2001年11月1日 武蔵野障害者総合センター(東京都武蔵野市)

コミュニティにおけるセルフアドボカシー&エンパワーメント
〜地域でおこなう障害者権利擁護の実際〜


ナンシー・フィッツシモンズ-コバ博士 (ミネソタ州立大学マンカタ校)
通訳 斉藤明子氏
主催 心のバリアフリー市民会議    P&A JAPAN 研究会
後援 東京都社会福祉協議会 武蔵野市民社会福祉協議会 三鷹市社会福祉協議会 武蔵野福祉公社


講演内容 パワーポイント はこちら

 障害者の権利擁護を地域で実践するための様々な問題意識に基づく一連のセミナーを開催するために、ナンシー・フィッツシモンズ-コバさんが、米国より来日しました。P&A JAPAN研究会が招聘元となり、セミナーの企画運営は、今年7月に、シカゴにてナンシーさんを講師とした「立ち向かおう!〜障害者虐待防止プログラム」のインストラクター養成講座を受けた各地の参加者が協力して行ったのです。

 心のバリアフリー市民会議は、その一番手として、11月1日に「コミュニティにおけるセルフアドボカシー&エンパワーメント〜地域でおこなう障害者権利擁護の実際〜」と題し、地域権利擁護の実践活動に焦点をあてたセミナーを開催しました。

私たちは、地域で障害のある人があたりまえに暮らしてゆくことのできるまちづくりをめざす市民団体です。しかし、その実現の前に大きく立ちはだかるのは、障害のある人に対し生活のあらゆる局面でおこる人権侵害・権利侵害です。それなのに今の日本における障害者権利擁護のためのしくみは、財産管理と契約保護のための成年後見制度、生活支援の色合いが強い地域福祉権利擁護事業しかありません。専門家が当事者に一方的に援助したり相談をうけたりするのではなく、当事者主体でエンパワメントの視点から取り組むとか、市民や関係者のなかに権利擁護支援者(アドボケ―ト)のネットワークを作り、地域の障害者権利擁護を支える力(福祉力)を高める取り組みの必要性は痛感しても、その方法は手探り状態でした。

 こういう状況のまま、2003年から「契約の福祉」が始まると、ひとりひとりの障害当事者が、今以上に、権利を行使ができなかったり、差別、虐待にさらされてしまう!なにか具体的な構造をおこしたい・・・この大きな危機感が、今回のセミナー開催の動機となりました。

 このテーマに、ナンシーさんは、米国イリノイ州における「立ち向かおう!プログラム」の実践活動を紹介しながら正面から取り組んでくれました。障害当事者がインストラクターと参加者の中核となって地域のみんなを巻き込みながらワークショップ(少人数での体験的演習)を開き、障害当事者自身が知識と自信を得てエンパワメントされ、セルフ・アドボカシー(自分自身が力をつけ、権利侵害をはねつける)の力を身につけるという、新しい形式の権利擁護の取り組みに、私たちはひとつの大きな可能性を見出したのです。

 ナンシーさんは、パワーポイントを駆使し、ハンドマイクを手に聴衆の間に分け入って、身振り手振りを交えながら熱く語ります。当初予定数をはるかに超える参加者が熱心に耳を傾けます。地域の福祉行政職、社協、福祉関係者、当事者、そして親、弁護士や福祉関係の市民グループの代表者など.狭い障害福祉の枠を超えた様々な顔ぶれが、今回の危機感が私たちだけでのものでないことを裏付けています。

 斉藤明子さんの的確な通訳を得て、権利擁護における地域でのアドボケ―トネットワークの果たす役割、イリノイ州における「立ち向かおう!プログラム」の経験、セルフアドボカシ―とエンパワメントが障害者の人権侵害(虐待・放置・金銭搾取)に対抗する手段として注目すべきであることなどが、判り易く説明されました。

 代表的な感想は以下のとおりです。
「体温が直に伝わってくるセミナーでした。今日はたくさんのお土産をいただいてお腹一杯です。」「市民一人一人の直接のつながりと体験を伴ったネットの力を感じました。非常に具体的で実効性のあるものと感じました。」「ナンシーさんから元気を頂いたことはもちろんワークショップを創り出し、展開しているプロセスと障害当事者が中心になりながら多様な人たちを巻き込んでコミュニティを耕していくことが1本の線につながったような気がしました。」

翌日以降、11月2日「障がい者虐待防止ワークショップ〜当事者の役割」(東京・全国自立生活センター協議会人権擁護委員会)11月3日「アメリカの権利擁護を体感するためのセミナー〜虐待に対抗するために」(神奈川・P&Aカナガワ)11月6日「アドボカシ&エンパワメントセミナー〜地域で暮らす障害者の現状とセルフアドボカシ―」(三重・名張育成園)と続き、それぞれ大成功を収めました。


 そして、一連のセミナーの終わりは新たな始まりでもあります。私たちシカゴのインストラクター養成講座の受講者は、日本の制度と現実にあった権利擁護ワークショップを開発し、しかもそれを実際に開催することをナンシーさんに約束しています。

 ワークショップ、という日本ではあまりなじみがない形式が受け入れられるのか、また障害当事者をインストラクターと受講者の中心とするワークショップをどう構成していったらいいのか、特に知的障害のある当事者を交えてどう取り組んでいったらいいのか・・取り組み甲斐のある課題が山積しています。このために、イリノイ州でのインストラクター養成講座の参加者で、今後実際に地域でワークショップを開催する意欲をもったメンバーが中心となって情報交換グループを作りました。その名を「ジョイント広場」といいます。ホームページを作り、メーリングリストを中心に情報交換しています。P&AJAPAN研究会の協力を受けながら今後のワークショップ開発と実施を行っていきたいと思っています。各地でのワークショップの実施に関心のあるかたのメーリングリストの新規参加も大歓迎です。ジョイント広場ホームページからどうぞ。


 実は、ワークショップの実践は、すでに始まっています。2001年9月15・16日の滋賀におけるワークショップ10月7日の秋田におけるワークショップです。いずれも、シカゴの仲間で、全国自立生活センター協議会人権擁護委員会のメンバーのひとたちがチーフインストラクターを務め、そこに社協職員、施設職員、そして私のような親などがサポートに入り、知的障害含めた当事者の人たちを中心とし、ボランティアや一般市民も参加者としたワークショップを障害の種別と立場を超えて開催しました。


 今後とも全国自立生活センター協議会主催のワークショップを継続するとともに、より知的障害のある人をインストラクターや参加者として意識した研究ワークショップなどを企画しており、ピープルファーストなどの当事者団体との相談や連携も進行中です。東京だけでなく、神奈川や三重、大阪等でも同様の計画があります。.

 シカゴで同じ養成講座を受けた時から、行政、福祉関係者、弁護士、自立生活運動、親の会、市民活動等々様々の立場を超えた大きな交流とうねりが始まっています。それは時にぶつかり合い、励ましあい、文字通り泣き、笑いながら、困難を超えてナンシーさんのセミナーの実現とワークショップの開催に向けて進んできました。ワークショップ自体のありかたと同じ、この障害種別・立場を超えてのつながりが、更に今回セミナー受講者の共感と協力を得ながら進んでゆくなかで、地域における確かな権利擁護実践の母体も見えてくるような予感がしています。

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