平成13年3月30日作成 |
横浜市における知的障害児に対する 位置検索システムの実験(「ここだよねっと」)報告 |
ここだよねっと 横浜支部 |
T はじめに
平成12年度よりの国の高齢者施策として、「家族介護支援特別事業」が始まり、市町村を通じて、徘徊高齢者の位置検索端末使用について、補助がでるようになった。また、武蔵野市、三鷹市をはじめ、高齢者用の機器貸出を決定しているところも多い。しかしながら、徘徊高齢者のみならず、知的障害者を抱える家庭においても、生活の緊張ははかりしえないものであるにもかかわらず、横浜市の障害者、特に知的障害児・者における生活支援事業は手薄と言わざるを得ない状況である。
本実験においては、知的障害児・者、特にコミュニケーション能力に問題のある自閉症児を中心にして、位置検索実験を行い、その有効性について検討している。
U 方法
横浜市在住の知的障害児を抱える10家族に協力していただき、平成12年10月14日より平成13年1月22日まで約3ヶ月間、位置検索末端機器利用モニターとして位置検索器を各障害児に所持していただき、アンケートに答えていただいた。モニターの構成は表1-@〜表1-Cに示した。モニターは「必要とおもわれるひと」ということで募集したこともあり、これが必ずしも、サービスを必要とするひとの分布と一致するわけではないと考えられるが、多くの知的障害児においては、学童期は特に身体の発達及び活動性の活発化と、精神発達及び言語の発達が極めてアンバランスで、保護者にとっての行動管理当事者の安全の確保が困難な時期と一致していると思われる。
表1-@性別
|
人数 割合 |
男 |
7 70% |
女 Total |
3
30% 10 100% |
表1-A年齢
|
3歳 6歳 7歳 10歳 11歳 12歳 13歳 16歳 Total |
人数(人) |
1 1 2 1 1 2 1 1 10 |
割合 |
10% 10% 20% 10% 10% 20% 10% 10% 100 |
表1-B障害の種類
|
人数(人) |
割合 |
精神遅滞(知的障害)を伴う自閉症 |
9 |
90% |
精神遅滞(知的障害) |
1 |
10% |
Total |
10 |
100% |
表1-C 障害の程度
障害の程度(愛の手帳) |
人数 |
割合 |
A1 |
2 |
20% |
A2 B1 B2 持っていない*1 Total |
4 1 2 1 10 |
40% 10% 20% 10% 100% |
*1 低年齢のため、申請していない
V・結果と考察
[1] 行動管理の困難
知的障害児が抱える問題点として、「居場所が解らなくなる」という行動管理および安全確保の困難さがあげられる。特に自閉症児においては、迷子になったという自覚がなく、また、コミュニケーションや人との関わりに大きな問題を抱えているため、自分の帰るべき場所への道を聞くことや自分の名前や住所を他人に告げることが難しい。本アンケートにおいても、表2から解るように、子供の居場所がわからず家族が心配することが週に数回あると答えた人が1名、月に数回あると答えた人が2名、年に数回あると答えた人が5名、全体として8割の家族が行動管理がしにくいというストレスにさらされていることが明らかとなった。また、表3から、居場所が解らなくならないための対策として、迷子カード(名札)を持たせている以外はなにも対策をとっておらず、とれる手段が非常に少ない状況であることが伺えた。
表2 子供の居場所が解らず心配することがあるか
人数 割合
年に数回ある 5人 50%
月に数回ある 2人 20%
週に数回ある 1人 10%
まだない・ほとんどない 2人 20%
Total 10人 100%
表3 居場所が解らなくなったときのためになにか対策をとっているか(複数回答) (人) |
|||||||
|
[2]位置検索サービスの必要性 表4から居場所を明らかにするための対策として、位置検索サービスの必要性を感じている人が全体の9割を占め、このことから、位置検索サービスは高いニーズがあることが明らかとなった。機種の大きさ、形状については、今回使用した通話機能付端末、位置検索専用端末、両者共、大きいと答えた人が多く(表5)、より小型の機器が期待されている。末端を身につける方法は、ランドセルやリュックなどのカバンに入れる、服に縫い付ける、ウエストポーチに入れるなどがあり、そのために、ランドセルやリックに入りやすい薄型のもの、持っていて違和感の少ない軽量のもの、また、腕時計タイプやペンダント型のもの、さらに、防水機能がついていることが望ましいという意見もあげられた。 表4 位置情報サービスにどの程度必要性を感じるか?
表5 2機種の大きさ,形状について
[3]位置検索サービスの料金について 位置検索サービスの料金については表6から基本料金1、980円という金額を適当またはやや高いと答えた人が全体の7割を占め、この金額はほぼ妥当な価格と考えられる。また、同様に表7から検索料についても適当またはやや高いと答えた人が全体の8割であり、検索料についても適当な価格と考えられる。 表6 「ここだよジュニア!」の月額料金についてどう思いますか? (@:使用前 A:使用後)
表7 「ここだよジュニア!」検索料金ついて(100円/回) @:使用前 A:使用後
[4]位置検索末端の公的機関における福祉機器としての貸し出しについて 表8から、位置情報端末を公的機関等が福祉補助器具として貸し出す事を希望している人が、モニター前で100%、また、モニター後でも9割を占め、公的機関への非常に高い期待が寄せられていることが明らかとなった。位置検索端末自体に、高齢者の使用、障害児(者)の使用に対する本質的差は存在しない。これほどの高いニーズがある以上、高齢者だけでなく、障害福祉への適用、それも、その中でも最も手薄といわれる学齢期の自閉症・知的障害児に対する「生活支援事業」として今後、早急に検討していく課題ではないのだろうか。 |
表8 位置情報端末を公的機関等が福祉補助器具として貸し出す事を希望するか?
|
人数@ |
割合@ |
人数A |
割合A |
希望する |
10 |
100% |
9 |
90% |
希望しない |
0 |
0% |
1 |
10% |
Total |
10 |
100% |
10 |
100% |
最後に、今回の位置検索システムの実験はPHS端末機能を用いてのものであったが、検索時においてPHS用アンテナの密集している街中での誤差は少なかったが、場所によっては、700m〜800mの誤差が生じ、また、検索中に被験者の移動により、検索不能となる場合がある等、機器の精度の向上を望む声が多く、PHSの検索だけでなく、GPS等を含めた他機器等もあわせて検討していくことが望まれる。