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【質問9】

 選任された後見人が仕事を適切に行なっているかチェックするシステムを教えてください。
【質問9に対する回答】

 後見人は裁判所によって選任された人です。裁判所による監督がある他,後見人を監督する後見監督人の選任という方法もあります。

@解任(裁判所の監督)
民法846条

  後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求によって,又は職権で,これを解任することができる。
A後見監督人の選任
民法849条の2

  家庭裁判所は,必要があると認めるときは,成年被後見人,その親族若しくは成年後見人の請求によって,又は職権で,成年後見監督人を選任することができる。
B後見監督人の職務
民法851条
1、 後見人の事務を監督すること
2、 後見人が欠けた場合に,遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること
3、 急迫の事情がある場合に,必要な処分をすること
4、 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること
C複数成年後見人の権限行使の定め
民法859条の2
1、 成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,数人の成年後見人が,共同して又は事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができる。
2、 家庭裁判所は,職権で,前項の規定による定めを取り消すことができる。
3、 成年後見人が数人あるときは,第三者の意思表示は,その1人に対してすれば足りる。


 今回は,条文を羅列しました。条文をよく見ると,「できる」という言葉が多いですね。「できる」とは,あなたが希望するならやってご覧,希望が叶えられるかもしれないよという意味です。そして「可能」かどうかは裁判所が証拠を踏まえて判断をします。つまり,申立などをすれば,必ずその申立が叶えられる訳ではありません。
【回答9についての解説】

1、 後見制度を利用する場合,申立の際,後見人候補を書面に記載しても,記載しなくても,どちらでも構いません。通常のケースでは障害者の親か兄弟が後見人候補として,申立の書面に名前を記載されているようですが,裁判所はその記載に拘束されません。適切な人材を選任されることになっています(民法843条4項)。

2、 裁判所は本人(被後見人のこと)の意見も聞きます。だからと言って,本人の意見に左右されるわけでもありません。何故なら,本人が後見人候補者に騙されて(色仕掛けなど,神奈川で本当にあった),「私はあの女性を信用しています。あの女性は間違いをしません。あの女性は仕事もきちんとします。だから,私はあの人でないと嫌です」と言ったとしても,諸般の事情を考慮して,裁判所は別の人(例えば司法書士,弁護士)を後見人に選任することもあります。

3、 ですから,選任時点で裁判所というところが慎重に判断している訳ですから,国家のお墨付きを貰った後見人は間違いを犯さないはずだと誰もが思います。しかし、実際には間違いを犯します。

4、 どんなに優秀な人でも,どんなに真面目な人でも,状況・場面・環境・人間関係・財産状態・経営状態などによっては,横領行為(自分が管理・占有している他人の財産を勝手に処分・使用・利用することを横領といいます。)を行なってしまうようです。そして,1度間違いを犯すと,それを隠蔽するために,犯罪を繰り返すようです。

5、 ですから,裁判所という国家機関から選任された人間であっても,その人が仕事を正しく行なうために,選任された人が通帳の記帳行為を励行し,領収書・請求書・見積書等の保管といった行為をまめにする必要があります。また利害関係のない第三者によって監督をする必要があるのです。

6、  他人の財産管理は困難です。だから,後見人の場合も,裁判所が後見人に定期的に財産管理状況を報告させるだけではなく,場合によっては,複数の後見人を選任したり,後見人を監督する人を選任して万全を期すのです。
   どうしてそんなに信用できないの,などと言わないでください。「地獄の沙汰も金次第」というじゃありませんか?だから,間違いを防ぐ手段が議論されてきたし,成年後見制度にも規定があるのです。

7、  実際には親や兄弟が後見人になる訳です。親や兄弟の方は知的障害者の財布から金を使った場合,領収を保管していますか?皆さんどうですか?裁判所は後見人になった親・兄弟にそこまで厳格に財布を分離させ,適切に仕事をするように指導するかな?このあたりはこれからの裁判所の報告を見ないと,なんとも言えませんね。

【裁判所のチェックの場合】

1、  後見人は,数ヶ月に1回,裁判所に財産管理について報告する義務があると,後見人に選任されますと指示されます。各地の家庭裁判所によっては,3ヶ月,4ヶ月,6ヶ月と報告の期間は違うかもしれませんが,本来は報告義務があります。

2、  民法846条では,「不正な行為,不行跡」という記載があります。これを発見するのは,まず家庭裁判所の仕事です。ですから,家庭裁判所は後見人に財産管理状態を報告させるのです。
 しかし,残念なことに親や兄弟は,後見人という仕事を十分理解して就任する訳ではないので,まともな報告をしなかったりするケースが多々あります。その結果不正常な状態が放置されます。また本当に問題行動をしている節が見うけられる後見人もいます。
 そのような場合,裁判所は自分で証拠を収集して,後見人の解任をすることができます。
 勿論,親族の方が,解任を申立ることもできます。

【複数の後見人】

1、 財産がある程度ある場合には,はじめから,財産管理の後見人はAさん(例えば司法書士,弁護士),身上看護はBさん(身内の人など)とする方法を採用することもできます。

2、 複数の成年後見人を選任してもらう際,後見人の事務を分掌して権限を行使すべき旨を定めてもらうと,1のようにできます。裁判所の審判があると,その旨が登記され,権限関係が公示(公示とは公にさせるための手段で,取引関係が生じる場合,その登記を取り寄せて,責任関係を明らかにさせる証拠として使用できます)されます。だから,複数の成年後見人がいる場合でも,誰の権限が何かは理解できます。

3、 この方法を採用すると,財産管理は専門家が関与するので安心かもしれません(痴呆状態の親父の後見人として,どら息子が後見人になってしまったケースを考えると,上に述べた方法は安全ですよね。)。

4、 後日このような権限の定めを続ける必要がなくなった場合には,家庭裁判所はその定めを取り消すことができるとなっております。ですから,不安があるときは,複数の成年後見人を選任し,専門家に財産管理をお願いするのも方法です。

【後見監督人の場合】

1、 被後見人が,後見人をチェックさせるために後見監督人の選任を申し出ることができるという規定もあります。

2、 通常は親族が申立をするのでしょう。裁判所が自ら選任する場合もできるというのが規定ですが,私は聞いたことがありません。何故なら,裁判所が自ら選任した後見人が信用おけないというのなら裁判所が職権で解任をすればいいのですからね。

3、 後見監督人の仕事は851条に記載されています。規定の中味からいえば重要な規定だとなるのですが,実際に知的障害者の財産管理で後見監督人が必要な場面はほとんどないと思います。だからさほど重要な規定ではないと思います。

4、 弁護士西村は,情報不足なのでしょうが,後見監督人が選任されているという事実を知りません。よほどの財産を有する高齢者が被後見人になった場合には,後見監督人が選任されるかもしれません。

5、  知的障害者については利用をする場面はないような気がします。ただ,お父さんの財産を相続したようなケースで,不動産の管理など管理することが沢山あるような場合で,後見人のお母さんがなんとなくお人よしというような場合,後見監督人がいた方が安全かな?でもそのような場合,複数後見でことが足りますよ。

【財産略奪の事案の説明】

1、  他人に財産を管理させることはリスクを負担することです。普通の人であれば,他人に財産を管理させたりしません。ただ普通の人であっても,夫婦だと違いますね。妻が夫の印鑑や通帳,カードを自由に使って,乱費するケースなどよくあります。そういうときは愛妻のしでかしたことですから,夫は腹を括るしかありません。離婚訴訟も可能ですが,金は戻ってこないのが普通です。

2、  5月10日の朝日新聞には,介護プランを作成した介護支援専門員(ケアマネージャー)が,高齢者の口座から多額の現金を引き出していたという記事が載っています。ケアマネージャーを監督する会社に責任追及しても,お金が戻ってこない方が多いでしょうね。踏んだり蹴ったりの結果になる恐れがあります。

3、  7月25日の北海道新聞には,根室の養護老人ホームで働く36歳の事務職員は,入所者の預金通帳と印鑑を管理し,入所者の希望に応じて出入金し,台帳に記載する規則の下仕事をしていたが,7年間で5500万円をも横領したとの記事があります。7年間も監督をしていなかった病院理事者らの責任の方が大きいと思います。この場合,相手が病院ですからお金は戻ってくる場合が多いでしょう。

4、  上の記事のケースは言語道断ですが,支援者を名乗っている人たちでも問題のある人はいます。まず,支援者である親が知的障害者の財産と自分の財布を一緒にしているようでは駄目ですよね。そこのけじめを親はしてくださいね。

5、  高齢者でも知的障害者でも,支援者,親など財産管理をしてくれる人,自分の通帳からお金を出し入れする人はいると思います。支援者・親は,必ず領収書を受け取るようにすべきです。レシートは領収書の役目を果たしますから,105円のアンパン代金でも保存しておくべくです。ジュースなどは自販機ではなくお店で購入すべきです(勿論,本人が使うのなら問題はありませんが)。チリも積もれば山になるのですから,奉仕活動であろうと,有償労働であろうと,領収書,レシートを集め,保管することを励行してください。

【まとめ】

1、 財産管理をすることが成年後見制度の中核です。実際には身上看護の方が大事なのですが,まず「銭」なのです。

2、 西村としては,
@ 後見人は被後見人の顔をよく見る関係にあること。
A 後見人自身が自分の生活に追われていないこと。
B 後見人自身が後見人の仕事の重要性を理解できる勉強会(研修)に年に二回程度は参加できること。
C  以上のように自分の役職を常に緊張感を持って行える,そういう仕組みが必要だと思います。

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