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「深い障害」のある人たちの相談支援を考える、ことについて 早稲田大学文学学術院 岡部耕典 1.「障害」ってなんだろう? …「深い障害」というまえに ○「障害者」ということばの脱構築 「無力化された人びと(disabled people)」という視座…だれによって? ○社会モデル…(専門家の)認識モデルから(当事者の)運動モデルへのパラダイムシフト @障害(ディスアビリティ)は社会的に構築されており、 Aそれゆえ不利益や活動制約に対する対応社会側の責務である。 ※Aがポイント ・社会モデル(Social Model) (UPIAS(Union of the Physically impaired Against Segmentation 1986) Impairment :手足の一部、または全部の欠損、身体に欠陥のある四肢、器官または機構をもっていること Disability :身体的なインペアメントをもつ人々を全く、またはほとんど考慮せず、そのことによって彼らを 社会活動から排除する現在の社会組織によって生じる不利益、または活動の制約 ・ICFが社会モデルと異なる点: 障害(Disability)の生成過程における「社会的価値」の関与や、ある社会的状態に否定性を付与する際の基準点そのものの社会的構築性といった点に焦点をあてない点 【参考】 「医学モデルでは、障害という現象を個人の問題としてとらえ、病気・外傷やその他の健康状態から直接的に生じるものであり、専門職による個別的な治療というかたちでの医療を必要とするものとみる。障害への対処は、治療あるいは個人のよりよい適応と行動変容を目標になされる。」 「一方、社会モデルでは、障害を主として社会によって作られた問題とみなし、基本的に障害のある人の社会への完全な統合の問題としてみる。障害は個人に帰属するものではなく、諸状態の集合体であり、その多くが社会環境によってつくりだされたものであるとされる。(中略)したがって、問題なのは社会変化を求める態度上または思想上の課題であり、政治的なレベルにおいては人権問題とされる。このモデルでは、障害は政治的問題となる。」 「ICFはこれらのふたつのモデルの統合に基づいている。生活機能のさまざまの観点の統合をはかる上で、「生物・心理・社会的」アプローチを用いる。したがってICFが意図しているのは、1つの統合を成し遂げ、それによって生物学的、個人的、社会的観点における、健康に関する異なる観点の首尾一貫した見方を提供することである。」(世界保健機関著・障害者福祉研究会編集(2002)「ICF 国際生活機能分類」中央法規p.18) ケアマネジメントや相談援助に対して社会モデルが求めるのは、「心身機能・構造レベルの判断をする医師や専門家たちから、「活動」や「参加」の主役たる当事者がどうやって「同等に発言をする」ことを担保するのか、ということである。 2.「ケアマネジメント」ってなんだろう? …「相談支援」というまえに ○ケアマネジメントとは? ケースマネジメント…「複雑で重複した問題・ニーズをもつ利用者(クライエント)が適時に適切な方法で必要とするサービスを利用できるように保障することを試みるサービス提供の一方法」(Rubin,1992. Case Management p.12) ケースマネジメントは、効果的・効率的な統合的サービス供給のシステムづくりと実践方法を探究する行政のプロジェクトとして、1970年代にアメリカで登場し、定着していった。(最初は精神障害者の分野、80年代からは高齢者へも広がる) ○利用者志向モデルとシステム志向モデル 利用者志向モデル…「地域における利用者の自立支援をめざし、ニーズに適合的なサービス活用の促進というアドボカシーや、利用者の自立のための能力および技法の獲得支援というケースマネジャーの役割を強調した利用者にフレンドリーなケースマネジメント・モデル」 システム志向モデル…「地域を基盤とする諸サービスの統合的供給によって、安易な入院・入所を回避したり、その期間を短縮するよう、ケースマネジャーにゲートキーパーや資源配分の役割を相対的に強く期待するモデル、つまり、費用抑制を図る新しいサービス供給システムの構築と発展をめざすケースマネジメント・モデル」(副田あけみ,2005.「ケアマネジメント」.久保紘章・副田あけみ編著「ソーシャルワークの実践モデル」p.159) ○整理:ソーシャルワークの視点からケアマネジメントを再検討する ・ソーシャルワークにおけるクライエントと資源を結びつけることの重要性 ・そのための「技法」としてのケアマネジメント(ケースマネジメント) ・ソーシャルワーカーが「利用抑制」(ゲートキーパー)の役割を果たすのか、「利用支援」(アドボケイト)の役割を果たすのか? ・ケアマネジメントが、システム志向に用いられるのか、利用者志向で用いられるのか? ・「両者の調和」は実現可能?…イギリスの公務員ケアマネジャーのバーンアウト/支給量調整(抑制)を「要介護認定」に委ねる日本の介護保険 3.そして…「地域移行」ってなんだろう? ○西駒郷における地域移行 残された課題1:「障害の重い人たち」への地域での暮らしのしくみをどのように用意するのか 「意思表示困難なひとたち」(強度行動障害者・最重度知的障害者)への生活体験 ・122名のうち家族の同意がとれた102名に実施) ・結果…「重度者向けグループホーム等へ9名が移行」 残された課題2:「地域移行が困難な人たち」は重度障害者ばかりではない 「3年以内に『触法行為』があった人が20名程度いる。(うち3〜4名は頻回)すべて障害程度区分1ぐらいの『軽い人』…『水位(入所者の数)』が下がると、こういう人たちが、『池の底のゴミのように』浮かびあがってくる」 ※最終的に残る(新築される)「定員60〜100名の入所更生施設」という問題 4.本人中心のアプローチ PCP (Person-Centered Planning) Person-Centered Approach IPP(Individual Program Plan) ○パーソンセンタード・プランニング 1970年代前半より、北米においておこなわれた発達障害のある人たちへの支援の質を向上させノーマライゼーションを実現するために発展した様々なアプローチの総称。(各地の様々な実践グループによりおこなわれ、必ずしも完璧な統一理論を有するわけではない)1979年には英国にも紹介。 ・PSPの構成要素 ○フォーカス・パーソン ○ファシリテイター ○ミーティング ○プラン ・各種PCPアプローチの共通の特徴 (Kinscad,Elise2002) より本人中心のシステムに: 支援チームの形式やアプローチの方法を個人や家族の必要(needs)にあわせる(「逆」ではない) 尊厳と理解を高める: 本人に関する情報、本人の主観、将来のビジョンがもっとも重視される 個人の選択や選好を重視する: そのための機会をあたえられるだけでなく、チーム・メンバーがその表明に傾聴し適切に反応することを含む ポジティブな思考を促進する: 本人の積極的思考や将来設計、夢を重視する(障害や不利、困難性に焦点をあてるのではなく) それぞれの創造的な過程を発展させる: それぞれの将来には異なるポジティブな可能性があり、問題の解決や支援の方法はさまざまに異なり、創造 的でなくてはならない(個人を既成の施設や職場、学区などの規定にあてはめるのではなく) 理想を追い求める: 計画の過程ではチームはどんな支援が可能で、なにが積極的な支援であるかを考える。そして、皆が将来の 夢の実現のために最善を尽くしたら、どのような素晴らしいことができるだろうか、と問いかける(つねに現在の 環境のほかにどんな選択肢があるのか、将来の夢を達成するために理想的な支援とはなにかを考える) 地域の資源を利用できるようにする: 特殊な(新しい)社会資源ではなく、すべての地域住民が利用できる社会資源の活用をまず考える(ノーマライ ゼーション&コストも割安となる) 支援学習と成長: (本人だけでなく)他のすべてのメンバーも、支援する本人の目標達成のためにお互いに新しい考え方や行動を 学ぶ学習者である 参加者のエンパワメント: 個人やその家族そしてチーム・メンバーが、これまで考えられた将来設計とは異なる選択肢を探求する力 (power)を与える(自己の将来に関する選好を表明し、他人との協力のしかたを学び、積極的な可能な可能性に 向けて自らリーダーとなる力(power)) ・各種PCPアプローチの共通の目標 (Kinscad,eLise2002) 地域生活に参加し所属する: 障害のある人が他の市民と同様に自分の住む地域の一員となる 満足のできる人間関係を形成し維持する: 家族や友人、地域住民や恋人と満足のいく人間関係を維持する 日常生活で、選好を表明し選択ができる: どのような生活を望みどのようなサポートを必要しているかを表現できる 尊厳ある役割をもつ機会を享受し、尊厳ある生活を送る: 地域に貢献し人間として価値の高い役割を果たす(尊厳をもって行動し、尊厳をもった扱いを受けることを含む) 個人の能力を継続的に伸ばす: (PCPを通じて)成長や発達できる分野を発見し、(チームの支援により)チャンスを生かし、自分で自分の生活の コントロールができるようになる ○IPP(本人中心の計画) ・PC−IPP (Person-Centered Individual Program Plan) 「本人中心自立支援計画(北野誠一)」 IPPとは、本人と家族のニーズ、および選択を記述したもの 個別的ニーズの決定プロセスを通して作られ、本人と家族を中心とする取組みを具体化させる リージョナルセンターのサービスを利用する人はだれでもIPPを作成しなくてはならない IPP作成のプロセスは、PCA(本人中心の方法)をもちいて作られる PCA(本人中心の方法)は、発達障害をもつ人とその家族に、どこで誰と住むか、誰とつきあうか、自分の時間を どう過ごすか、どんな仕事をするか、およびその他の日常生活の場面で選択する機会を提供する ・IPPの構成要素 利用者(consumer) 計画チーム コーディネーター リージョナルセンター サポートの提供者(supplier:事業者) 支援サークル(circle of support) ←地域のナチュラルサポート ・IPPのプロセス 申し込み⇒ アセスメント ⇒計画会議 ⇒ゴールと目標の設定 ⇒エンタイトルメント (受給権の獲得) ゴール(goal)::どこに住みたいか、どんな仕事につきたいか、どんな余暇活動に参加したいのか等についての 多岐にわたるステートメント 目標(objective):ゴールに向かっての具体的な期限付きの活動 ※目標には、希望する成果に向かっての進捗度合いを測る条件とサービス提供のモニタリングが条件となる。 例) ゴール=「家の近くのレストランで働きたい」 目標 =「毎週1つのレストランの求人票をだし、それを6週間続ける」 ○PC−IPPとケアマネジメント 「ケアマネジメント」との比較 (日本で一般的な)ケアマネジメントの定義: 「対象者の社会的ニーズを充足させるため、適切な社会資源と結びつける手続きの総称」(白澤1999) PC-IPP 「ケアマネジメント」 【視 点】 コミュニティサポート コミュニティケア 【対 象】 生活(全体) (主として)ケアサービス 【キーワード】 CHOICE(自己決定) 客観的な「ものさし」(要介護度) DREAM(夢・希望) 「現実」 【方 式】 セルフマネジメントの重視 専門家によるマネジメントの優位 話し合い(negotiation)中心 専門家によるケアプラン作成 ゴールと目標 ケアプランの実施 ※発達障害者の脱施設と地域自立生活の実現のために開発されたカリフォルニアのPC-IPPと、 介護サービスの民営化を担保するために導入された日本のケアマネジメントの違い ○英国における「本人中心のケアマネジメント」の実際 「障害者からみたコミュニティケア」 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0826-2c1.html 「障害者(児)の地域生活支援のあり方に関する検討会」小川喜道委員提出資料/2003.8.26. ・アセスメントとは何か(ロンドン・ピープルファースト) たくさんの質問がされる。例えば、何がうまくいっているか、どんな援助が必要か、生活する上で何が望みか、など。アセスメントとは、生活の一つひとつの場面で何が必要で何が望みかということを、多くの人が話し合う場とも言える。 ・アセスメントの過程(ロンドン・ピープルファースト) (1) 申請 まず、あなた自身か、あなたを最もよく知っている人が申請の書類を作成する。そして、待機リストに載る。もし受付のワーカーがもっと詳しくたずねたいことがある場合に、別のワーカーとの会合が持たれる。 (2)アセスメントの実施 あなたやあなたをよく知っている人が、何が必要な援助なのか、などについて多くの質問を受ける。 (3)アセスメント・ミーティング アセスメントを担当するワーカーがあなたを援助するのに多くの分野が必要だと考えた場合は、あなたのニーズについて話し合う少し大きな会合を組む。そして、あなたを知っている人たちが、話し合いのため集められる。 (4) 報告書 この報告書は、あなたが必要な援助は何で、どこで受けるかなどについて書かれている。 (5) ケアマネジャー サービスを必要とする人は、それぞれケアマネジャーを持つ。あなたのケアマネジャーの仕事は、あなたが必要とするサービスを得られるようにすることである。 ・ケアプランニングとは …(英国知的障害者協会、ロンドン・ピープルファースト) アセスメントの結果をもとに個別のケアプランを作る。通常、ケアマネジャーの調整により、会合がもたれる。この会合は、障害者、介護者、その他関係者が出席する。 この会合には、障害者が中心に置かれるべきで、障害者のニーズと要望を協議する上できわめて重要である。この会合の結果は、ケアマネジャーが次の段階で確保するためのサービスを決定することにつながる。 ケアマネジャーは、障害者が望むことや必要な援助を実現するよう、障害者と共に働く人のことであると定義している。そして、人によっては援助に協力的であり、また人によってはその逆ということもある。 まとめ:「地域移行」を「ハコのない施設」にしないために… ○「必要(ニーズ)という名のパイ」は、「話し合い」で分けよう ・よく話を聴き(傾聴:active listening)/想いを致す(共同主観的共感)、 ・(一方的な「相談」「助言」ではなく)よく話し合い/協議(negotiation)する ・そして「これからいっしょになにをするか」について一緒に決め(共同意思決定)、 ・決めたこと(それぞれの「自己決定」)には、責任をとる(take responsibility) (当事者は自分の人生を賭け、援助者は自らの「専門性」を賭ける) そのために必要な信念(core belief) ・「利用者本位」のための欠くことのできないプロセスとして「交渉」や「運動」を忌避しない ・どんなに重度の人でも「夢」はあり、「自分のしたい暮らし」を選ぶことができる ・「相談援助の専門家」の役割は「もっとも地域生活が困難な人の地域生活の実現」である ○「相談支援」の脱構築から再構築へむけて 「給付調整」というものにおいて本来求められるのは、利用者それぞれの〈必要〉を給付として実現する適切な〈必要〉の判断基準の在り方とそのためのメカニズムであることをまず確認しておこう。 そして、障害の分野における「交渉」や「運動」を通じて、市町村のケースワークの現場で培われてきたのは、まず利用者の生活の場への訪問であり、そして利用者と対面しつつその生活やその困難さの実情、さらにその夢や希望を汲み取ったうえで、限られた「財布」と利用者の「訴え」のすり合わせをおこなうという共同主観的/相互作用的な営為であったはずである。 しかし、障害者自立支援法における障害程度区分を中核に据えた給付調整においては、「共感」や「話し合い」のプロセスに基づく合意形成は軽視され、〈必要〉を訴えることと、共感し認めることの間の相互作用は機能不全に陥っている。 となれば、今求められているのは、制度利用者の<必要>に対する応答性と予算・決算責任を中心とする行政当局の応責性のバランスをとり、個々の利用者の〈必要〉を集合的な〈割当〉に可能な限り反映可能とする双方向性のシステムへと押し戻す(「公正中立」ではなく当事者に寄り添い/抗いつつ支える)アドボケイト/支援者ではないのか。 では、以下のような「言説」にどのように対抗しそれを組み替えていくのか(参考) 「障害者のニーズは多様なため、一律の区分を設けず、社会福祉専門職または審査機関に公的な決定権を付与して 決定する方法が福祉先進国では一般的であろう。しかし我が国では、そのような人材育成もされていないし、資格制 度も未熟である。また地方自治体による知的障害者理解が進んでいない。このため、全国共通の要介護認定を設け る必要がある。ただし今後、このような判定をおこなう社会福祉専門職やケアマネジメントのしくみをつくりあげていく 必要がある。」 (柴田2008) ○「相談支援」の再構築へ向けた論点整理 ・社会モデルに基づくアセスメント ・アドボカシーを中核に据えたソーシャルワーク ・「話し合い」と「合意形成」を前提とする給付調整 ・制度利用者に対する応答責任と〈必要〉に基づく予算/計画の構築 ・「運動」に対する正当な評価と政策決定過程へのビルトイン ここに、今再び閉まりかかっているドアがある。 そこに、何度でもつま先をこじ入れ、そして、開くまで闘うこと。 |
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