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「重度訪問介護」をつかわせて〜  その1
      =たこの木通信235号=


                                                            寺本晃久


◎類型の乱立と細分化

 知的障害の人が使えるヘルパーの制度には、「身体介護」「家事援助」「移動支援」「行動援護」がある。
 「身体介護」というのは、入浴や着替えや食事介助といったものが典型で、直接体に触れるような内容の介護類型。「家事援助」は、調理や掃除や身近な買物などの、家の中の家事を回していくための介護類型。「移動支援」は、目的地へいくのに安全を保ったり、道順を間違わないように支援したり電車などにのるときの切符を買ったり、余暇などに参加するなどの介護類型。この他に、定期的に病院にかかるときの送迎は「通院介護」という別の類型もある。

 2003年の支援費制度からこうした類型が制度化され、知的障害をもつ人や児童にも初めて全国レベルでの介助の枠組みができた。

 しかし、「家事援助」や「身体介護」は、目的と時間が限定されている枠組みである。2006年からの自立支援法においては、さらに家事援助1.5時間、身体介護3時間という「標準時間」がもうけられた。
 地域生活・自立生活は、介護のスケジュール通りにはなかなかいかない。その時々によって必要なこと、したいこと、したい時間はさまざまなはずである。「今日は天気が悪いから外出はやめて家の片づけをしたい」ということは、障害あるなしに関係なく、よくあること。同じヘルパーが目の前にいるのに、「今日のこの時間は、介護計画では身体介護しかできないから〜」というとすれば、ヘルパーを使う側からはなぜしてほしいことができないのかは理解できないはずだ。理解することが難しいから“知的障害”だし、理解は出来たとしても、制度やヘルパーの枠組みに生活の方をあわせなければならないとしたら、生活自体ばからしくてやってやってられなくなる。
 介助を派遣する事業所から見ても、30分きざみで、身体介護、家事援助と単価がことなり、ヘルパー3級などの介助者が入ったときはまた別の単価で、18時までなら「単一」でこの単価、17:30から18:30なら「合成」の単価です、時間が長くなると「増分」だとかで、介助と介助の間を2時間あけないとなんたら、移動支援は市によってやり方がまちまち、しかも市によってやれることが細かく制限されてたり、などなど、わかりにくく事務作業がとてもむずかしくなっている。それを逐一チェックする市役所の人の人件費も相当なものだろうと思う。

 普段は親と同居していて親が時々介助できないときにヘルパーを使うとか、いつもはヘルパーを利用していないが「この日に必ず通院する」のでヘルパーを頼むとか、毎日夕食だけつくってくれればあとは介助はいらない、などであれば、こうした目的別・時間限定の介助類型でもよい。

 しかし、地域での自立生活をする場合で、長時間の支援が必要な人にとっては、細切れの介助派遣や、細切れの支給時間の積み重ねではとても使いにくくなってしまうし、必ずしも家事や身体介護という枠にはまらない、生活全体の支援が必要になる。

 外出時在宅時問わず常時の危険回避が必要な場合や、必ずしも常に直接的な介助をしているわけではないけれどもいつ介助が必要になるかわからないために介助者がそばにいることが望ましい場合や、一定の時間をともにすごすことでお互いを理解し安心してさまざまなことができる場合もあるし、また、コミュニケーションに時間をかけることが必要な場合、などもある。そういった、家事援助や移動支援に限らない様々なことに対して、必要なときに必要なだけのサポートを受けられるとよい。

 目的を限定されずに必要なことができる枠としては、「行動援護」という枠が利用できるが、自傷他害などがある人しか支給決定できず、1日あたり最大5時間しか使えない。また、介助者も、2級ヘルパー資格の上に、さらに新たに義務づけられた行動援護研修を受けた人でなければ行動援護のヘルパーができない。

 そのため現行では、一定の長時間介助が必要な人は、たとえば家事援助の時間数をのばして支給決定を受けたりするのだが、制度の趣旨としては例外的な使い方にならざるをえない。利用する側も、全体の介助量を確保するためにしかたがなく例外的な使い方をしており、望んでそうしているわけではないだろう。例外的な支給決定なので、常に介助の量が減らされかねない状況にさらされることになる。また、確固とした制度の裏付けにとぼしいため、どこの町でも当然のように受けられるわけでもないだろう。

◎重度訪問介護を開放できないのか?

 全身性の身体障害の人については、「重度訪問介護」という枠の介助制度がある。

 支援費制度では「日常生活支援」と呼ばれていたものが自立支援法においてひきつがれたもので、基本的には1回あたり4時間ごとでの支給決定で、家事援助・身体介護・見守り・外出など時間や目的に関係なく利用できる。毎日8時間から24時間の長時間介護を受けて自立生活をしている身体障害のある人は、まずはこの枠を使っている。

 たとえば今年2月の厚生労働省からの事務連絡では、制度の趣旨としてこのように書かれている

「重度訪問介護は 日常生活全般に常時の支援を要する重度の肢体不自由者に対して身体介護、家事援助、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援及び外出介護などが、比較的長時間にわたり、総合的かつ断続的に提供されるような支援をいうものであり、その報酬単価については、重度訪問介護従業者の1日当たりの費用(人件費及び事業所に係る経費)を勘案し8時間を区切りとする単価設定としているものである。」
 この制度の対象者の中に、ひとこと、肢体不自由者に限定しない旨を書き加えるだけで、上記のような課題の多くの部分は(少なくとも制度上は)解決できてしまうのではないか。

〜つづく〜


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