることを自覚し,【支援者】であることの意味を学習し,【支援者】として自分を位置づける必要があります。その意味で【支援者】という言葉は,支援をする方の意識を明確にします。 5、 【支援者】という言葉は,社会に参加をし,社会のメンバーとして活動をしたいと願っている人(これが新しい障害の定義です。なお我々の知っている障害の定義は,機能障害→能力障害→社会的不利という説明がされてきました。後日詳細に説明します)が,その尊厳を奪われることなく,社会に参加することを可能にする人的スタッフをいいます(物的なものは,エレベータ−,点字ブロック,文字放送,手話,段差の解消,ルビ等をいいます)。スタッフとは特別の技能を有する場合もありますが,特別な技能を有していなくとも,心の壁がない人であればなれます。 ウレシパ日誌第92話(ウレシパ作業所・清田区北野3条2丁目7−18・電話・ファックス011−886−1691)には,ある親子が「あのデブたち,すごいね」と食事にきた自閉症のエースケさんを大きな声で言い,指指しをしたケースが書かれており,エースケさんのお母さんが「あなた達,なんて失礼なことをするのですか」とその親子に言葉を返す場面が記載されています。このエースケさんのお母さんは,西村のいう【支援者】です。このお母さんには専門家がいう技術はないかもしれませんが,心の壁がなく,当たり前の支援を当たり前にしています。 6、 後見人とは,すでに説明したように,被後見人の財産を管理するのがそのメインの仕事であり,療育(身上監護といいます)については,契約に関する仕事をするだけです。勿論,学校や職場(作業所・通所施設)や病院への送迎をしたり,自宅で食事や洗濯の世話をしてはいけない訳ではありませんが,それは後見人の義務,責任ではありません。 7、 【後見人】と【支援者】は,以上のような違いがあります。だから,【後見人】にはなれるが【支援者】にはなれないだろうという人は,弁護士や司法書士です。弁護士さんは裁判所の選任によって【後見人】になりますが,上でのべたような支援はできないでしょう。何故なら,障害当事者を全く知らないからです。他方多くの親は【支援者】です。もっと知識や技術をもった方がいいと思われる方もいますが,愛情豊かな(支援の中で1番重要な考えは愛情と信頼です)親は【支援者】の第一人者です。また親は【後見人】になれます。【後見人】になれば,親は【後見人】として息子や娘(被後見人といいます)の財産を管理するため,財産目録を作成し,預貯金通帳を管理し,年に1回は裁判所に財産状況,健康状態(身上監護のこと)を報告する義務・責任を負います。 【成年後見申立の実例を報告します】 平成13年8月23日(審判)**家庭裁判所 主文 本人について後見を開始する。 本人の成年後見人として,申立人を選任する。 @ これは,平成13年7月6日,西村が申立人の代理人として申立をした「後見開始の審判申立事件」の審判内容です。 A 6月に西村が施設に足を運んで,本人(本人というのは知的障害者のことで,この申立の場合は最重度の知的障害者です)に会いにいきました。そこで,彼の状態を自分の目で見,また職員の説明を聞きました。職員と彼とのやり取りを目にしましたし,西村も彼とコミュニケーションしました。 B その後,主治医に意見書を作成してもらいました。(意見書というのは,本人の能力,障害の程度,障害の内容,判断能力,薬の服用状況等を記載するものですが,弁護士はどういう目的で後見申立をするのか,意見書はどういう意味があるのかを医師に説明するのが普通です。意見書の意味がわかっていない医者もたくさんいます。専門領域が違えば解らないのが普通ですから,医者任せでは駄目です。記載内容については医師の判断ですから,弁護士は関わりません。) C 家庭裁判所に7月6日に書面を出し,その後面談が実施され,8月23日に決定がでました。なお,この事件では鑑定をしていません。 D 西村が依頼者から受取ったお金は30万円です。施設への移動費,日当,東京法務局からの書面の取寄せ,戸籍謄本,住民票,裁判印紙,裁判切手費用と西村の着手金・報酬を含んでいます。弁護士によって費用・着手金・報酬は違っています。あくまでの今の数字は一つの参考例として御理解ください。旭川の施設にいる人だと,日当・交通費を3万円程度追加しますし,函館の施設にいる人であれば,日当・交通費として5万円程度追加します。 |