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基準該当事業所の可能性 =たこの木通信 付録= 岩橋 誠治 【その1】 2006年6月20日 多くのヘルパー派遣事業所は、都道府県の居宅介護事業所の指定を受けヘルパー派遣を行っています。指定を受けるためには、様々なハードルがあります。 例えば、「法人格」や「派遣時間数やヘルパーの数に応じて資格のあるサービス提供責任者の確保」「常勤職員」等々。それらは、不特定多数の利用者に派遣を行う場合には ある面必要なことと思います。しかし、重度身体や知的さらに精神の方々にとっては、一般的な介助方法や「障害」に関する専門知識ではなく、利用者とってはその人自身の生活や考え方があり、その人自身に応じた特殊な介助や支援・関係性が重要で、当事者にとっては 必ずしも指定事業所の要件が整っていれば有効な事業所と言うわけではありません。 逆に、一般的な介助方法や専門知識は当事者の暮らしを規制してしまったり、当事者自身が必要とする支援が何かを常にヘルパーに伝え続けなければ有効な介助を受けられないと言うこともしばしば起こります。しかし、要件を整わなければ派遣はできません。 自立支援法ではこの専門性やヘルパーの資格がますます強調され、地域で暮らす当事者にとっては益々住みづらくなってきました。 そこで、そのような状況を補完する一つの手立てとして「基準該当事業所」の果たす可能性をともに考えてみたいと思います。 まず基準該当事業所は、その指定要件が各市区で決められるということです。すなわち、各地域の状況やその地域で暮らす当事者の要望を行政自身が捉え、その市区にいる当事者の支援の必要性から市区が事業所を確保するためにその基準を定めることができるのです。 先日、はてなのたねは調布市の基準該当事業所になりました。調布市から日野市の生活寮を利用している当事者のガイヘルを実施するために調布市と協議し承認されました。 市に基準該当事業所のことを聞くと「調布市基準該当事業所は1箇所で、市の理解としては、都の指定要件に至らない事業所と言う程度しか理解していなかった」とのこと。多くの 市区行政は同様の理解だと思う。しかし、今回のケースにおいて、たこの木が当事者からの相談を受け制度利用を勧め、その具体的な実施をはてなのたねが行うと言う流れによって、当事者はガイヘルを利用できるようになった事を、調布市も認識し承認に至りました。 そこで思うことは、たこの木=はてな体制で当事者の要望を実現しようとしていることは、各地域においても、普段当事者とかかわる人たちが当事者の想いを受け止め、その支援の実現に向け基準該当事業所を始めるがすぐにでも可能になると言うことです。 ちなみに、多摩市の基準該当事業所の承認は申請から決定までに要した時間は約10日。調布市に至っては、事後承認と言うことで今月初めから事業を開始しました。(ちなみに都の指定を取るためには法人格の取得も含め半年近くかかる) そのフットワークの軽さからも当事者の今の要望に応えるのに非常に有効な 枠組みであると考えます。皆さんの地域でも始めてみませんか?よろしければ、何なりとご相談にのらせていただきます。 【その2】 2006年7月20日 〜自己実現のためにヘルパー派遣を受けること〜 「措置から契約へ」とのうたい文句で始まった支援費制度。自立支援法になってもその枠組みは変わりません。しかし、どれだけの当事者がこの「契約」と言うことを理解してサービスを受けているでしょうか? 先日、新しい当事者との契約に出向き、契約書並びに重要事項説明書について説明をした上でサインをもらいました。私としてはできる限り当事者に分かるように説明したつもりです。しかし、本人が納得した上でサインをもらおうとすればするほど、説明の時間が長くなり「この苦行を受けなければガイヘルが受けられない」かの様子で必死になって説明を聞く当事者。サインはいただいたもののどこまで理解した上での契約か?立ち会ってくれた支援の方も 私もその疑問は拭い去れず、結局のところ当事者は私という個人を信頼してサインしたの だろうと感じています。 「キャンセル料について」「ヘルパーにかかる経費の負担」「サービス利用の1割負担」 「守秘義務について」等々。当事者に分かり易く説明するために具体的な話を持ち出しつつも、まだ利用したことのない当事者にとっては、実際に自分が遭遇してみないことには理解できないことのように思います。 そこで思ったことは・・・ 契約書の各項目にチェック欄を設け、契約時に当事者が「理解できたところにチェックを入れ仮契約とする。その上で、実際具体的なサービス利用の場面を通じて当事者とやり取りを重ね納得のいった事項にチェックを追加する。すべての項目に本人が納得したところで正式な契約書とする。と言うのはどうだろうか? 契約の出発点が当事者と事業所の信頼関係から始まるならば、その信頼に応えてやり 取りをすすめる。いわゆる事業所ならばそんなことはやってられないと思う。しかし、小さい 単位の基準該当事業所ならば、その人の状況に応じてお互いが積み重ねていくやり取りもおり込んで当事者の想いを実現する派遣が可能になるのではないだろうか? これまで、一方的にサービスを与えられてきた当事者が、いきなり「契約」と言われても 理解できないのは当然で、「契約」が成立しなければサービスを受けられないと言うならば、基準該当事業所が実際の派遣を通じて「契約にいたる支援」を行うことも必要だと思う。 そして、それは契約を介して始まる関係の事業所ではなく、そもそも当事者との関係性がある中で始める基準該当事業所の役ではないかと思う。(もう一つの手立てとして、当事者一人一人にあった契約書を作ると言う手もあるが、そうすると、他の事業所との契約はかえってやりにくくなるので、どこの事業所でも使っている契約内容を当事者とともに納得できれば広がりが持てるのではと 思う) 【その3】 2006年8月20日 〜自己実現のためにヘルパー派遣を受けること〜 4月以降事業所に入る単価が下がり、10月以降さらに単価が下がる。又、ガイヘル派遣は地域生活支援事業として市の事業になり、こちらの単価は各市ごとに決められる。早い 対応の市はすでに時間単価やガイヘル派遣の内容を示し始めているが、単価については ホームヘルパーよりも低い単価になっている。 各事業所は、単価が下げられたことによってヘルパーへの時給を下げたり、たくさんの 派遣をこなすことで経費を生み出そうと努力している。しかし、どちらも、利用者から見れば質の低下を招くことは必死で、まだまだガイヘル活用法を身につけていない利用者は、「そんなガイヘルなら使わない」と露骨に言わないまでも、利用を控えるようになるかもしれない。 (現に時間当たり数十円の負担金が気になり、4月以降利用しなくなった人もいる) 事業所も経営と言う点では市場論理に乗っからなければならない面もあるのだが、お客さんである利用者の方が頭を下げて利用すると言う市場は他にはない。しかし、現実利用者の方が弱い立場にある限り、単価が下がり事業所が厳しくなればなるほどその構造は露骨に生まれてくる。「もう利用しない」で住む人はよいが、ヘルパーがいなければ生活が成り立たず、施設入所を余儀なくされてしまう人にとっては、頭を下げてでも利用せざるを得ない。 そこで、そんな市場論理はどこかへ追いやって、もっと当事者に近い人たちが当事者と ともに歩むための道具として基準該当事業所を活用するのはどうだろうか? 一般事業所は、利用者のことを知ることから派遣を行う。初めての人や様々な困難さを抱えている人に対しては、多くの時間を費やさなければならない。しかし、身近な人であれば、すでに利用者との関係性はあるし、日常のやり取りから本人の要望も受け止めやすい。だからといって、その人の派遣すべてを事業所として果たす必要はない。明らかな派遣内容についてはすでにある一般の事業所を活用すればよい。一般事業所の方も、なんとなくの要望は受け止めにくいし、家族からの情報を得て派遣しても、実際家族を離れた利用者は新たな側面を見せ、事業所やヘルパーを戸惑わせる。故に、家族からは1歩離れ一般事業所に1歩近づく基準該当事業所は、当事者の要望を実現するための様々な手立てを生み出すように思う。この状況下、事業所に登録して身近な人のヘルプをやっていた人は、ぜひ基準該当事業所を始めるべきである。それから、一般の事業所に勤めるヘルパーの中で、想いをもってヘルパーとなった人も少なからずいると思う。しかし、時給が下がり数をこなさなければならないとなると、当初の想いをはずれ、「こんなはずではなかったのに…」と思っているかも…。ヘルパーの側も自らの想いを実現するために事業所を起こせば、もっと当事者に近いところでの支援が行えるのではないでしょうか? 市が認めればすぐにでもできる基準該当事業。単に、都の指定を取れない事業所という否定的な発想ではなく、より当事者に近い存在としてその活用を考えて見てはどうだろうか? 【その4】 2006年9月20日 〜行政と協働する基準該当事業所〜 基準該当事業所は、指定事業所とは違い各市区が設けた基準により市区が認めた事業所が事業を行えるということは再三お伝えしてきた。すなわちそれは、事業所の直接 監督責任は市区にあるということになる。 監督責任といえばどこか仰々しいが、基準該当事業所は、常に市区とやり取りすると言う事になる。それが単なる事業所だけなら、毎月派遣実績を市に請求するという点で、指定事業所とは変わりない。事実「指定事業所の要件を満たしていない事業所」としか考えない市は、「同じ手続きなら早く指定事業所になれ」と催促してくる。 しかし、この間語ってきたようにより当事者に近い存在としての基準該当事業所を目指せば、実際の派遣内容を市に対し伝えることはたやすくなる。なぜなら、あまたある 事業所の中で「市が認めた事業所」と言う立場を強調し、事業所は利用者の派遣現場を 行政に知らしめ、市はその内容を聞く責任があるのだから、これはかなり有効である。 10月以降本格実施される自立支援法における知的移動介護について言えば、(移動介護は基準該当事業所でなくなる)はてなのたねが個々の当事者に則した派遣を行う事を「当事者支援」と言う視点でその実績として派遣現場の実例を各市に伝え、10月以降の枠組みを市に提案してきた。個別に動ける事業所でなければできない派遣を通じ、様々な当事者の可能性を伝え、それが制度としてきっちりと位置づけられるよう市に対して新たに始まる制度に対し弊害となる枠組みは削除を求め、実践と通じて使い勝手の良い枠を提案してきた。 移動介護は「市の実情に則して実施できるように・・・」と書かれてはいる、しかし利用者の実情を誰が伝えるか?又、制度を実際に使わなければわからない知的当事者にとって、その実情を誰が訴える事ができるだろうか?個別のケースを市に訴え、市はそれを聞く義務のある基準該当事業所と言う関係は非常に有効であると考える。 基準該当事業所にやさしい(?)多摩市は、はてなのたねや他の事業所の実践を聞き、個々の当事者がより当事者主体の利用を可能とする制度にしようと少なからず努力している。しかし、基準該当に厳しい市においては、個々のケースをあまり知らず、どのように制度(国の定め)にあわそうかと躍起になり、矛盾だらけの自立支援法の10月以降の実施に四苦八苦している。 そして、基準該当事業所が多摩市に物申す関係に続き、指定事業所も同様に物申す動きがある。その場合常々行政が危惧する点として「事業所のための利益誘導」と言う点はあるが、行政もそれを避けて通るのではなく、日ごろより基準該当事業所と支援論を戦わせ、何が事業所のための利益誘導で、何が利用者にとっての利益なのかを考えうる力を行政も持つことができるのではないだろうか?その事がすなわち地域で暮らす様々な当事者の様々な支援を生み出すことにつながっていくと思う。 |
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